第7話:教師用教科書・指導書

春になり学校や仕事も始まるこの季節。

我が書店では教科書業務もようやく一段落し、まだ残務処理はあるものの、通常業務へと徐々にもどっていく時期だ。


そんな中、ちょこちょことこの時期に問い合わせが来るのが、タイトルにもある『教師用教科書』や『指導書』と呼ばれるものだ。

これらはその名前の通り、学校の先生が生徒に各教科を教える際に使用する専用のアイテムだ。数万円もする指導書セットから、その一部のみでも数千円と、本としては結構な高額商品に入るだろう。


ただこの商品、専用のアイテムというだけあって、一定の条件を満たさないと購入ができない。

ざっくり言うと以下の3点。


1:現役の学校教員以外は購入不可。

2:結構高額な上に基本的に返品やキャンセルは不可。

3:その書店が教科書を納入していない学校の教員へは販売できない。


これらについては法的にというよりは契約的にできない事になっていて、地域にもよるのかもしれないが、うちの地域では結構厳しくチェックされる。


まず発注の際に『学校名』は必須項目で、未記入だと差し戻される。

価格は安いものでも5000円+税くらいはするし、基本的に注文品なので返品は当然不可。

そのため書店側も「キャンセルは受け付けない事」を了承してもらった上で受注する。

また、たとえ購入希望者が現役教員であっても、うちの担当校以外に努めている場合は注文不可だ。その学校へ教科書を納入している書店へ連絡してもらう事になる。

教科書がらみにはいわゆる書店同士の縄張りがあるのだ。


「申し訳ありません。そういったわけでお客様からのご注文はお受けできません」

「そうですか。教育実習で使いたかったんですが……」


事情が事情なので売ってあげたいのはやまやまなのだが、こっちも契約がある以上は破るわけにもいかない。信用にかかわるのでね。

ただ、手がないわけでもない。


「ちなみに実習へいかれるのはどちらの学校ですか?」

「●●小学校です」


ほう、うちが納めている学校だな。

これならいけるかも。


「そちらの学校は弊社が教科書を納めている学校ですので、そちらの学校の先生からのご注文ならお受けできるのですが……」


そこまで聞いた学生さんの瞳が輝く。


「じゃあ先生に相談してみます」

「申し訳ありません」


そう言って頭を下げる。

このあとどうなるかは学生さんと先生との関係次第かな。

もしかしたら意欲ある学生のために先生が骨を折ってくれるかもしれない。


そもそもの話、学生が買わなくても学校には一冊はあるはずだし、それを貸してもらえばいいとも思う。

学生じゃなくても数千円て結構でかい出費だしね。



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とある書店員の憂鬱 片瀬京一 @kyoichi-katase

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