なぎの木
世の中、植物を育てるのが非常に上手な人がいる。
身近な例でいうと私の母がそのタイプの人間である。母宅へ行くと、至るところにいきいきとした草花が植えられている。花を咲かせるのが難しいと言われるサボテンも彼女の手にかかれば大輪の花を咲かせ、職場の同僚から預かったという枯れかけのハイビスカスの鉢植えも数か月後には元気な状態へ戻る。
羨ましい。どういう魔法を使ったらそういう風になるのだ。
かくいう私は草花を育てるのが非常にへたくそな人間である。たいてい構いすぎて根腐れさせてしまうので、ここ数年は時々切り花を買って飾るくらいしか植物に触れる機会がなかったのである。
ところが、この自粛期間中、あまりに生き物と触れ合わなかったせいだろうか。なぜか「なにかを大事に育てたい」という思いが爆発して、勢いのまま鉢植えを買ってきた。
それがなぎの木である。
思い起こすと、たしか二〇一七年くらいだったろうか。花屋に行くと「幸運を呼ぶ植物である」という謳い文句で小さな若木が売られていた時期があった。実はその時に一度購入したことがあったのだが、例によって構いすぎて根腐れさせた。そういう訳で、おっかなびっくり、二度目の栽培チャレンジを決行することとなったのである。
今までの失敗は構いすぎが原因なのだから、土が乾いてから水をやることを徹底することにした。よくある観葉植物の育て方には「夏場は毎日水をあげてもいい」と書かれていたが、それを鵜呑みにしたらきっと私はまた失敗する。
色々試したところ、我が家の環境では気温が高い日でも土が乾ききるまでには三日くらいかかるようだ。葉水だけはあげるようにして、とにかく徹底して放置を決め込むことにした。
そんなことを繰り返し、ひと月ほど経った頃だろうか。
葉の様子を観察していたところ、ふと、小さな若芽が伸びていることに気が付いた。おやと思っていたら、それはみるみるうちに伸びて、大きく立派な葉を広げてくれた。
正直に言おう。小学校時代に育てた朝顔以来、初めて自分の手で草花を成長させることに成功したのである。
嬉しくて嬉しくて、しばらく写真を撮ったり風にそよぐ姿を眺めたりして、時間を忘れて楽しんだ。植物を育てるのがこんなに楽しいとは思わなかった。
現在栽培三カ月目となり、暑さもわずかに緩んできた。日照りの時期を比べたら芽の伸びる速度は落ちた気がするが、今も元気に葉を広げている。来春までこの姿を維持出来たら、今より大きな鉢に植え替えをしてやるつもりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます