第17話 リベンジ戦

 マールとセミスとの一戦が終わり周りの観客が静かになった頃、次の挑戦者の名前が呼ばれました。

「次! クヤ!」

 その名前が呼ばれると見に来ていた人たちが歓喜の声をあげます。皆、国をシーラと共に引っ張っているネスモ家に注目しています。ネスモ家の長男ですから尚更です。

「すごい、喜ばれてるねぇ」

 ルルがニヤニヤしながらクヤを見つめます。

「やめてくださいよ、結構緊張してるんですから」

 心臓の動機を抑えるために胸に手を置きながら、呼吸を整えています。

「クヤでも緊張するんだね」

 自分のイメージとは違うクヤにアートが驚いています。

「僕だって緊張しますよ、今度は負けるわけにはいきませんから」

 二人の方を向いて少し笑った後、訓練場のセミスが待つ場所に駆け出していきました。

「今日の大一番だな」

 先ほどのマールとの戦いの中で出した、木の棒を使いストレッチしながらセミスが待っていました。

「今度は負けません」

「俺も負けるつもりはないからな」

 早くも二人は訓練場の真ん中で睨み合い、お互い構えます。

「はじめ!!」

 ホークの合図を聞き、クヤが早速襲い掛かります。

「今回は、最初から竜にはならないんだな」

 飛び込んできたクヤの最初の一撃を受け止めます。

「出し惜しみしていきます」

 クヤは次々と攻撃を繰り出し、セミスを押しています。防戦一方に見えるセミスですがまだまだ余裕が見えます。楽しそうに笑いながら戦いを続けます。

「人型でもなかなか戦えるじゃん」

「当たり前です!」

 大振りの回し蹴りを顔目掛け放ちます。腕で受け止めたセミスは勢いのまま飛ばされます。戦闘で優位になっても決して油断はしません。飛んだセミスをの方を見つめて構え直しました。

「いったいなぁ」

 セミスが今までで一番押されています。

「竜神化」

 クヤが竜の姿を解放します。周りからは悲鳴か歓声かわからない声が上がり大盛り上がりです。竜の姿になったクヤ はその大きな口から雄叫びをあげました。

「これはきついぁ」

 飛ばされて立ち上がったセミスがぼやいています。しかし、口元は楽しそうに笑っています。

「はぁぁぁぁ」

 今度はセミスから攻撃を仕掛けます。魔術で育てた木の棒を振り回しながらの突撃です。見た目はただの木の棒。しかし、魔術で育ち魔術で強化されたそれは見た目以上に凶悪な凶器です。

 クヤが近づいてくるセミスに向かって左の大きな前足を叩きつけます。棒で受け止められ押し返されますが、それでも上から大きな質量をひたすら押し付けます。

クヤの一撃を受け止めるたびに訓練場は揺れ、観客は嬉しそうにしています。

「ひえぇぇ」

 観客と同じく楽しそうに悲鳴を上げながらセミスは走り回っています。攻撃を受けとめ走り出し、また受け止める。ひたすら繰り返しながら逃げ回っています。

「逃げるなぁ!」

 クヤが長い尻尾を一周させ足元で逃げ回っているセミスを振り払います。

 振り払い攻撃を交わしセミスはクヤから少し離れます。

「くらえ、おらぁ」

 セミスが指を鳴らします。クヤの周りからたくさんの木が育っていきます。

「種を巻きながら逃げていたんですか」

 クヤは伸びてくる木を叩き割りながら攻撃に備えます。

「根性でいくぞぉ、はぁぁ!!」

 セミスが力を入れるとどんどん植物が成長していきます。植物で竜になったクヤ の動きを止める作戦です。クヤも植物が育つ場所から離れようとしますがなかなか脱出することができません。

「竜神化解除」

 クヤが竜神化を解除します。体がどんどん小さくなり植物をかわしながら逃げます。しかし、セミスはこの時を待っていました。決して一瞬の隙を見逃しません。

周りの成長を続ける植物に気を取れれているクヤは近づいてくるセミスにまだ気付いていません。

「なぁっ!!」

 気付いた時にはもう遅く、攻撃を交わすことはできません。棒で横に殴りとばされたクヤは育ち続けている植物にぶつかり、成長に巻き込まれていきます。

「くっっ」

 ホークやルルなど模擬戦を外から見ていたものたちには何が起こっているのかわかりません。訓練場が植物で埋め尽くされ森やジャングルのようになっています。ただ、その植物の中から出てきたのは一人だけで、勝敗は判明しました。

 セミスが笑みを浮かべながら植物の森から出てきました。それを見た観客たちからの大きな歓声に包まれます。

「そこまで!」

 ホークの声でこの試合も決着となりました。再びセミスの勝利です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る