第2話 私はお前たちが嫌いです

「だいしゅうかく〜!」

 市場での逃走劇の際に街の人たちからルルと呼ばれていた少女は、嬉しそうに戦利品の赤い果物にかぶりつきます。

 そんな彼女の後ろにもう一人アートと呼ばれた少年が息を切らしながらなんとかルルの後ろについていきます。

「もう少し。ゆっくり。歩いて。お姉ちゃん」

「情けないなぁ。もっと体力つけなさい」

「お姉ちゃんが。ありすぎるんだって!」

 途切れ途切れに喋りながらアートはルルに言い返します。しかし、そんな会話もルルはあまり興味がないようで。果物をかじりながら。周りながら。鼻歌を歌いながら。前に向かって歩いています。なかなか器用なものです。

「ふんん、んん〜」

「ちゃんと歩きなよ。危ないよ」

「ふが、もがぐごっ!」

「うわ! 食べながらしゃべらないでよ」

 やっと息が整ってきたアートが注意しても聞かずに動き続けます。なぜかわかりませんがかなり機嫌がいいようです。

「さっきの魔術凄かったな! 騎士団にはあんなのが沢山いるのかな?」

「そのすごい魔術の標的だったのになんでそんなに嬉しそうなのかなぁ」

「ん?」

 二人はそれほど仲が悪い姉弟ではないのですが、むしろ仲がいい方ですが。

仲のいい姉弟でも、お互いの気持ちまでは理解できていないようです。

 そんな姉弟水いらずの会話は長くは続かず、問題はいつも急にやってきます。

「あっっ!」

「うぇあぶっ!」

 全く前を見ていなかったルルは別の道から出てきた誰かとぶつかりました。

果物を食べながら歩いていたせいで変な声が出てしまいました。ぶつかった時に変に口の中のものを飲み込んだらしくルルはむせてしまっています。

「ちょっ! お姉ちゃん大丈夫?」

「大丈夫。びっくりしただけ」

 前を見ずにぶつかったというのに尻もちをついたりせず立ったままでいられるのは、やはり身体能力のおかげでしょうか。ぶつかったもう一方の人はかなりの勢いで突き飛ばされています。

「ごめんね君、大丈夫?」

 首元にマフラーのように布を巻きつけボロボロの服を着たルルの被害者は、背丈はおそらくルルたちと変わらないぐらいなので年齢もそんなに変わらない子供。よく見ると顔つきも人間にとても似ていて人間かとルルは思いましたが、耳が少し長いように見えたのでおそらく別の種族。

「本当に大丈夫?」

 なかなか立ち上がってきません。どこか怪我でもしたのでしょうか。

「お姉ちゃんが強くぶつかりすぎなんだよ、大丈夫? 立てる?」

 アートが倒れたその子に手を伸ばします。

「食べ物」

「ん?」

「食べ物を分けてください」

 かなり弱った声でその子供は必死に食べ物をせがんできます。よくみると腕や足が細く痩せ細りしばらく何も食べていない様子。ルルとアートはお互い顔を見合わせた後、ルルが持っていた袋からパンを取り出し子供にあげようとしました。すると、嬉しそうに顔をあげます。

「ありがとう!」

 そういってルルたちを見た子供の顔にはおよそ人間のものでもエルフでもない明らかに他の種族のものである牙が口元に見えました。

「お前・・・」

 ルルが差し出そうとしていたパンを引き戻します。

「あっ!」

 その子供が気づいた時にはもう遅くルルによって壁に押し付けられていました。ルルはかなりの力で壁に押しつけ言いました。

「お前、半種族ハーフレイスだな?」

 

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