第30話 お前の居場所はここじゃない
第一上級騎士のシル、四騎士の一人支部長シーラが敵襲に敗れ倒れ込んでしまっている事態に騎士団は動揺を隠し切れませんでした。最高戦力と言っても過言ではない二人が同時に敗れもう何をどうしたら良いのか、住民が避難してたおかげでこの現場を見られていないのが不幸中の幸いです。
戦闘を終えほぼ無傷の二人はルルとアートが座っている方へ歩いてきました。
「でかくなりやがって、あんな小さかった赤子がよぉ」
アバンが二人を見ながら懐かしそうに思い出を振り返りながら言いました。
「私たちの生まれた時のことを知っているの?」
「あぁ、お前たちは俺の妹のミルの子供だからな」
二人はお互いを見合って驚きますが、複雑な心境のようです。今まで気になっていた自分たちの両親の存在を知ることができましたが、それが真実ならばこの姉弟も助けにきた彼らと同じで・・・。
「じゃあ、やっぱり私とルルは半種族なの?」
ルルからすると親の仇として恨む半種族が自分であり、そもそも戦争を起こしたのが両親であるという。彼女の考えや行動が逆さまになるような恐ろしい真実を聞かなければなりません。
「そうだ、お前たち二人は半種族だ」
薄々気づいていた真実を、証明できるものから直接聞くことによって、二人の中でそれは確かな真実として実態となりました。
「やっぱり、お姉ちゃんが見せたように獣人の血と人間の血が混ざってるの?」
アートが感じていた疑問を投げかけます。しかし、その質問への回答は後回しにされてしまいました。
「その話はまた後ででいいか? 一応敵地のど真ん中なんだ、ひとまず逃げるぞ」
アバンがクフリに目で合図を出すと、クフリはアートのことを担ぎました。お姫様抱っこのように持ち上げられ少し恥ずかしそうにしますが、クフリは全く気にしていません。アートの方を見てすらくれません。
そして、アバンがルルを持ち上げようとすると、ルルはそれを否定しました。
「待って!!」
急に声を上げるので驚きアバンの動きが止まります。
「どうした?」
「私たちはこれからどこへいくの?」
当たり前の疑問です。これからどこにいくのか分からずに連れて行かれたら、拉致されたのと何も変わりはありません。
「俺らの隠れ家みたいなとこだな」
「そこに行ったら、もう戻ってこれないの?」
ルルは不安よりも強い恐怖を感じていました。もう、セミス、マール、ダットなどとは一緒にいられないこと、純血種として生きてきたのに混血として生きなければいけないこと。それに、まだ自分が半種族だと認めたくはない気持ちでいっぱいです。
「・・・」
答えにくそうにしています。
「半種族だったとしても、どう生きていけばいいかわからないよ」
今にも泣き出しそうな声です。今日はいろんなことがありすぎました。もうルルの心の許容量はとっくに溢れかえっています。
「大丈夫だ、お前のような半種族を救うために俺たちは動いている」
正直何押しているかよく分からないそんなことを言われてもよくわかりませんが、すごく自信に満ちた表情をしています。
「ここにいても、殺されるか、よくて永遠に牢の中だな。俺たちと一緒に世界を変えないか?」
アバンは手をルルのほうに伸ばしてきました。
ものすごく怪しいことを言っています。世界を変えるとは何をしたいのかよくわかりませんが、今はそんな言葉にもすがりたい気分です。
「わかった」
アバンのてをつかみ返しました。
「よっし!」
嬉しそうに笑うと、ルルを掴んだ腕から引っ張り上げ荷物を担ぐように肩に乗せました。
「いくぞ」
「はい」
アバンとクフリは同時に走り出しました。
路地裏を駆け巡り、地下水路の脇道を走り、また外に出ては駆け回る。同じ場所を何度も通った気がしますが、その隠れ家とやらを特定されないためにやっていることなのでしょう。そして、ククスの大きな街を抜けました。周りに家はなくただただ広い草原が広がっています。後ろを振り返ると先ほどまでいたククスの前いが遠くへ見えます。
「そろそろいいか」
そう言って二人を地面に下ろしました。
「こっからはもう歩いても大丈夫だろう」
アバンとクフリは向かっていた方向へ再び歩き始めました。ルルとアートも置いて行かれないように後ろを追いかけます。遠くに見えるククスの街には思い残すことがたくさんありますが、それを考えてもどうしようもありません。ルルは考えるのをやめ新鮮な空気を体一杯に取り込みます。
「私街から出たの初めてかも」
「そりゃあお前、損してるぜ。 こんなにいい場所なのによ」
手を大きく広げ楽しそうに歩いています。
「そうかも」
ルルも笑っています。街のごちゃごちゃした空気ではなく、新鮮な空気を擦ったことで少しは心が軽くなったのでしょうか。
クフリの後ろを歩いていたアートは大きな音でお腹を鳴らしました。
「安心したらお腹すいちゃった」
ルルとアートは昨日から何も食べていないことを思い出します。処刑という自分たちの死を目の前にして何も喉を通らなかったのです。
「これよかったら」
クフリが腰についた小物入れのような袋から携帯食料の干し肉を取り出しました。
「ありがとう!」
アートがお礼を言うと目をそらしてしまいました。どうやら彼は少し人見知りなところがあるようです。
ルルにも干し肉を少しわけ二人で食べながら歩いているとアバンが思い出したように話始めました。
「そうだ、さっき人間と獣人の血が混ざってるかと聞いてきたが正確には少し違う」
干し肉に夢中だった二人が耳を傾けて聞きます。
「人間と獣人、そして天使の血が混ざってる」
ぶっっ!!
「「天使!?」」
噛んでいた干し肉を吐き出しながら目を見開き大声を上げました。
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