第8話 1 VS 500
「セミス兄が主席なのかぁ」
ぼけっとしているルルがおそらく頭に思い浮かんだことをそのまま口に出します。
「すげぇなセミス兄」
こちらは、いろいろ考えて出てきた言葉がこれです。
「上級騎士は確かククスにも数人しかいなかったような」
「でも、セミス兄さんと戦うって?」
アートは先ほど言われたセミスと戦う事が気になっているようです。
「いくら私たちでも、セミス兄わねぇ」
いつも自身の塊のようなルルも今回ばかりは自身がなさそうです。ルルばかりではなく、アート、ダット、マールの三人も表情が暗いです。どうやら、四人にはセミスに対するイメージが周りとは違うようです。
「よっしゃ! あいつを倒せば俺も上級騎士だぜ!」
「ははは、無理だろお前には」
「わたしに、できるかなぁ」
「大丈夫よ! 何とかなるって」
ルルたち四人の周りからはこんな声が聞こえてきます。みんな自信たっぷりです。
「こいつら、セミス兄のやばさを知らないのか」
「まぁボコボコにされてたのは僕らだけですからね」
苦い思い出が蘇ってきます。セミスからいじめられていたわけではなく、四人が喧嘩を吹っかけて返り討ちにされていただけですが。
「セミス兄に負けてたのは、過去の話。今なら勝てるわ!」
なぜか自信が戻ってきたルルが堂々と宣言します。すると、ルルの耳元から優しい声が聞こえてきました。
「誰が、俺に勝てるって?」
ルルは声が聞こえた方に振り向きます。
「うげぇ!! セミス兄!」
先ほどまで自分たちから見て上の方にある場所にいたはずのセミスがルルの後ろにいます。
「うおぉ! いつの間に!」
「全く気づきませんでした」
「久しぶり! セミス兄!」
四人の中では誰もセミスの接近に気づくことはありませんでした。
「久しぶりだなお前ら、やっぱり入団するつもりだったな」
セミスは何事もなかったように話始めました。
「たとえお前らでも、手を抜くつもりはないから全力でこいよ」
これから始まる試験で本気で倒す宣言を頂いた四人は顔が引きつっています。
「セミス兄、私たちに手を抜いたことないじゃん」
「確かにそうか」
生まれてこの方、四人に手加減を加えたことなどありませんでした。
そんな、久しぶりに他愛もない話をしているとホークが開始の合図を出そうとしていました。
「そろそろ、始めるぞ! どんな方法を使っても良い、セミスをぶっ飛ばしてやれ!!」
「ホークさん、それ自分の感情混ざりまくってません?」
500対1です。普通に考えたら勝率がなさそうな勝負ですが、セミスはホークに軽い返事を返しています。それほどまでに自信があるということなのでしょうか。
気付いたら四人とセミスの周りから人が消え円を書くように囲まれていました。まるで専用のリングです。
「よーし、それじゃあ。始めるか! まずは、お前らからだな」
セミスが改めて四人の方に振り返ります。
「よし、やるよ!」
「おう!」「はい!」「うん!」
ルルが気合を入れると、三人の返事が重なって帰ってきました。
「はっ!!」
ルルがセミスに向かっていきます。飛びかかり顔に向かって右足で蹴りを入れます。セミスは最低限の動きで交わします。蹴り、殴り、肘、頭突きなど他の種族と比べてもルルは高い身体能力をしている事がわかります。しかし、セミスは全てを軽くいなしています。
「よっと」
セミスはルルの攻撃を避け、他の三人がいる方へむけて突き飛ばします。
「うがぁ」
地面に叩きつけられたルルは、普段聞かない声がでます。
「別に、四人同時でかかってきても良いんだぞ」
余裕を見せるセミスは挑発してきます。
「くっそ! 絶対に今の言葉後悔させてやるからな!」
地面に這いつくばりながらもルルは前向きです。
「次は、俺だぁ!!」
ダットが勢いのまま飛びかかります。
「待ってください、ダット!」
次の瞬間、ダットはルルの隣に吹き飛ばされていました。
この男、やはり何も学びません。
「お前らはいつまで経っても変わらないな」
ルルたちの攻撃は全く歯が立ちません。セミスはいつまで経っても余裕を見せてヘラヘラしています。このままでは、埒が明かないと思っていましたが、考えがある男がいるようです。
「皆さん、僕の指示通りに動いてもらえませんか?」
「良いぜぇ、お前の作戦ならいけそうだなぁ」
これまで、一番マールの作戦に助けられてきたダットはかなり信頼しているようです。
「わかった、どうすれば良い?」
「まずはですね・・・」
四人は近づき作戦会議を始めます。
「お!? 何か考えてやがるな」
一方セミスは作戦を立てる四人を見て余裕の笑みを浮かべています。
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