第23話 号外
ルルたちの噂は瞬く間に広がって行き、街ではその噂で持ちきりになりました。15年前の戦争は今を生きているほとんどの人が経験した苦しい記憶。大陸に住む純血の者たちは皆ハーフの壊滅を願います。そんな彼らにルルたちの知らせは朗報でしかありませんでした。
「よっしゃ! あのハーフの残党がまた減るぞ!」
「しかも、特級戦犯の子供だって?」
「半種族を許すな!」
皆ルルたち姉弟のことを好き勝手に言います。本人たちからしたら、特級戦犯との血のつながりが本当なのかも怪しいし、繋がっていたとしても彼らに育てられてはいませんでした。
この号外は先日まで仲間として過ごしてきた訓練兵たちにも伝わりました。
「整列!」
朝の訓練場でホークが号令をかけ整列させます。
芸術的なほど綺麗に縦横が揃い、第三者から見てもこの組織が統率が取れていることはすぐにわかります。
「お前たちに、先日の入団試験の結果を伝える」
普通ならここで緊張した雰囲気になるのでしょうが今回は違いました。皆どこか上の空、気持ちは別のところにあるといった感じです。
ホークも彼らの気持ちをわからないわけはないのです、彼も教官とはいえ三ヶ月間一緒に過ごした仲ですから。しかし、教官としてずっと感傷的になっているわけには行きません。できることをやるしかないのです。
「全員合格だ。実はあの試験は擬似的なものでな、三ヶ月間この厳しい訓練についてきたお前たちには入団の資格が十分にある。おめでとう、これからもよろしく頼む」
全員が合格し騎士団に入ることが決まりましたが、誰一人として喜べませんでした。あのダットでさえも沈んだ顔をしています。
「正式な入団式は例の件が終わり次第行う予定だ。今日はここまで。入団式までは宿舎にいてもいいし、家に帰っても構わない。各々好きな時間を過ごしてくれ。解散」
ひとまず、集まりは解散を伝えられホークがいなくなった後も彼らはしばらくそこに立ち尽くしていました。しばらく無言の時間が流れますがクヤが全員に向けて話始めました。
「みんなは、どう思っているんだ?」
マールが答えました。
「僕とダットはあの二人と昔からの付き合いです。ですが、あの二人が悪人には思えません。例え、半種族だとしても特級戦犯の子供だとしてもあの二人に罪はないはずです」
マールはダットと共に思っていることを話します。
「俺たちだってあいつらがいい奴なのは三ヶ月も一緒にいれば分かってるさ」
訓練兵の中から声が上がってきました。
「でも、俺は怖い。あいつらがハーフのスパイとして入ってきたかもしれないだろ」
様々な考えがあって当然ですがやはり、完全に信じるというのは難しいようです。
「ルル、アート・・・」
クヤの悲しそうな声が漏れ出しますが誰にも聞こえてはいません。
死刑執行まで後二日。
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