第5話:教科書について 基礎編

ウチが扱う商品で特殊な物のひとつに教科書がある。


教科書は国が関わる特殊な商品で、特定の書店でしか購入する事はできない。

その様な書店を「取次供給所」といい、ウチもその取次供給所のひとつだ。


簡単な教科書の流れは以下の通りになる。


発行者:出版社

特約供給所:教科書の問屋さんの様な存在

取次供給所:書店など

各学校や個人


これで分かる様に、学校や個人へ教科書の供給を直接的に行っているのは、取次供給所となっている書店である。


取次供給所には、それぞれ担当する学校が決められている。

これは特約供給所との契約に基づくもので、基本的にはその担当になった学校以外には教科書の供給を行わない。


教科書の価格は通常の本とは違い、出版社ではなく国が決める。


毎年3月上旬ごろ、官報という国が発行している公告文書に、新年度である4月から使用される教科書全ての価格が掲載され国民に告示される。


この官報による告示がされる前は「予価」という扱いになるので、これがまた複雑さを生んでいるのだ。


考えてもみて欲しい。


4月から使う教科書の価格が、3月にならないと決まらないのである。

年明け早々には、すでにウチの倉庫にガッツリと運び込まれ、天井まで積み上げられているというのにだ。


そのため、教科書には価格表示がされていない。

かわりに各取次店に、価格表が置いてあるので、価格を知りたい場合はそれを見るのが一般的だ。

特約供給所のホームページを見れば、自分の地域はどの教科書を使い、価格も見られると思うので、ご興味がある人は見てみるといい。


ちなみに教科書は非課税なので、消費税はかからない。

小中学校は義務教育のため、初回に限り無償供給される。

ただし、紛失したりした際は個人で実費購入だ。


最近はコロナの影響か、学校経由で紛失した生徒の教科書を頼まれる事例が増えた。

先生の依頼で学校へ届け、代金と引き換えに先生に教科書を渡す。

その代金は実費のため、先生が生徒やその保護者から回収するわけだ。


教科書が買える書店が自宅から遠い場合などは仕方ないとは思うが、学校や先生の仕事が増えてしまうのもどうなんだろう?

なんてちょっと思ってしまった。


ちなみに、教科書は薄利多売の見本の様に「超薄利」の商品だ。

普通の本は「仕入れ値が定価の8割」とどこかで書いたと思うが、教科書はもっと上をいく。

おまけに単価が安いので、最近は手間と利益が割に合わないと感じる事も多い。


先に書いた学校へ生徒の紛失分を届ける話を例に考えてみよう。


定価200円の教科書を生徒が無くしたとする。

連絡を受けた書店が学校へ届け、代金の200円を回収する。

数字だけ見れば±0で、書店としては定価の2割である40円が利益だ。


これの問題点は、数字に出ていない所にある。

少なくとも経費として以下の2点はかかってくる。

配達した人間の人件費と、移動のためのガソリン代だ。


ちなみにウチの地域では、最低賃金が時給1000円である。

こうしてちょっと考えるだけで、利益の40円なんて吹っ飛んでしまうのがわかるだろう。


だからお願いです。

教科書は無くさないでください。

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