第28話 死霊魔術
「はじめまして、僕の名前はシル。 ククス支部所属の第一上級騎士です。あ! ウィッチです」
今朝ルルたちを牢から出した男はそう名乗りました。強い人だとは感じていましたが、まさかセミスより位が高い騎士だとは思いませんでした。
嫌味ったらしく自分の種族を名乗るあたりかなり性格は悪いようです。上級騎士は皆性格が悪くないとなれないでしょうか。
「お前があの『ネクロマンサー』か」
「僕を知ってくださってるんですね!」
シルが嬉しそうに言います。
「僕もあなたを知っていますよ。 確か、2級戦犯あたりの・・・。エルフさんでしたか??」
嘲笑うような表情を浮かべ挑発してきます。
「あ! ごめんなさい。 もう1種類混ざってましたね。オークさん」
どこまでも楽しそうに人を馬鹿にしてくるやつです。セミスの相手を馬鹿にするのとは全く違います。相手が不快になることしかやらないのです。
「クフリだ」
「んん??」
シルはとぼけるように聞き返します。
「俺の名前はクフリだ、エルフでもオークでもない」
鼻まで布を巻いたハーフの男が名乗ります。そして持っていた長い銃をシルの頭に目掛けて構えました。
「あっそ」
シルは興味がなさそうに返事をします。
ドンッ!
大きな発砲音が鳴り響きました。ルルたちが振り返ると、シルの頭には穴が空いていました。ちょうど二つの目の真ん中より少し上あたり、綺麗に穴を開けられたシルは後ろから地面に倒れ込みます。
第一上級騎士を一撃で!?シーラの影響でまだ言葉がうまく出せなアートがまとまらない言葉を発しながら驚いています。次の瞬間クフリは後ろから切りつけられます。
「あいよぉ」「ほいさぁ」
ふたつの声が聞こえ二本の短刀が斬りつけようとしてきます。しかし、クフリはわかっていたかのように華麗にかわし、またも二発の銃弾をその二人の頭に命中させます。
それぞれ倒れた死体を見るとそこにシルと同じ姿をした死体がふたつ。
なぜシルが三人もいるのか、ルルたちは理解が追いつけず混乱していますが、クフリは冷静な表情で銃に弾を詰め直しています。
次に出てきたのは棍棒のような太い武器を持ったシルです。ものすごい勢いで迫り殴りかかってきます。
「僕がネクロマンサーとしてこの魔術を作り出したのは五歳の頃だったなぁ」
棍棒を振り回しながら思い出を語りはじめました。こんなに激しく動き回っているのに全く息が乱れていません。戦い始める前と同じような話し方で話しています。
「家で飼っていた犬のコマが死んじゃったんだ」
武器を振り回す必死な表情からは想像できない穏やかな口調です。
「それはそれは悲しかったさ、兄弟のいなかった僕は毎日コマと遊んでいたからね。 そこで僕は思いついたんだ、コまっぶぇぼ」
シルの下顎が吹き飛びました。クフリが一発めの弾丸で吹き飛ばし次の二発めで頭を撃ち抜きます。しかし、今度は長い剣を持ったシルが襲いかかります。
「もぉ、話してる最中なんだから顎をうつのやめてよね」
母親が優しく子供を叱るときのような口調で怒っています。
「どこまで喋ったっけ? あぁ、僕は死んだコマにもう一度会いたくて毎日泣いていたんだ。 それを見た両親がコマににたぬいぐるみを買ってくれたんだ。 もらった時は嬉しかったけど。 コマみたいに動き回るわけじゃないしだんだん悲しさが戻ってきたんだよ」
シルは先ほどから様々な武器を使って攻撃してきますが、どれもかなり訓練を積んだように見えます。どの武器を使っていてもかなり熟練の騎士と思われる動きをしています。クフリも表情は変えませんがかなり苦戦しているようです。
「そこで僕は願ったんだ。この人形がコマのように動き回りますようにってね」
