ワールドチャンピオン!!

山岡咲美

ワールドチャンピオン!!

「最後はかならずわたしが勝つ!!」

 彼女[蒼井あおいアスカ]は真正面から言いはなった。


 ふんっ


「勝てると良いね」

 彼[東城とうぎトシキ]はアスカの横をスリ抜けながら見くだす様な視線でそう言った。



「ようこそ世界の皆さん、ここは日本、静岡サーキット、WTRGP、ワールドトーナメントレーシングカーグランプリ決勝の会場です、ついに決勝戦ですよ海田かいださん」


「そうですね実村じつむらさん、まさか日本人2人がドライバーズポイントで並んでいるとは私も驚きです」


 メディアブースでは実況の[実村京介じつむらきょうすけ]と解説の[海田勢津子かいだせつこ]がレースコースが見おろしている、コースの回りには特設スタンドも設置されこの戦いを観ようと多くの観客が熱狂と興奮の中集まっていた。


「しかしすごい盛り上がりですね海田さん」


「当然ですね、何せ全世界から予選リーグを勝ち上がって来たドライバー16人の頂点を決めるレースですからね」



 ガチャンッ!!



 一瞬にして会場全体のライトが消え、モーター音と共にカーナンバー2の車体が二つ目の蒼いライトを灯しコースインする。


 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!!


「来ました!この歓声!!カーナンバー2、この静岡サーキットにおいてコースレコードをもつ挑戦者、蒼いイカヅチの車体マシン[ブルーサンダーインパルス]を駆る静かなる情熱のヴァルキリー、蒼井アスカです!」


「彼女は今期新たなステージに上がったともっぱらの評判ですよ、何より彼女の走りはわたくしを含め観客を魅了しますからね」


「おっ、そしてぇ!!」


 キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(*ノωノ)( ☆∀☆)(≧▽≦)∩(´∀`∩)Σ(゚∀゚ノ)ノ(/ω\)O(≧∇≦)O《*≧Ψ≦》ヘ(≧▽≦ヘ)(>_<)♪o((〃∇〃o))((o〃∇〃))o♪(*ノ▽ノ*)(/▽\)♪( 〃▽〃)Σ(゚∀゚)《*≧∀≦》(>+<)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️


「この大大大大大歓声!!!!」


「来ましたね、チャンピオン!」


「女子が!女子が!女子が!!大歓声でカーナンバー1を迎えます!!」


「私も彼大スキです❤️何か可愛いですよね彼❤️つっけんどんな所も❤️ス❤️キ❤️で❤️す❤️」


「ま~ったく公私混同華々しいですね海田さん」


「実村さん、実況実況!」


「おっと、これは失礼!」



 そしてチャンピオンマシンは六つ目のライトで静かにコースを照らす。



「さてと来ましたこの男、発想力の塊、マシン開発の鬼子おにご「オレの前にひざまづけ」は彼のアイデンティティー、漆黒の毒針エイ[ディープブラックスティングレー]がレーシングコースにぶれなく!揺るぎ無く!張り付くかの如く!ナイトオブプロフェッサー東城トシキと共に推参です!」



 そしてまた会場は煌々たる明かりに包まれ観客たちは息をのみ、2台のマシンがスタートラインに並びたちカウントダウンを待った。



「どうでしょう?海田さんこのレース」


「そうですね、マシンの設計思想に起因するドライバーの運用方法が異なる両者のレースです、コースレコードこそは彼女が持って居ますがそのタイムは一発勝負って感があります、一方トシきゅん❤️……失礼、彼は安定した走りで常に自己最高タイムを出し続ける選手です」


「確かに蒼井選手の走りには危うさがありますね、ではそのマシンの設計思想と運用方法について解説をお願いしま……」


「いえ、始まりますよ実村さん」



 スタートライン前のバナーモニターに30秒のカウントが10分の1秒まで表示され直ぐさまカウントダウンを開始した。



 25!



 20!!



 15!!!



 10!!!!


 観客達がカウントの声をにわかに揃え叫んで行く。


 9!


 8!


 7!


 6!


 5!


 4!


 3!!


 2!!!


 1!!!!


「ブラックアウト!!!!!!!!」



 実況の実村京介は渾身の力で叫んだ!!



「やはり飛び出したのは蒼井アスカ選手のブルーサンダーインパルス!彼女のマシンブルーサンダーインパルスは後輪2輪駆動の軽さ重視のマシンで停止状態からの加速が鬼速おにはやなんです!」


「そうですね海田さん、一方チャンピオンマシン、ディープブラックスティングレーは不気味にあとを付け狙って第1コーナーへ!」


「ここです!!」


 解説をしていた海田は叫んだ。


 そしてその瞬間観客は息を飲みため息と歓声の両方をあげた。


「やはりぃスゴい!!!」


 まずブルーサンダーインパルスがコーナーに明らかなオーバースピードで突っ込む!しかし彼女のマシンはテイルをぎゅるりんと振りコーナーを直角に曲がるかの如くドリフトをかましたのちコーナー出口では既にアクセルは全開タイヤを鳴らしながら一気にスピードを立ち上げて行った。


