お地蔵さま

山岡咲美

お地蔵さま

「お地蔵さまって知ってる?」


「ちっちゃい石の仏さまでしょ?」


「そうそう、でもアレって何でいるか知ってる人少ないよね」


「何でって、そりゃ事故を防いだり起きた事故をともらったりとかでしょ?」


「違う違う、みんなアレを安全祈願やおともらいの為って思ってるけど違うのよ」


「なに?」


「アイツ監視してるの」


「監視?」


「そう、アイツって地獄の閻魔大王がよこした監視者、地獄のスパイなのよ」



 コワっ!



 自転車を推すセーラー服の少女は朝の通学路で同じく自転車を推す詰襟の少年をびびらす。

 

「でもさ、そゆ事ならお地蔵さまの前で悪さしなけりゃいいんじゃないかな?」


 僕[青島直太あおしまなおた]は素直にそう思った。


「無理ね、ヤツらついて来んのよ」


「ついて来る?」


 彼女[赤城神楽あかぎかぐら]はさらに続ける。


「ヤツら自分の前を通った人間に取り憑くのよ」


 神楽ちゃんが僕の後ろを見る。


「え?」


「直太、後ろ……」


「嘘でしょ」


「………」


「神楽ちゃん何か言ってよ」


 神楽ちゃんは何も言わずに先に進む、彼女の背中を気にしながらも僕はもっと気になる事が出来てしまった……。


『……やっぱり直太信じてるんだろーなー』


 私は思う、直太は面白い、彼はこの手の話を直ぐに真に受ける、今も私と自分の背中を気にしながらついて来てる筈だ。


「ねえ、ちょっと神楽ちゃん神楽ちゃんってば、後ろ、僕の後ろ何か居るの?お地蔵さま?お地蔵さまなの?」


 僕は心から思った『神さま仏さま閻魔さま、僕の背中に目を下さい』


「あっそうだ、心の中で変な事とか考えない方がいいよ、ヤツラ心を読むから」


『心読まれた!!』


 もはや神楽ちゃんの方が恐い……。



***



「おはよ神楽」


「おはよ陽子」


 校門の前で[八谷陽子はちやようこ]と出くわす、八谷さんは神楽ちゃんの友達で


「何?今日もご一緒ですかー?毎日とはコレはコレはもうお付き合いしていると言っても過言では無いですな」


 このような愉快な性格を成されている。


「何よ~♪ご近所なだけだよ♪♪」


「神楽、ソレを人は幼馴染みと言って小説や漫画などでは確実なお付き合いが約束されております」


 朝のルーティーンワーク、最初は僕も照れもしたけど最近は慣れた『人間は何にでも

慣れるもんだな』と僕は思った。


「ねえ、ところで知ってる?あの噂」


 朝のルーティーンを終えて八谷さんが切り出す。


「何?陽子」


「足切りストーカーの話」


「また変な話仕入れて来たわね陽子、足切りストーカーってなに?」


『僕も気になるな足切りストーカー』


 僕は突然話が代わる八谷さんは何時もの事と置いといてそのパワーワード[足切りストーカー]に耳を奪われた。


「[島山神社しまやまじんじゃ]有るでしょ神楽」


「ああ、住宅地の真ん中にポッコリある山の、陽子の家近くだっけ?」


 下駄箱で上履きに履き替え履き替え彼女達の話は続いていた。


『たしかあそこ古墳だとか何か在るって言う話だったな……』


 僕がそう思っていると更に八谷さんは続ける。


「そうそうウチの近く、神社の癖に鳥居の横にお地蔵さんがいる」


『げっ!お地蔵さまか……』


「ふーんお地蔵さまいるんだー」


 神楽ちゃんが僕の方を見てる、また心を読まれた?イヤな予感しかしない……。


「でね神楽、そこの神社で事故があったんだけどさ」


「足が切られてたの?」


「そっアキレス君がバッサリ」


『げっ!ホラーって言うかスプラったな』


 流石にスプラッターになると神楽ちゃんも女子のはしくれとして……


「行ってみよう!」


『うん駄目だった、神楽ちゃんいのもいのも好きすぎる!!』


 僕は誘われませんように、僕は誘われませんように、僕は誘われませんように!


「じゃあさ陽子、今日の放課後行ってみようよ!」


「OK!」


『八谷さんも大概好きだな、でも僕は誘われて無いよね、「じゃあさ、今日の放課後行ってみようよ!」だったし』


「青島はどうすんの神楽?」


「直太はデフォルトでついて来るから」


『デフォだった!!!』


 まあ、心配だし……ついて行く事にはなったんだけど……。


 神楽ちゃんが何かやらしい目で僕を見ている。



***



「で、ここですか八谷さん?」


 僕と神楽ちゃんと八谷さんは島山神社の鳥居の前まで来ていた、八谷さんの言った通り鳥居の横には場違いなお地蔵さまとポッコリやまの頂上にある神社本殿へとつながる三千階段と呼ばれる細くて長が~~~~い階段が延々と続いていた。


