第11話 圧倒的実力の差

 竜となったクヤはその前身の大きな質量をセミスにぶつけようと尻尾を全力で振り回しています。二人の戦闘が始まった直後にホークが周りの傍観者を避難させていなければ確実に巻き込まれていたでしょう。

「おいおい、そんなもんかぁ?」

 セミスの戦闘相手を煽るスタイルは誰に対しても変わらないようです。しかし、セミスもクヤの攻撃を逃げ回ってかわしているだけの様にしか見えません。

「逃げ回ってないで、反撃したらどうですか?」

 痺れを切らしたクヤの野太い声が響きわたります。

 振り回されたクヤの大きな尻尾が先ほどできた大きな大樹にめり込みました。大樹の半分以上まで亀裂を入れ、かなり不安定な状態です。

「すげぇな、なんだあいつ」

 訓練場の土手の様になっている高台にいるダットが言いました。先ほどの戦闘で受けたマールからの魔術はすでに回復し、動ける様になりました。

「あれが、竜人族の天才 クヤ ネスモだ」

 ダットの独り言にホークが答えました。彼は腕を組み、下で戦う二人を感心した様子で見つめていました。

「確か、1000年に1人の逸材だとか」

 マールも自分が聞いたことがあるクヤの噂を口にします。

 またも、ホークがそれに返答します。

「そうだ、あの年齢で『竜神化』の魔術を使えるのは珍しい。騎士団にいる竜人の中でも使える奴は数えるほどしかいない。普通は数十年単位の修練が必要だと聞く」

「数十年・・・」

 アートの口から思ったことが漏れ出ていきます。短命の種族である人間からしたら、一つの魔術を使うために数十年の時間をかけるのは途方もない努力です。竜神族は人間と違い長命の種族であるからこそ、できる努力の量です。

「ちなみに、あの術を使える竜神族の騎士は上級騎士以上になっている。あの子も、もしかしたら。また、俺の上が増えちまう・・・」

 ホークは話しながらだんだん元気がなくなっていきます。

 二人の激しい攻防はまだ続いています。

「そろそろ終わらないかぁ? クヤ」

 セミスが疲れてきたらしく、決着を急かします。

「だったら、逃げ回るのをやめてください!」

 逃げてしかいないセミスにクヤはかなり怒っています。そんな、怒りの言葉と一緒に放たれた渾身の一撃があの大樹に当たりました。大きな衝突音の後に、大樹はゆっくりと傾いていきます。ルルたちがいる高台の方へ向けてミシミシと音を立てながら倒れます。

 どんっ!!

 低く大きな音を出して倒れました。かなり大きな大樹でしたが高台までは届きませんでした。ひとまず今ので怪我をした人などはいないようです。

「うーん。どうしようか?」

 セミスはあの大きな竜をどうやって倒そうか考えているようです。悩むような仕草をしていましたが、急に大樹の方へ向けて走り出しました。クヤもセミスを追います。

「そろそろ、終わりにしましょうか」

 クヤも戦いをそろそろ終わらせようとしているようです。

 セミスが大樹の上を走っていきます。クヤもそれに続きます。大樹は竜になっている大きな体でも問題なく乗ってられるほどの大きさです。お互いの方を向き合い戦闘は仕切り直しです。今度はセミスの攻撃から始まります。

「はぁぁぁ!!」

 セミスは勢いをつけて殴りかかります。クヤはそれを頭で受け止めます。

「竜神化とは初めて戦ったけど、ほんと強いなぁそれ。全く攻撃が効いてる気がしないなぁ」

 攻撃しても微動だにしないクヤにセミスは苦悩の表情を浮かべます。

「まぁいいけどね」

 そういったセミスは、ルルたちとの戦いで見せたように再び指を鳴らしました。

 パチン

 再び訓練場に響きわたるその音に今度は倒れた大樹から蔓が伸び始めました。

「なっっ!!」

 全く意識していなかったセミスの魔術にクヤは反応が遅れます。伸びた蔓は大樹の時のように爆発的に成長します。クヤの足から絡みついていき、大きな翼までガッチリ巻きつきました。

「君は、パワーはあるけど周りが全く見えていないねぇ。さっきの魔術を見てたら植物に近づいたらダメだよ」

 セミスは動けなくなりつつあるクヤに近づきながら話します。クヤは蔦を振り払おうと動きますが成長し続けている蔦はさらに絡みつきます。

「くっっ」

 ついにクヤは身動きが取れなくなりました。

「決着だな」

 上から見ていたホークがぼそりと言いました。高台から直接倒れた大樹に飛び乗り二人の元へ歩いていきます。

「クヤ! 私たちは君の士官学校への参加を歓迎しよう。こいつへの再戦のチャンスもまたあるかもしれんが」

 ホークが試験合格の知らせを伝えます。

「わかりました。まだまだ未熟だとわかったので、鍛えたのちこの借りは変えさせてもらいます」

 竜神化を解き人型の姿に戻りながら、再戦を宣言します。悔しがってはいるのですが決して感情的にはならずに冷静です。

「よぉし! 五人目の合格者だ、次は誰だ?」

 遠くに離れて見物していた者たちへホークが訪ねます。しかし、あまりの凄さに戦意を喪失したものが殆どのようです。

「まぁこれを見たらな、仕方ないか」

 ホークは残念そうにつぶやきました。



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