第14話 最終試験前日

 戦闘訓練。知識訓練。様々な訓練を毎日の食事と睡眠以外の時間を全て使い行いました。厳しい三ヶ月の訓練の中で、あまりの過酷さについてこれず騎士団入団を断念するものもいました。

 今日は最終試験を明日に控えた最後の訓練日です。今訓練を受けているものは、46人。何人かは諦めてしまいましたが、みんなよくついてきています。今年の訓練は戦闘面においてはセミスがいるせいで昨年度以上に難易度は上がっています。それほどまでにセミスの影響は騎士団の中で大きなものでした。

 大切な日を控えた朝。訓練兵は皆、訓練場へ集められていました。

「明日は最終試験だ! 皆ここまでよく頑張った。しかし! 明日の試験で結果を残さねば入団を許可されない。心しておく様に!」

「「「はい!!」」」

 整列した訓練兵の前にたちホークは話します。そのホークの言葉に、揃って大きなこえで返事を返します。三ヶ月前の整列では見られなかった変化です。

 返事の後、少しの間訓練場が静寂に包まれました。その中で一人の少年がすっと手をあげました。

「クヤ 質問か? 言ってみろ」

 どうやら何か質問があるクヤにホークは許可を出します。

「はい。明日の最終試験の内容についてですが、初日に言っていたセミスさんとの模擬戦の様なものでしょうか?」

 三ヶ月の間にどんな心境の変化があったのか、セミスのことを「さん」づけで呼ぶ様になっています。

 そんな、訓練兵全員が思っていることを代表で聞いたクヤの質問にホークが答えます。

「初日に行った様に、セミスとの一対一の模擬戦で変わりはない。しかし、一つだけ変わったというか増えたことがある。俺も昨日聞いて驚いたんだがな」

 ホークの勿体ぶる様な言い方に全員が緊張した面持ちで聞き耳を立てます。

「明日の模擬戦に、四騎士ゲイル シーラ支部長がいらっしゃることとなった」

 明日の追加の予定をさらりと言ったあと、一瞬ですが周りが無音かと思えるほどに静かになりした。

「「「えぇぇぇ!?」」」

 全員驚きの悲鳴をあげます。前例のない大ごとですから当然です。たかがと言うのはひどいですが、訓練兵の最終試験を支部長が見にくるなどまずはあり得ません。支部長と会えるのは正式な入団しきのときです。多忙な四騎士が訓練兵を見にくるなど異例なのです。

「どうして、俺たちの試験を見にくるんですか?」

 当然出てくる疑問を集団の中の誰かが聞きました。

 それに対して、ホークがどこか言いにくそうに答えます。

「あー。あのな、少し言いにくいんだが別にお前らを見にくるわけじゃないんだ。シーラ支部長は、セミスを見にくるんだ」

 期待させて地に落とされた訓練兵たちですが、納得の理由です。皆、明らかにテンションが下がりましたが一人の男の発言に再び火が付きます。

「でも、模擬戦で俺たちがいいところを見せればいんじゃね?」

 ダットが言いました。おそらくいつもの様に何も考えていない脊髄反射の会話ですが、今回はそれが火を付ける原因になりました。

「そうだ! 俺たちがセミスさんを倒せば」

「俺が認めてもらうんだ!!」

 皆のやる気がどんどんと燃え上がっていきます。いいところを見せたら何か報酬があるとは誰も言っていません。いいところを見せたところで認めてもらえるとも言っていません。しかし、そんななことはお構いなしに勝手に盛り上がっていきます。

「うぉぉぉぉ!!」

 おそらく、ゲイル シーラがどのくらいの偉業を成し遂げた人かなどとは知らないダットが周りの雰囲気だけで雄叫びをあげています。

 それにつられて周りの男たちも叫んでいきます。三ヶ月間の訓練をもってしても彼らのアホは治りませんでした。

「盛り上がってるところ悪いが、今日は皆自由とする。明日に備え体を休めるもよし、他のものと戦闘訓練をするもよし。各自明日に万全の体制で挑める様に」

 大盛り上がりの彼らを遮り今日の予定を伝えました。

「よーし! 俺と戦う奴はいるかぁ?」

 セミスが戦う相手を探し始めましたが、ホークに止められました。セミスの襟の後ろをがしっと掴んだホークが言いました。

「セミス、今日お前はシーラ支部長に挨拶しに行くんだ。遊んでる暇はないぞ」

「え?」

 セミスはすごく嫌そうな顔をして振り返ります。普通ゲイル シーラと会えるとなれば皆喜ぶものですが、彼は違う様です。周りとの価値観はずれていて自分の欲望に忠実です。

「嫌だぁぁぁぁぁ!!」

 まるで子供の様に駄々をコネます。

 周りの訓練兵は冷たい目でセミスを見ます。

「本当にあんな奴のためにシーラ支部長はくるのかよ」

「意味がわからないな」

 そんな事を言いながらそれぞれの時間を過ごすためにばらけていきます。

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