また、銃弾で撃ち抜かれました。 今度も一発で頭を撃ち抜かれ倒れて行きます。 すると、今度は何も持っていない素手のシルが襲いかかってきました。 クフリの持っていた銃に掴みかかり奪い合うような形で組み合いました。
「そしたら、びっくり! 次の朝ベットから出るとぬいぐるみだったコマが部屋中を走り回ってるんだ。 あのときの感動は忘れられないよ!」
声の感情と顔に出る感情が全く合っていません。クフリと組み合ってるシルは真剣な表情でクフリを見つめながら話しています。
「それから毎日コマと出掛けたよ、家の中も楽しかったけど昔みたいに外でたくさん遊んだ。 周りの人はなぜか気味悪がってたけど、そんなの気にしなかった。 だってコマがいたから」
銃を掴んでいた手を急に放し殴りかかってきました。鋭い拳の一撃をギリギリで交わしましたが頬に薄くあたり、切り傷となって血が流れてきました。攻撃がようやくあたり嬉しそうに笑っていますが、反対に声のトーンは低くなりました。
「そんな毎日がずっと続くんだと思っていたよ。 でも、ある日急にコマが動かなくなったんだ、それこそ死んだようにパタリとね。 そして、もう動くことはなかった」
そこで、シルの話が止まりしばらく無言の戦闘が続きました。クフリが銃弾を放ち素手のシルもその場で死にました。次に短剣を二本持った両手剣のシルが出てきました。激しい斬撃の嵐がクフリに襲いかかります。同時にまた話始めました。
「そこで、初めて両親に死霊魔術について聞かされたんだ。 そしてウィッチが長年研究を止めていた死霊魔術の扉を僕が数百年ぶりに開いたんだ。 今度は永遠にコマをこの世につなぎとめておくためにね」
クフリに打たれ左腕が無くなりましたがお構いなしに右腕の短剣を振ってきます。それを、銃の体を使い受け止めながらうまく捌いて行きます。
「残念ながらコマをつなぎとめることはまだできないんだけどね」
悲しそうな声で言いました。
「そうか」
クフリは興味がないのかあるのかわかりませんが、ちゃんと話は聞いていたようで返事を返しました。
「ひとつアドバイスをしよう」
クフリが右腕だけとなったシルの右腕を吹き飛ばしました。両腕を失いやることが無くなったシルは立ったまま話を聞いています。
「お前は喋りすぎだ、本体が近寄ってきてるのがバレてるぞ」
そう言って、銃口を処刑台の下にいる騎士団の集団の方に向けました。
そして発砲します。銃弾は集団の中の一人を捕らえました。ある人物の足をかすめ動くことはできないようです。
「くっ! なぜ近寄っているのがわかった!?」
前にいた腕のないシルではなく、集団の中にいるシルから声が聞こえてきます。
その問いに答えながら、銃をなれた手つきで回し弾を装填します。
「お前の死霊魔術は降霊型。 だから様々な武器を高い技術で使えた。 その道の死者を降ろしてたんだろ? この人形にな!」
クフリは銃の柄で前にいる両腕のないシルの頭を砕きました。両腕のないシルは体が砂のように崩れ落ちて行きました。周りを見渡すと先ほどまで襲いかかってきては、クフリに撃ち抜かれていた死体も消えています。
「そして、降霊型の特徴は死者の霊を自分を媒体としてつなぎとめておく必要がある。 術者から離れるほど霊は弱くなり近づくほど強くなる。 そうだろ?」
図星をつかれシルは何も言い返せず、ただ悔しそうな表情をしています。
「ひとつ教えろ、なぜそこまで死霊魔術に詳しい?」
シルからの質問にクフリは顔に巻いた布を元の位置に直すような仕草をして答えました。
「昔の仲間に似たような奴がいてな」
そして、クフリは銃を背中に背負いました。
「アバンさんの方は終わったかな?」
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