第4話:欲しいものが来ない

『往年の名作』と呼ばれるライトノベルの新刊が、十年ぶりに刊行される事になった。

 アニメ化などのメディアミックスをはじめとして、過去にはかなりの人気を誇った作品だ。

 久しぶりの新刊という事で、各メディアも大々的に宣伝し、出版社も大いに盛り上げようと宣伝に力を入れている。


 ベストセラー間違いなし!

 当然ウチのお店でも大きく売り上げが見込める訳で、なるべく多くの冊数を店頭に並べたいと思うのは、当然の考えだろう。


 しかし、そう上手く事が運ばないのが、この書店および出版業界なのだ。

 先日の事、電話で予約入れた時の事……。


「今度出る新刊の予約をお願いしたいのですが」

「申し訳ありません。当社ではご予約は承っておりません。取次の方へお願いします」

「そうなんですか。わかりました」


 散々テレビなので「今度でますよ~♪」などと煽るように宣伝している癖に、出版社では予約注文を受けていないと言う。

 これだけでもおかしな話なのだが、出版社からそう言われては仕方がない。

 あらためて取次店へと電話する。

 ちなみに取次店とは要するに問屋さんの事だ。


「今度出る新刊の予約をしたいのですが」

「申し訳ありません。ご予約は承っておりません。入荷数が分からないのでお受けできません」


 と、こうなのである。

 こうなると、長い事業界にいる者としては「ああ、またか」という感じになってしまう。


 書店業界には『実績配本』という言葉があるのだがしっているだろうか?


 特に文庫に多いのだが、それぞれの書店の販売実績に応じて、出版社や取次店において、各書店への配本のランク付けがされているのだ。


 基本的には、このランクで初回の入荷数が決まる。

 簡単に言えば、実績の多い書店にはより多く入荷し、実績の少ない書店にはより少なく入荷する(当然入荷がゼロの場合も多々ある)。


 これは単純にそのお店の販売数で決まるので、特に何もしなくても来客の多い都市部の書店には多く入荷して、ウチの様な元々の人口が少ない地方の小規模書店には全然入荷しない。

 なんていう状況が生まれるわけだ。


 この実績配本というのは、出版社や取次では絶対的で非常に強力だ。

 まぁこれは分からないでもない。

 利益を求める企業である以上、実績がある所に商品を多く卸すのは当然だ。


「客注の一冊だけでもどうにかなりませんか?」

「申し訳ありません。予約は受け付けておりません」


 以降はこの問答の繰り返し。

 結局、出版社も取次店も「受け付けられない」の一点張りである。

 客注分(お客さんからの注文分)すら受け付けて貰えないのだ。

 これは正直どうかと思う。


 時々都会に出て、ふらりと本屋さんに立ち寄る。

 そこにはウチには入荷しなかった本が山と積まれていて、大々的にキャンペーンなんてしているのだ。


「このうち数冊でもウチにくればお客さんに満足してもらえるのに……」

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