第32話 知らなかったこと
ルルたち四人は大きな木の下に向かって降りて行きます。
木についていた扉を開けた先は、はしごになっていました。少し降りたら足場につき、位置をずらしてまたはしごを降りる。もし、落ちても一番下まで真っ逆さまなんてことにならないようにするためでしょう。
「いつ着くのぉ〜〜?」
あまりの長さのはしごにルルが痺れを切らしました。
「もう少しだ、我慢しろ」
ルルの足元からアバンの声が聞こえてきます。
「ずっと同じ景色でおかしくなりそう」
代わり映えのない場所をただ降りていくだけで、何度も同じ場所に来たような感覚です。
「ついたぞ」
一番下を降りていたアバンから到着の声がかかりました。
「やっとかぁ」
安堵の声を漏らし、はしごを降りる速度が速くなります。
「よっと!」
最後の数段を飛ばしてジャンプしました。
すると、目の前には先ほど入ってきた扉と同じ見た目の扉がありました。
「まさか、ここからまたはしごを降りるとかないよね?」
恐る恐る聞きましたがどうやらどうやら無駄な心配で終わったようです。
「大丈夫だ、ここで到着だ」
アバンが扉の取手に手をかけ押しました。軋む音を立てながら扉がゆっくりと開いていきます。
「戻ったぞぉ!」
帰ったことを中にいる人たちに伝えます。扉を開けた先には人影がちらほらと見えます。決して、アバンとクフリだけの組織ではなかったようです。
完全に扉が開くと一人の大きな男が飛び出してきました。
「ルル!! アート!!」
聞き覚えのある声とともにその大きな男はルルとアートを抱きしめました。
二人を強く抱きしめなかなか話してくれません。
「痛いよドルさん」
アートが嬉しそうに笑いながら言いました。
「すまなかった、よく生きててくれた」
力を弱めるどころか、さらに強く抱きしめてきます。彼の顔はたくさんの涙でいっぱいです。
ルルとアートも久々の再会を喜び抱きしめます。
まあ、いろいろな事が起こりすぎて今まで忘れていたことは内緒です。
「もう! こっちまで泣いちゃうじゃない!」
扉を開けた部屋の中から若い女の人の声が聞こえてきます。どうやら、ルルたちを見てもらい泣きしているようです。頭についた耳が彼女の鼻をすするのに合わせ動いています。
「でも、どうしてドルさんがここに?」
再開できたのは嬉しいですが、一つの疑問が残ります。
「わしは、元ハーフの一員なんだ」
「「えぇ〜!?」」
衝撃の告白に二人の空いた口が塞がりません。
「しかも、幹部な」
後ろでニヤニヤしていたアバンがつけたします。
「「えぇ〜〜!!??」」
今まで一緒に暮らしてきておきながら二人ともなにも知りませんでした。
また、二人の口をクフリが閉めました。口閉め係は決定したようです。
「まぁ、ひとまず! みんなでご飯でも食べながら話そうよ! 二人ともお腹すいたでしょ?」
先ほどまでもらい泣きで号泣していた女性が、部屋の中央にある長く大きなテーブルに次々と料理を並べていきます。先ほど干し肉を食べたとはいえ、育ち盛りの二人はまだまだ食べられます。スラムで暮らしていた二人には見たこともないような料理がたくさん並んでいます。
ぐぎゅるるるるるぅぅぅ
二人のお腹からほぼ同時に聞いたことのないような音がなりました。
耳のついた女性は嬉しそうに二人をテーブルの席に座らせ、他の人たちにも早く座るように促しました。
全員が座りその女性が合図をとります。
「それでは! いただきます!」
皆それぞれ、言い終わると食事を始めました。
二人が戸惑っていると、遠慮せずにたべろと行ってきます。
目の前にあった温かい野菜のスープを一口食べた二人に衝撃が走りました。今まで食べたことのない味をしていて、野菜がなんと柔らかい。二人が食べるのはいつも野菜を丸かじりなので野菜は硬いものという認識でした。
「柔らかい!!」
「辛い!」
「しょっぱい!」
「うまい!」
二人は料理を一つ一つ口にするたびに大袈裟な反応と感想を交互に言っていきます。
それをニコニコ見守っていた女性が自己紹介を始めました。
「それじゃあ、一人ずつ自己紹介をしようか! 私の名前はルナ! 見ての通り? 猫の獣人です! 料理が得意で、目の前のこれも全部私が作りました!」
もっと褒めてくれと言わんばかりに、腰に手をあて胸を張ります。
空気を読んで二人は拍手をすると、満足そうな顔をして話を続けました。
「二人のことはたくさん、ドリィさんから聞いてるから、私のことは気軽にお母さんと呼んでいいからね!」
謎のお母さん宣言をされた二人でしたが、どちらかといえばまだお姉さんと言う年齢でしょう。しかし、彼女はお母さんと呼ばれたいらしいです。
「何か質問ある人!!」
元気いっぱいに手をあげて、二人に質問を求めます。
アートがゆっくりと手をあげます。
「はい! アートくん!」
ルナに指名されアートが話始めます。
「ルナさんは
「ふむふむ、いい質問ですね!」
少し考えるような動作をした後、アートの方を見て答えます。特に何も考えてはいないのですが。
「私は半種族ではありません!!」
顔の前で腕でばつじるしを作りながら言いました。
「じゃあなんでハーフに?」
「私は戦争の時に、倒れていたところをハーフの人たちに助けてもらったのです!」
今度は顔の前で指を一本たてて答えました。とにかくすべての動作が賑やかな人です。
「ハーフは半種族の人たちだけでできてるんだと思ってた」
大きな肉にかぶりついているルルが独り言のように言いました。
「そんなことはないぞ、ドリィさんだってそうだろ?」
横にいたアバンが答えました。
「確かに」
「そんなわけで、これからよろしくね! 二人とも!」
最後に右手でアートと左手でルルと握手をしてやっと席につきました。元気いっぱいの人と言うことは伝わりました。
「それでは、次の人!」
ルナが隣の人に順番を回しました。
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