第13話 訓練
士官学校入団試験から一日が立ちました。まだ日が登り始めてすぐの薄暗い朝、昨日の試験で合格したものは皆同じ服を着て訓練場へ集合しました。騎士団が着ている制服を少し地味にした様な服です。色は、少し明るいねずみ色。騎士団のような右腕につける紋章などはついていないのでかなりシンプルなデザインです。昨日の様なバラバラな並び方ではなく縦横揃った整列です。
「それでは、今日から入団試験までの三ヶ月間の訓練を行う。改めて自己紹介をしよう。純血の騎士団ククス支部所属 第一中級騎士 ホークだ。よろしく」
整列した訓練兵の前に立つ鷹の獣人は頭を下げ挨拶をしました。続いて、昨日大活躍のあの男が挨拶をします。
「ふぁぁい。 セミスです。 よろしくぅ。」
気の抜ける返事と簡単すぎる自己紹介が終わりました。彼はとっても朝が弱いのです。エルフと言えば早寝早起きをして朝には植物の水やりをしていそうなイメージですが、この男は違います。
「バカ野郎! 目を開けろ! なぜお前が一番だらしないんだ!」
当然ながらホークから怒られます。セミスも頑張って起きようとはしていますが、目が開きません。
「こいつは、去年の主席だ! そのため特別試験官として呼ばれた。主に戦闘訓練だがな。 まぁ、こいつのことはどうでもいい」
ホークは朝のセミスに構うのは時間の無駄だということを熟知しています。
「今日、お前たちには二人一組になりその二人で戦闘訓練を行ってもらう。 二人組は好きに決めてくれ」
今日の訓練内容を伝えられた訓練兵たちは一斉に昨日大活躍したやつと組もうと動き出します。
アートとマールはすぐに決まりました。しかし、ダットに来るひとは誰一人としていません。確かに昨日の戦闘では、あまりいいところのないおとりの様な役でした。でも、体を一番張ったのは彼です。もっと人気があってもいい様ですが誰も話しかけてきません。
ルルとクヤの周りは早速大盛り上がりしています。なんとクヤ がルルに二人組を申し込みました。特に断る理由のないルルが承認すると、周りが大騒ぎ。昨日大活躍した二人の対決が見られると、自分たちの訓練を忘れ観客になるつもりです。
ほとんど組み終わり二人組で話し合っています。しかし、ダットはまだ誰とも組めていません。周りを見て一人の人を探しているのですが、皆組み終わっています。
「あ、そうだ53人だったな。一人余ることになるか。それじゃあ、セミス組んでやれ」
「え??」
ダットの驚きの声が口から漏れます。
「よし! やろうじゃないかダット」
先ほどまで眠そうにしていて、目すら開いていなかったセミスが急に元気になります。そして、昆虫を見つけた少年の様な笑顔ではなく、人をいじめることに快感を見出してしまう変態の笑みを浮かべています。
「うひぃ」
周りの訓練兵たちは哀れみの目でダットを見つめますが、手を差し伸べるものは誰もいません。
訓練が始まりました。
それぞれの二人組で戦闘訓練を行います。片方が地面に押しつけられたり、降参を宣言するなど明らかに負けとなったら仕切り直します。これをひたすら繰り返します。ちなみに魔術は禁止です。各々の組が散らばり戦闘訓練を始めました。その中でも別格が二組。
一組目は、もちろんルルとクヤ。やはり周りと比べても身体能力は桁違いです。魔術を使わない戦いでは二人の実力はあまり変わりません。同じ訓練を受けているはずの訓練兵から、たまに歓声が上がります
そして、二組目はダットとセミスです。言うまでもないですが、一方的な戦闘です。果たして訓練になっているのか? 突撃してくるダットをセミスが全力で弾き飛ばす。それの繰り返しです。周りから見ても訓練とは思えません。
「ふははははははは!! まだまだ!!」
セミスが楽しそうに笑います、やはり悪魔。
「おらぁぁぁ」
何度やられても、全力で立ち向かえる姿勢だけは素晴らしいです。
しかし、それではダットの訓練にはなりません。
「こらぁぁ!! お前の訓練ではないぞぉぉぉ!!」
ホークが遊んでいるセミスに起こりながら言います。意味はないと知りながらも。
一日中訓練を行い、ご飯を食べ風呂に入り寝る。この生活を毎日続けます。
訓練の内容は日によって違いますが、戦闘訓練が多めです。戦闘と知識の割合はおおよそ七対三。戦闘技術が重要視されていますが最低限の知識は必要です。知識訓練は人気がなく、日々の疲れからうたた寝をするものが後を立ちません。
士官学校の訓練はまだまだ続きます。
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