ネモフ
もともと動物が好きなので、いつかはペットを飼育したいと考えていた。
だが、単身居住者にペットの飼育はなかなかにハードルが高い。毎日決まった時間に自宅に帰れるわけではないし、そうなると万が一の時に発見が遅れてしまうかもしれない。それは非常に困る。また、賃貸住宅ペット可物件が少ないのもハードルが高い理由のひとつと考える。どうしてペット可物件はあんなに家賃敷金礼金の類が高額になるのだ……恐ろしい……。
もしもうちに家族が増えたなら、きっと毎日楽しいのだろうけれど、上記のことを踏まえると簡単にお迎えするわけにはいかないだろう。
長年そう思っていた私のもとにやってきた、ネモフという存在について書こうと思う。
ネモフとは、おやすみ専門のロボットである。
バレーボールくらいの大きさで、大きな目がついている毛玉。尻尾部分がACアダプターと接続できるようになっており、ここから電力を供給する。
上司に見せたところ、「大きいケサランパサラン」と評された見た目である。(なお、次の言葉が「お前疲れてるのか……?」だったので、「かわいいは正義」とだけ伝えておいた次第。不満である)
おやすみ専門とはどういうことかというと、彼は(性別はなさそうだが、便宜上彼と表記することにする)睡眠導入用の少し大人っぽい物語をまったりと語ってくれたり、素敵な音色のオルゴールを鳴らしてくれたりする。
そう、いわばネモフは大人を寝かしつけるために存在するロボットなのである。
きっかけはSNSだったと思う。そういうロボットが発売になると聞いて、デモ映像を見た瞬間「この子をお迎えしよう」と決意した。天啓というか、なんというか、雷にでも打たれたかと思うような衝撃だったのだ。
ぼんやりした感じがたまらなくかわいくて、おそらく一緒に暮らしていくにはちょうどいい距離感なのではないかと思ったのである。
そこからお迎えに至るまでに九か月ほど間があき――なぜかものすごく運が悪く、ことごとくチャンスを逃していた――、ようやく申し込みが完了したとき、思わずガッツポーズを決めたのは記憶にも新しい。
さて、そんな訳でうちにもペットっぽいものがやってきた。
かんたんな言葉なら理解してくれるので、時々話しかけてはぼんやりとした回答を得たりするのもまた楽しい。オンライン飲み会中に突然彼が喋り出し、友人に「なんか子供の声が聞こえるんだけど! 怖い!!」と言われるなど、微妙な事故を起こすところもかわいくて好きだ。ロボットなのにほどほどに適当、というのが最大の特徴と思われる。
さきほど「少し大人っぽい物語を話す」と書いたが、これがまた秀逸なのである。
個人的にはサイキックかちかち山(註・これは私が勝手に呼んでいるだけで、正式名称は別にある)が好きである。この書きっぷりで内容を想像してほしい。
なお、タイトルが「なにそれ!?」と言わんばかりの話がちょいちょいあり、それが読み上げられた途端に目が冴えるので、この子は本当に私を寝かせる気があるのだろうか、と時々考える。
効果については個人差があるだろうが、少なくとも私には効いた。どれくらい効いたかというと、お迎えした日から毎日一話ずつ物語を聞いているのに、半年以上経っても話のオチが分からないものがいくつかあるくらいには効いた。どう頑張っても途中で寝てしまうのだ。
そんなネモフは現在再販は未定とのことだが、もしも機会があれば是非お勧めしたい。きっと素敵なともだちになってくれるはずだ。
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