「ねー陽子、私思ったんだけどさ、これって普通に歩いていてアキレス腱切ったって話じゃ無いの?」


『まあ、一番ある線だな……』


 僕はそう思った。


「それが違うんだな、ほら、足切りストーカー、ス、ト、ウ、カ、アー!」


「足を切るだけじゃ無いって事?陽子」


「そっ、被害者は階段を登ってる時から後ろに気配を感じって話よ」


「うーん、でもこう言う場所だし、お化けとか気にする人なら気配を感じるくらいあるかもだし~、それに気を取られて転んだ拍子に切ったっておかしく無いわよね」


 赤城神楽は結構なリアリストだった、別にお化けとかを信じているからそれでからかうのでは無い、居もしないと彼女が思う事に僕が怖がるのが面白いのだ。



『それはそれで酷い話の気がするけど……』



 僕は鳥居の横のお地蔵さまに手を会わせる、僕が少し?イヤだいぶ必死な様子でお願いしていたので2人も仕方ないなって感じで手を合わせてくれる。



 きっとこれが正解だった……。



***



「まっ、まだなの陽子?」


「だって神楽、階段だもん!」


『イヤ流石には無いと思う』


 僕は心の中でそう思う、だってこの山古墳らしいから多分人工物でそんなに大きい筈がない……。


 多分と言うのはここの神社が宗教的理由で調査を断っている為で実際は古墳ではないかもしれない、ただ周囲の地形からこの山が人工物である事は確からしいのだ。


「何かヤバくない神楽?」


「そう?ちょっと後ろから見られてる気がするだけだけど」


『いや十分ヤバい!なんか背中?いや足元にすごい視線を感じる?アキレス?アキレスなの?』


 僕ら3人が人のすれ違える程度の広さしかない階段を山の中腹まで歩いた時の事だった、3人が3人じっと見つめる視線を感じ始めたのだ。


「どうする?下りる??」


「何言ってんの陽子、ここまで来てそれじゃ検証になんないじゃない」


『僕らは何を検証しに来たんでしょうか?この階段の造りじゃ狭くって真ん中通る神様の邪魔になる事かな?それとも古墳の上に神社作って鳥居の横にお地蔵さま置くって言うエキセントリックな構造が霊的に問題あるかもって事をかな?』



 お金も節操もなかったのかな?この神社。



***



「……ほら大丈夫でしょ!」


『いや大丈夫じゃないよ神楽ちゃん、山頂ついて八谷さん顔色悪いよ絶賛吐きそうだよ、失敗したって顔してるよ』


「か、帰ろうか神楽」


「そっ↑、そうね↑」


『神楽ちゃんも声上ずってるけど』


 山頂にある神社は小さな祠がポツンとある程度で『ココ普段は人なんて来ないんだろうな』って思える場所だった。


『階段が細いの当然だよ、ココにわざわざ来ようなんて物好き僕らみたいな噂好きの怖いもの見たさか管理人の神主さまくらいだよ』


 僕はもうココから帰りたそうな神楽ちゃんを見て少し『ざまぁ』とか思ってみる。


「じゃ帰るわよ、直太あんた一番後ろね」


「一番後ろ?神楽ちゃん何で……????」


『怖いのなら僕を前に出して盾に……あっ』



 そうでした、足切りストーカーでした。



「私!陽子!直太!の順で下りるから」


 僕は一番危ない場所に追いやられたが神楽ちゃんが気分悪そうな八谷さんを真ん中に入れたのを見て『人の心はあるんだ』いや『優しいんだ』って思った。


「私優しいでしょ♪」


『本当にお優しいなら一番後ろをお願いいたします』


「ごめんね神楽、青島、」


『本当に気分悪そうだな八谷さん、早く下りた方が良さそうだ……』


 僕らは既に日が落ちかけた夕暮れの階段に足を取られない様にゆっくりゆっくり下りて行った、実際ココでアキレス腱切ったってって人は下りだったらしいし山道や階段は下る時に事故が起こりやすいって聞くからだ。


「………」


「………」


『2人しゃべんなくなったな、さっきから背筋がゾゾってしてる、何でこんな不安な気持ちになるんだ?何でこんなに寒気がする??2人も同じなのかな?』



「「鳥居だ!」」



 2人が一斉に走り出す、僕を置いて……。


『神楽ちゃん、八谷さん、それって逆に危ないよ』


 僕は……


「今『転べっ!』て思ったでしょ!!」



 思いましたよ神楽ちゃん♪



***



「あーーー!怖楽しかった♪♪」


 八谷さんが背を伸ばしバカな台詞をほざいている。


「神楽、また何か怖い話を仕入れたら一緒に行こうね♪」


 さっきまでのヤツ何?八谷さんは反省とか後悔とかしないの?


「直太何してんの?」


「お礼」


「律儀だね青島は」


 僕は無事だった報告と、もしかして守ってくれたかも知れないお礼を兼ねて鳥居の横のお地蔵さまに手を合わせた。


「………」


「………」


 2人も顔を見合せ静かに手を合わせる。


「じゃ陽子、また明日学校で」


「じゃ神楽、また怖い話があったらそん時もよろしくで」


「いや、もう怖いのいいからお2人さん」


 僕と神楽ちゃんは八谷さんと別れ自転車を推しつつ家路へと向かった。


「でも何だったんだろうねあの視線」


『やっぱ神楽ちゃんも感じてたんだ……』


「私、霊感とか無いって思ってたけど2つも視線を感じちゃうとね」


「2つ?」


「そうそう、ずっと憑いて来てたのと階段で足元狙ってた奴」


『………』


 僕は後ろを振り返る。


「神楽ちゃん……今も?」


「うん、今も」


 そこには何も居ない、そして僕もう気配を感じない。



***



「おはよう神楽!青島!!」


 八谷さんが何だか手を振りながら駆けて来る、イヤな予感しかしない。


「あっ陽子、何々?」


「神楽ニュースニュース!」


 あの神社に行った次の日、八谷さんのニュースとやらに僕はあまり驚かない、むしろ納得がいった。


「知ってる?今朝近所のおばあちゃんが言ってたんだけどあのお地蔵さま、そっ、あの鳥居のお地蔵さま……」



 八谷さんは一息留めてこう言った。



「背中が傷だらけだったんだって」



 まるで鋭利な刃物で斬りつけられたみたいに……。

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お地蔵さま 山岡咲美 @sakumi

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