第3話 お前たちがいなければ

 半種族ハーフレイスそれは別々の種族どうしの間に生まれた者のことをそう呼びます。アルト大陸では古くから、自分たちの種族の血に誇りを持ち生きているものがほとんどです。その中で彼らは、混血の存在として忌み嫌われる存在なのです。今、彼らが嫌われているのはそれだけが理由ではないのですが。


「ぐっっ! 半種族だったらなんだっていうんだ!」

「お前たちのせいで苦しんでる人たちが沢山いるんだ!」

「ぼくは、何もしてない!」

 ルルと半種族の少年は口論を始めます。口論の前にルルは手が出ていてどちらかと言えば喧嘩です。ルルが一方的なので喧嘩かどうかと言われれば微妙ですが。

「お姉ちゃん! 落ち着いて!」

「こいつらが、いなければ私たちの父さんと母さんは!」

 アートが止めようとしますがルルの耳にはまったく届いていません。

戦争のときは、ぼくは生まれてない」

「うるさい!!」

 そういってルルは壁に押さえつけていた少年を力任せに投げ飛ばします。半種族の少年は抵抗する力もなく軽々と投げられてしまいました。少年は近くにあった資材やらゴミやらが並べてある場所にガシャンと大きな音をたてぶつかりました。

「なんだ今の音は?」

「何があった?」

 どうやら今の大きな音を聞きつけて人がやってきます。そのほとんどがルルたちが住むスラム街で暮らす人たちです。

「うぅぅ」

 ルルは伸びている少年にゆっくりと近づいていきます。先ほどまで激怒していたとは思えないほど落ち着いた様子でゆっくりと。

 少年の目の前まできたルルは近くに落ちていたガラス片を右手で強く握り締めます。自分の手が傷つきどんなに血が流れようとお構いなしに。そしてその右手を大きく振りかざします。

「だめだ! お姉ちゃん!」

「私が過ちを正すの」

 アートの声も届かず、とても冷静な判断ができる状態とは思えません。

 半種族の少年はとても怯えた様子で、その場から動けないでいます。今、彼の目にはルルが牙が生え恐ろしい爪を持った怪物のように見えているでしょう。

 少年に向けてルルは右手を振り下ろします。

 その場にいた全員がもう手遅れだと思いました。

 尖ったガラスの先が少年の首に迫っていきます。


「待ちなさい、ルル」

 どこからか優しい男性の声が聞こえてきたかと思えば、背の高い男がルルの手首を掴みガラスが突き刺さるのを止めました。

「ドルさん」

 その男をみたアートが安堵の声を漏らします。

 ドルと呼ばれた男は背が高く全身灰色の毛で覆われている狼の獣人。

 顔にはシワが目立ちそこまで若くない見た目です。

 カラン。

 ドルはルルの右手に握りしめられていたガラス片を地面に落としました。

「ルル、落ち着きなさい」

 低くゆったりとした話し方でルルに話しかけます。その声にどうやら少しずつ落ち着きを取り戻してきたようです。

「ごめんなさい、ドルさん」

「私には謝らんでもいい。その子に謝りなさい」

「やだ!」

 そういったルルは、掴まれていた右手をふりほどきスラム街のほうに走って消えてしまいました。

「どうしょうもない子じゃ」

 そういってドルは小さくため息をつきました。

「すまんかったのぉ坊主。動けるかの?」

「なんとか」

 かなり強い勢いで投げ飛ばされましたがなんとか歩けるようです。

 その様子を見て一安心したドルは手でアートを呼ぶような仕草をします。

 アートがドルの元に駆け寄ってくると。

「ほれ、こんなもので悪いが持っていけ」

 ドルはアートが持っていた袋からひょいとパンを取り出し少年に渡しました。

「どうせ、こいつらが盗んできたものだろうけどな」

 嬉しそうにパンを受け取ると少年はドルに一度頭を下げ走り去っていきました。

 

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