第22話 死刑判決

 地下牢に入れられて一晩がすぎ、朝が来ました。

 まだ、日が登り始めて少ししか経っていないというのに二人は牢を叩く金属音で叩き起こされました。

 カンッカンッカンッ

 金属同士がぶつかって起こるその音は甲高く響き、寝起きで聞くには不快な音です。

「起きろ! お前らの調べがついた。 支部長室まで来い!」

 牢の見張りの騎士団員が寝ぼけている二人にそう伝えました。そして牢の鍵が開錠され、二人は数時間ぶりの自由の身となりました。完全な自由ではないですが。

「何を言われるんだろう僕たち・・・」

 すっかり目が覚めてしまったアートが心配そうに呟きます。

「大丈夫よ! 何も後ろめたいことはないんだから」

 自信満々に自分の潔白を信じるルルとアートの周りには四人の騎士団員が脇を固め支部長室まで同行します。どこか重々しい雰囲気ですが、やはりこの国での半種族と思われるものへの扱いは厳しいものです。

 地下にある牢から支部長室のある五階まで上り、階段から目的の場所までの長い廊下を渡りついに到着しました。

 明らかに他の部屋とはドアの大きさや見た目が違う部屋の前にいます。一人の騎士が先ほどの不快な目覚ましとは違った心地いい音のノックを響かせ部屋への入室許可を取ります。

「入れ」

 部屋の中からは低い声の返事が返ってきました。

 許可がおり、ルルたちの前にある重そうなドアがゆっくりと開かれて行きます。開き終えると中にはたくさんの騎士が立っていました。

 ドアを開きまず正面に見えるのは広く大きな机に肘をつき、座っているシーラの姿です。シーラまでの通路を挟むように騎士たちが整列しています。牢から付き添ってきた騎士と比べると明らかに違った様子、上官などの腕章をつけた者たちです。中には、昨日までの宿敵であり兄であったセミスの姿もあります。

 そこにいる騎士たちの視線が一斉にルルとアートに集まりました。二人は付き添いの騎士たちに進むように促されてシーラまでの道を歩き進めます。セミスも含め周りの騎士たちは一言も喋りません。無言の重い空気の中ついに、シーラの目の前までやってきました。

「ご苦労、下がっていい」

 シーラが右手を軽くあげ、付き添いの騎士たちに下がるように伝えます。覇気のこもった返事を返し付き添いの騎士たちが部屋から出て行きました。

 ドアが閉まり再び無音の空間になるとシーラが話し始めます。

「さて、二人とも昨日はよく頑張ったな。ながらあのセミスと少しでもやりあえた奴は他にいないと聞く」

 その言葉には、純粋に褒めたわけではなく皮肉などがこもっているように二人には聞こえました。

「まぁ、今日ここに呼んだのは君たち二人の判決が決まったからだ」

 重かった空気がさらに重くなり、二人は重圧に潰されそうです。鼓動が早くなり、身体中から冷や汗が湧き出てきます。

 シーラが椅子から立ち上がり、上から二人を見下ろす体勢になり言いました。

「結論から言おう、ルル・マキシス アート・マキシス。君たち二人は死刑だ。」

 判決を伝えられた二人の体は一瞬で凍りついたような感覚に陥りました。体から出ていた冷や汗が止まり一気に体を冷やして行きます。二人の指先は緊張と恐怖で小刻みに震えています。周りの騎士たちもどよめきます。

「え??」

 何を言われたかまったく頭に入ってこなかったルルがとぼけたような声を出します。シーラの声からは単語しか聞き取れませんでした。

 死刑と自分たちの名前とマキシスという聞き慣れない言葉。何がどう結びつきどんな文章になっていたのか、極度の緊張で頭の中で単語が文章として構築されません。

対してアートはルルよりは冷静に聞くことができました。

「僕たちが死刑?」

 当たり前の疑問です。

 何もした覚えのない自分たちが急に死刑になるなんて。いや、市場でものを盗んだことはあったけどそれで死刑? それはおかしい。 じゃあなんで、僕たちは何をしたんだ? それに、マキシス?

 ルルよりは考えることができているアートも頭の中はぐちゃぐちゃで、思考がまとまりません。


パン!


 シーラが手を叩きました。部屋に乾いた音が響き、二人の逸れていった意識が一気に戻されました。

「君たちはなぜなのか理解できないだろうから一つずつ説明していく。 まず君たちには家名がある。 それがマキシスだ」

 クヤ・ネスモのように名前の前後にもう一つ名前がつくことがあります。これは、家名と呼ばれ一般には騎士の名家や身分の高いものに与えられる名です。シーラという名前も家名になります。それがルルたちにもありました。

「支部長! 本当なのですか!?」

 整列していた騎士の一人が割って入ります。先ほどから騎士たちが騒がしかったので彼らにも詳しいことは伝えられていなかったのでしょう。一人の騎士が真偽を確かめようと質問しますが、シーラが嘘をつく理由はありません。

「本当だ」

 騎士たちはさらにざわつき始めます。彼らが騒いでいる理由はルルたちでもわかりました。マキシスという家名はおそらくこの大陸で一番有名な名です。あの15年前の戦争を起こしたきっかけである特級戦犯の二人の名前と一致します。そんな名前が出てくれば驚くのは当然のようなものです。

「支部長! 情報の出所は?」

 ルルたちのことなのに、シーラと騎士たちが二人を挟んで会話を始めました。そこから拾える情報を必死にかき集めて行きます。

「東の四騎士が出した情報だ」

 それを聞き騎士たちは納得したような表情をしていますが、ルルたちにはなんなのかさっぱりです。

 シーラは二人に話を戻します。

「君たちは特級戦犯。ミル・マキシス、アルマ・マキシスの子供だと分かった。よって、ルル アートの二人は死刑となった。 残念だが国が。大陸が。君たち二人の存在を許すことはないだろう。 以上だ」

 頭で簡単に処理することは難しい情報が一度に多く伝えられ、二人とも心の整理が追いついていません。放心状態になっている二人は反論も抵抗もなく元いた地下牢に連れて行かれます。わずかながら最後に伝えられたのは、二人の死刑は三日後ということ。


 街では号外が配られその事件は瞬く間に国中に広がり、大陸の他の国まで広がりました。

 姉弟の死刑まであと三日。




 

 

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