第15話 四騎士ゲイル シーラ

 セミスとの模擬戦を行う最終試験当日。試験は昼過ぎからの開始ですが、ルルとクヤはまだ日が昇り始めたばかりの時間に目が覚めました。二人とも最終試験を前に緊張しているのでしょうか?

「アート運動しに行かない?」

 ルルは同じ部屋にいるアートを起こそうとします。まだ寝ているアートの肩をゆすりながら話しかけますがなかなか起きません。

「マール? ダット?」

 アートの横に寝ているマールとダットにも声をかけますが誰も起きてはくれません。もう完全に目が覚めてしまったルルはこれ以上寝ることもできないのでどうしようか悩んでいました。すると、同じく目が覚めていたクヤ が話しかけます。

「ルル、よかったら僕がいきますよ」


「いやぁ、クヤと同じ部屋でよかったよ」

「ルルも目が覚めてしまいましたか」

 まだ完全に日が昇りきっていない朝は、少し肌寒く感じますが寝起きの体には心地よい温度。鳥の鳴き声が聞こえてきますがそれ以外の音はなく、街もまだ眠っています。そんな眠った街に二人は走りにいきました。訓練場で軽いストレッチなどを行ったあと、見飽きた景色の訓練場を飛び出していきます。

「こんなに、早くに街に出たのは初めて。 誰も街にいないみたい」

「えぇ僕もです。 なんか少し楽しいですね」

 二人はお互いが会話をできるペースで走ります。

「ルルはどうして騎士団に入ろうとするの?」

 クヤは聞きます。

「私はね、半種族を恨んでるんだ。親を戦争でなくしてね。だから騎士団に入ってハーフを必ず根絶やしにする。」

「そうか、じゃあ両親の顔もわからないんじゃ?」

「私が生まれたばかりの頃の話だからね、だからドルさんって人に育てられた」

 二人は今まであまり知ることがなかったお互いのことを聞きます。

「クヤはどうして?」

 次はルルが質問する番です。

「僕はルルみたいな立派な理由はないんだ」

「そうなの?」

「小さい頃から騎士団に入るために鍛えられた。 親の言われた通りに生きてきて、周りの期待通りに騎士団に入る。 それだけさ」

 そう言ったクヤは、少し微笑みました。その生き方に不満は感じていない様です。

 二人はたわいの無い会話をしながら静かな街中を走り去っていきます。


「付き合ってくれてありがとうね、クヤ」

「いえ、こちらこそ」

 二人は軽い運動を終え、街中を散歩しながら士官学校へ戻ります。会話をしながら歩いていると、人のいない街中から女性の悲鳴が聞こえてきました。

「ルルこっちだ!」

 悲鳴を聞いて二人はすぐに駆け出しました。

 二人が飛び込んだ路地裏で人間の男が女性につかみかかっていました。

帽子付きのコートの様なものを着て男に掴まれているのがおそらく悲鳴をあげた女性でしょう。帽子をかぶっているせいで顔が見えませんが。

「お前らのせいで、妻は!!」

 男は泣きながら女性を壁に押さえつけています。

「やめろ!」

 クヤが男のいる方へ向けて走り出しました。近づいていき男へ飛びかかります。

「ぐぇっ」

 男はクヤに頭を地面に押し付けられこれ以上身動きが取れません。

「あ、ありがとうございます!」

 そう言って助けられた女性は深く頭を下げ、足早に去っていってしまいました。

「ちょっと、まって」

 クヤの声にも止まらずにどこかへ消えていきました。クヤは不思議そうに女性が消えていった方を見つめています。一方ルルは女性が逃げた理由を見ていました。彼女が頭を下げた時、かぶっていたフードの隙間からチラッと動物の耳の様なものが見えました。手足や顔はルルと同じ肌色の肌をしていたのに。

「どうしようか、ルル? この男を騎士団へ連れて行かないと」

「・・・・・・」

 ルルの反応がありません。どこかを見つめたまま立っています。

「ルル!」

「あ、何?」

 クヤが大きな声を出してようやく反応しました。

「この人どうしようか?」

「あぁ、どうしよう」

 二人が捕まえた男をどうしようか悩んでいると、先ほど路地裏に入ってきた方から低く空気を震わせる様な声が聞こえてきました。

「俺が預かろう」

 その声に二人は振り向きます。朝の光が差し込み、逆光で姿はよく見えませんがかなり大きな男です。よっくりとルルたちがいる方へ近づいてきます。

「誰ですか?」

 クヤがその大きな男に聞きました。

「私の名前は、」

 そう言いながら近づいてきた男の姿がだんだんと見えてきました。クヤはその男が名乗る前に正体に気づき驚愕しています。

「ゲイルシーラ。四騎士の一人で騎士団の支部長をしている」

 名前を聞き、姿までは知らなかったルルも驚いています。

 何故こんな場所にいるのか、当然の疑問をクヤは投げかけます。

「シーラ様どうしてここに?」

 シーラは淡々と答えていきます。

「朝の散歩だ。悲鳴が聞こえたから来てみたんだが、何があった?」

 クヤは先ほどあったことを説明します。

「そうか、よくやった。君たちは訓練兵だな」

「はい!」

 シーラからの労いの言葉にクヤは嬉しそうに返事を返します。

「ん? よく見ればクヤではないか。久しいな」

「覚えていてくださいましたか。ネスモ家長男、クヤ ネスモです」

 クヤは改めて名乗ります。

「それでは、その男は俺が預かって行く、お前たちは最終試験に備えておけ。ご苦労だった」

 シーラはクヤから男を引き取り、その場から立ち去りました。

 あまりの驚きに、ルルは立ち尽くしています。

「驚いたね、シーラ様がこんなところにいるなんてね」

「うん」

 あまりの出来事に情報を処理し切れていないルルを連れて二人は、再び士官学校へ向けて帰り道を歩き始めます。

 




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