第19話 二日目開始

 賑やかな祭りから一日たち、今年のお祭りは二日目に突入した。

 街ではまた朝から出店が出て、起きてたいして時間が経っていないというのにもうお酒が入って酔っ払いで溢れています。中には夜通し飲み明かしていたものもいつようです。

 メインイベントの入団試験もまもなく始まるようです。

「あとは、ルルとアートとダットですか」

 マールがいつもの五人で集まって話始めました。昨日模擬戦が終わったマールとクヤは応援モードです。

「皆さん頑張ってください!」

 クヤがルルの方を見て言いました。

 それに、ルルとアートは返事を返しましたが、ダットはすぐに返しませんでした。

「どうかしましたか?」

 マールが心配そうに尋ねますが、具合が悪いわけではないようです。

「俺、わかったぞ!」

 急に声をあげたダットに全員が疑問を口にしました。

「何がわかったんですか?」

 ダットがニヤニヤしながらクヤの方を向きました。

「クヤ、ルルのこと好きなんだろ?」

 誰も予想もしなかったことを言い出しました。

 不意をつかれ、いつも冷静なクヤが珍しく慌てています。

「なっ! な、な、何を言い出すんですか!?」

「最近のクヤはずっとルルの方を向いているからな」

「そ、そんなことないですよ!」

 必死に取り繕うクヤの顔は真っ赤です。

「そうなの?」

 ルルに見つめられながら質問され限界が来たようです。咄嗟に逃げるようにして、話題をずらそうとします。

「も、もうそろそろ始まると思いますよ! 早く行きましょう!」

 くるっと反対に振り向いて早歩きで行ってしまいました。

「逃げられてしまいましたね、僕たちも行きましょうか」

 四人は逃げたクヤが向かった方へと向かいました。ルルは少し照れくさいように下を向きながら歩いています。


 訓練兵たちが訓練場に再び整列しました。訓練場の周りには昨日と同じく街の住人が観客としてきています。急遽決まった二日目だというのに見にきている人の数は昨日とあまり変わりません。昨日の大熱狂はまだ始まっておらず、訓練場は静寂に包まれています。訓練兵の緊張が観客にも伝わっているようです。その、静寂を破るようにホークの号令で二日目が始まります。

「これより、入団試験。二日目を開始する!」

 静かだった観客も思わず喜びの声をあげます。落ち着いた雰囲気は一気になくなり、昨日のような騒がしさが戻ってきました。

「最初はダットからだ!」

 今日の初戦はダットです。ダットもやる気十分、腕をグルングルン振り回しています。

「よっしゃぁいくぜぇ!」

 全力でセミスまで駆け出して行きました。

「おっ! きたな」

 セミスがニヤニヤと笑っています。おそらく、前回の武器となったことをおっもいだしているのでしょう。

「今回は、前回のようには行かないぜぇ」

「よし、こい!」

 ホークの開始の合図と共にダットは突っ込んでいきます。どう見ても前回と同じ突撃の仕方です。前回と同じく軽く交わしたセミスはダットの足をつかみました。

「何!?」

「お前何も変わってないな」

 ダットはまたセミスに武器にされてしまいました。ルルたちもあまりの成長のなさに呆れています。セミスも今回は武器にしたところで盾にする必要などもないためどうしようか迷っています。

「くそ! やめろ!」

 頑張って手足を振り回し、セミスに攻撃をしようとしますが残念ながらエルフとドワーフの手足の長さは倍以上です。

 セミスは何か思いついたような顔をしました。次の瞬間ダットは空中に投げ出されました。セミスは全力でダットを真上に投げます。

「ちょ、まって死ぬぅぅぅ!!」

 流石に頑丈なダットでもこの高さから落ちたら無事ではすみません。ダットの体は、ホークのいる高台を超え、その奥にある士官学校の屋根ぐらいまで飛びました。上に飛ばされる力がなくなると、あとは一気に地面に落ちて行きます。

「ああぁぁぁあぁぁ!!!」

 ダットの叫び声が町中に響き渡ります。真っ逆さまに落ちてきたダットを地面すれすれで受け止めます。地面と顔との距離は拳ひとつ分ほどしかありません。

「楽しかったか?」

 セミスが悪魔のような笑顔を浮かべながら、質問しますが返事は帰ってきません。

「ん? どうした?」

 手に持ったダットの顔を自分の顔の高さまであげてみると、白目をむいて気絶していました。

「あちゃぁ、やりすぎたか?」

 ダットの模擬戦は今までで一番あっさりと決着がつきました。ホークの合図で試合は終了。観客はあまりに恐ろしい体験を目の当たりにし誰も声が出ていません。

 ダットは日陰で顔に冷たいタオルを乗せられ寝かされています。

「次! アート!」

 次の挑戦者が呼ばれます。

「頑張ってください」

「うん、行ってくるよ」

 アートは笑顔で手を振りながら訓練場へ向かいます。

「よし、きたな。 あいつみたいにはなるなよ」

 ダットの方を見ながらセミスが笑っています。

「簡単には負けないよ」

 セミスとアートの模擬戦が始まりました。

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