第21話 疑惑

 ホークの一言で会場にいた観客や訓練兵全員がどよめきます。

 目の前のセミスも驚いていますが、ルルだけはまだ何が起きているかを掴めていない様子です。

「邪魔するな! はなせ! まだ、終わってない!」

 なぜ、模擬戦が止められたかわからず続けようとします。しかし、シーラに言われ自分に起こっている異変に気づきます。

「自分の手を見てみろ」

 なぜ、そんなことをしなければいけないのか理解できませんでしたが、言われるままに自分の手を見て言葉を失いました。

「何!? これ??」

 ルルが見たのは、さっきまで人間の手をした自分の手が獣人のような手に変化していました。大きさは倍以上に大きくなり、爪は鋭く尖っていて先ほどまでの小さい手はそこにはなく凶器となっています。

 体の変化を認識し戦闘を中断しましたが、なぜこんなことになっているのかわからずにいます。

「お前、自分でも気付いていなかったのか?」

 シーラがルルに問います。しかし、動揺していて何も返ってきません。

「ホーク! 模擬戦は終了だ。 この子を一時保護する」

 イレギュラーな事態が発生し入団試験及び街のお祭りはこれで終了となりました。場は完全にしらけてしまい、誰も詳しい内容を知らないまま終わりました。

 

 この国では、半種族ハーフレイスと思われる子供、または大人が見つかった場合一時的に純血の騎士団が保護する決まりとなっています。保護とは名ばかりでほとんどの場合は地下の薄暗い牢獄に監禁となります。これは、戦争が終結した時にできた決まりでハーフとの繋がりがないかを調べるためです。つながりがないと判断された時は釈放となります。

 この、決まりによりルルは一時的に保護となりました。姉弟だと知られいたのでアートも保護となります。


 ルルとアートの二人は純血の騎士団ククス支部の地下にある牢獄へ囚われていました。

「お姉ちゃん、あれは魔術とかじゃないんだよね?」

 アートが模擬戦であったあのことの真実を確かめるために聞きますが、ルルにもわかるはずがありません。

「気づいたらあんなことに、どうやってやったのかもわからないし、今やれと言われてもできない」

 自分のことを聞かれているのに何が起きていたのかわからないルルは困ったような顔をしています。

「半種族って言われたけど、僕たちずっと人間として生きてきたし他の種族が混ざってるなんて考えたこともなかった」

「そんなはずない!!」

 アートの独り言のような呟きにルルは怒鳴るように反応しました。今まで親の仇として見てきた半種族と言われ現実感のないふわふわとした感じがルルの中にはありました。

「これからどうなるんだろう」

 そうアートが行った時、遠くから足音が聞こえてきました。足跡はだんだんこの牢に近づいてきます。二人が顔をあげ誰がきたのかを見てみると、そこに現れたのはセミスでした。

「お前ら大丈夫か?」

 彼は食料と思われるパンと飲料水。それとわずかですが干し肉を持ってきました。それらを二人に渡し、牢の前に座りました。

「あれ以来、体はなんともないか? ルル?」

 パンを頬張りながらルルはうなずきます。

「そうか、あれには俺も驚いたがひとまずルルがなんともないようでよかった」

 ほっとしたような表情を見せます。

「セミス兄、僕たちこれからどうなるの?」

「すまん、俺にもわからん。なかなかない特例として調べられているらしいがどうなるかは・・・」

 申し訳なさそうに俯いてしまいます。

「そうなんだ、まぁ何かの間違いだよね。お姉ちゃんが新しい魔術を使えるようになっただけかもだし・・・」

「そうだな」

 暗い雰囲気は消し去れませんが、二人とも少しでも食べることができたおかげか、先ほどよりは元気になりました。

「それじゃ、俺はもういくから」

 ゆっくりと腰をあげ、立ち上がり来た方向へ帰って行きました。

 何もできない二人はただこの薄暗い地下で待つことしかできないのです。

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