「海田さん今ボタン使ってましたか?」


「ええ、確かにブルーのモーター音が一瞬だけ変わったように聴こえました」


「でも一瞬でしたね海田さん」


「ええ、オーバーテイクボタンつまりモーターブースターはレーシングレギュレーションにより秒数が決まっています……しかしこれは短い?!」


「つまりどう言う事でしょう?海田さん」


「もしかして彼女?……あっヤッパリ!!」


「まただ、またドリフトと共に一瞬だけ加速しましたよ海田さん」


「はい実村さん、おそらく彼女、蒼井アスカ選手は全てのコーナーでボタンを使う気じゃ無いでしょうか?」


「本当ですか?海田さん」


「ほらまたです実村さん!」


「ええ、ええ!本当だ、蒼井選手……蒼井選手は決勝に来ていきなり走りを変えて来たぞぉ!!」


「確かにボタンは直線で使うのがセオリーですが実村さん、これは……えっと?……あっ??」


「半周のタイム縮んでますよ海田さん!」


「本当ですね実村さん、このペースなら20周、いえ40周の決勝レースでは2秒は縮む計算になります!」



「何てこったぅい!!蒼井選手決勝までこの走りを隠して居たのかぁぁ!!!!」



 実況の実村がその走りに驚いている頃……



「どうだトシキ、あんたは突然の変化に対応出来ない、あんたに出来るのは予定通りに計画通りにそのマシンを走らせるだけ、決勝で私が2秒も縮めたらあんたはもう何も出来ない!例え私がミスしても、いやミスもしない!このレースの為に、このコースにもつれ込むと信じて1年のレースプランを考えて来たんだ、私が負ける筈が無い!私が絶対かならず勝つ!!!」



 ディープブラックスティングレーは静かに進み追跡している。



「ディープはどうでしょう?海田さん」


「あっ、はいディープは相変わらずって感じですね彼女の奇策にもいつもの通りです」


「確かに、ディープブラックスティングレーはチャンピオンが設計から携わった稀有なマシンです、レギュレーションによりパワーユニットが全チーム共通な為マシン性能はシャーシ、車体本体の設計にかかってきます」


「はい実村さん、そしてチャンピオンのマシンはそのパワーユニットの性能を最大限生かした設計になっています、先ず目をひくのが6本のタイヤとそれと連動した6輪駆動システム、これによりどのようなマシンが造られても対応できるよう設計されたパワーユニットの余剰トルクをコースに伝えコーナーリングの加速を上げます、これは彼女、蒼井アスカ選手が車体を軽くするとは別の発想で加速性能を上げています、そして更にチャンピオンはコースをスムーズに抜ける為にあるシステムを組み込みました」


「グランドエフェクトファン、コースの空気を車体下部から吸い上げて接地能力を向上させる車体後部のファンプロペラの事ですよね海田さん」


「はい、これは6輪の駆動力を強くコースに伝えると言う効果もあり、ストレート、コーナリングともにテクニックに頼らない走りを実現させます」


「しかしテクニックに頼らないと言う事は」


「はいディープはいつもの走りをするしかない!つまりブルーには追い付けない……」



 メディアブースは少しづつ離されて行くチャンピオンを静かに見つめ、会場の観客も押し黙ってしまった。



「勝った!私、私の勝ちだ………」



「まだだよアスカ……」



 チャンピオンの口もとに笑みがこぼれる。



「何だ?この音?」



 1人の観客が異音に気づく。



 ……??


 ………?え?何?


 モーターおかしくない?


 ……チャンピオンの???


 ………????????????????????????????????????????????????????????


「ちょっ、ちょっと待ってください海田さん……」


 静まりかえった会場に不気味な音が響き渡る。


「トシきゅん??」



「モーターブースターだよ」



 チャンピオンマシン、ディープブラックスティングレーが異常な音をたてながら蒼井アスカのブルーサンダーインパルスを追い立て始めた。



 ラスト1周の事である。



「どう言う事です?海田さん!」


「オーバーテイクボタン、モーターブースターをオンにしっぱなしなんです……」


「えっ?……でも海田さん」


「チャンピオンは、トシきゅんはここまでボタンを温存していた?」


「観てイヤ聞いて下さい!チャンピオンのアクセル操作音が!!」


 チャンピオンマシン、ディープブラックスティングレーはいままで常に安定した走りをし一定の音をたてただ勝っていた、しかし今は違う、マシンはけたたましくモーター音を立てまくり、まるで暴力の音楽を奏でるように走っていた。



「オレにテクニックがないって?」


「違うよ、オレにはテクニックを使う相手ライバルが居なかったんだ」



 チャンピオンは静かに呟き2匹の獣が最終コーナーを突き抜ける、1匹は大きくテイルを滑らせもう1匹はカクリと一瞬だけ腰をひねった、チャンピオンが見せた毒針、初めてのドリフトコーナリングだった。



 彼が操るは彼女のそれを凌駕していた……



***



『今を生きる君に言いたい!魂は熱く震えているか?!』


『パワーユニットとシャーシで簡単レース、ノーズラダーを専用レーシングコースのレールに差し込みアクセルコントロールグリップ(無線速度制御発信機)のトリガーでアクセル全開!モーターブースターボタンで更に超速!!』



『USBで簡単充電、スマホを使って簡単設定、君もチャンピオンを目指しマシンを魔改造するのだ!!』



「君の挑戦をオレは待ってるぜ!(チャンピオン☆トシキ)」



☆アクセルレーサー☆チャンピオンマシン☆

【ディープブラックスティングレー】

 シャーシ(車体)パワーユニット(バッテリー/アンプ/モーター/無線受信機)アクセルコントロールグリップ(無線速度制御発信機)セット2980円(税込)



 ※[アクセルレサー]は専用コースか人にぶつからない広い場所で遊ぼう!




***



「トシキ!何よアレ!!」


 高校のブレザーで大会に参加した、静かなる情熱のヴァルキリー、蒼井アスカは彼に詰め寄る。


「盛り上がったろアスカ」


 チャンピオン、ナイトオブプロフェッサー東城トシキは彼女を見おろし表彰台の真ん中に立っている。



 会場は笑いに包まれ今年のワールドトーナメントレーシングカーグランプリも中学校の学ランで可愛く笑う少年の優勝で幕を閉じるのだった。

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ワールドチャンピオン!! 山岡咲美 @sakumi

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