第10話 王国の手

 父さんが勇者として召喚された後、何かしらの手段を使って僕らがこの世界に来る事を示唆したのは、僕らの特殊性を加味して、自分達を探しに来る可能性を考えたからだろう。父さんの能力は分からないが、直接戦闘系では無いから、その辺りも関係しているのかもしれない。

 でも、村長さんが言った両親の根回しは商人組合経由だ。『お触れが出回っている』と言う言葉と噛み合わない。


「僕らが来る可能性は、両親が言ったのでしょう。でもお触れとはどう言う事でしょうか。」


 母さん達がいる、と言う情報をくれたまではいい。でもその後どうするかまでは読めていない。兄さんも小刀を持ったまま、すぐに動ける体勢にはなっている。


「誤解を招かないよう、先に言っておきますが我々はあなた方の味方です。」


 両手を挙げながら村長さんはそう言う。幸さんも同じように両手を挙げているが、正直魔法とやらについて理解しきれて無い以上、これが降伏になるのかも分からない。

 警戒は緩めずに言葉を続ける。


「では何故意味深な言い回しを?信用出来る材料が欲しいのですが。」

「娘の力を明かしました。それに、あなた達に危害を加えるつもりであれば、黙って王都の人間に引き渡します。」

「既に王都の人間が来ている可能性は?私達はこの世界の仕組みについて、良く理解はしてませんが、を持ってる人達がいない可能性を排除しきれません。」

「お兄様なら気配で分かるのでは?事を起こすなら今でしょう。家の周りには誰もおりませんし、私も荒事は向いていません。」


 正直、堂々巡りだ。まだやってもいない事を疑ってもしょうがないし、本当に味方であるのならば、これ以上の追求で関係性を悪くするのは悪手だ。


「わかりました、一先ずは村長さんを信用します。勿論、幸さんも。」

「そうして頂けると話を進めやすくて助かります、あなた方には村を挙げても敵いそうに無いですから。これでも、幸は風魔法を使わせたら村一番なのですがね。」

「お父さん、今それは関係無いんじゃ……」


 こっちの戦力を充分に把握しているかは知らないけど、どうにも僕らは村一個ぐらいであれば勝てるらしい。僕ら、と言うよりも兄さんと姉さんが、と言った所だけれども。


「それで、話の続きを。」

「えぇ、先ほど申し上げた通り、商人経由と王国経由で、それぞれあなた方へお伝えする内容が変わります。」

「となると、少し物騒な部分も含みますかね。」

「察しが良くて助かりますが、こればかりは見て頂いた方が早いでしょうな。こちらを。」


 前以て準備していたのか、懐から一通の封筒を取り出す。見た目は簡素だけど、なにやら豪華な印鑑が端っこの方に押してあるのがわかる。


「これが、国より全町村へ通達された勅令です。先ほど私は行町人と言いましたな、失礼、あれは王国のお役人でして、勅令書を配る為だけの職、数年に一度しか来ないのですが。」


 当たり前だけど、差し出された封筒は既に開封済みだった。中に入っていたのは一枚の紙。


『ミカド・セイリュウ、ミカド・アケミ、ミカド・アラシ。この三人は確認次第抹殺すべし。』


 書かれていたのは一行、その下には王印か、これまた豪華な判子が押されている。

 大体想像通りだった。理由はわからないけど、王国に取って勇者の子供は邪魔らしい。


「穏やかじゃないですね。」

「はい。そしてご両親から商人組合を通じて流れてきた話は、文字に起こしてあります。こちらです。」


 これまた、懐から出てきた紙。特段変わった部分は無いけども、そこにはこう書かれていた。


『清龍、明美は東へ魔王に会え。嵐は王都へ。魔王を倒すな。』


 どう言う事だろうか。


「えっと、これどう言う意味でしょうか。」


 横から兄さんと姉さんも手元の紙を覗き込む。


「東って、魔王がいるって言ってるとこ?」

「みたいだな。そして嵐は王都か。なんでまた敵の真っ只中みたいなところに。」


 二人とも首を捻っている。内容的には母さんの伝言の様だけど、意図が分からない。


「私にも分かりません、これを伝えてくれとしか。」

「どこかで捏造されている可能性は?」

「ありますが、基本的に商人は信用が命です。勇者様の伝言を万が一にも改竄するとは思えませんな。」


 鵜呑みには出来ないけど、他の村や町に行けばそれも分かるか。


「とにかく、僕達が狙われている事、それと母さん達が無事であることはわかりました。その後勇者がどこに向かったかは分かりますか?」

「いえ、勇者様に関する情報は他にはありません、まだ王都にいるのか、それとも魔王を倒しに向かったのか。」

「でもこれ、魔王は倒すな、って書いてあるよね。母さん達的には何か分かってるのかな?」

「兄さんと姉さんが向かう、って事は荒事を想定してるとは思うんだけど、二人なら結構直ぐに行けそうだよね。」

「うーん、どれぐらいの距離かにも寄るけど、清龍はそんなに脚早く無いからなぁ」

「村長、地図か何かあれば拝見したい。」

「今出しましょう、位置関係ぐらいしか分かりませんがな。」


 二人は母さんの伝言通りに動くつもりのようだ。

 僕一人にされても結構辛いんだけどなぁ。

 地図を出してきた村長と二人は、村長の席まで行って地図を囲んで話し始めた。僕はどうするかなぁ、と考えていると、目の前にマグカップがコトリと置かれる。


「どうぞ、お茶よ。」

「あぁ、ありがとう、幸さん。」


 話し込んでしまっていたけど、食事はとうに終わっていた。案外気が利く子だなぁ、と思っていると、何故か席を離れた兄さんの代わりに、僕の隣に座ってきた。


「……え?何かな?」


 真近で見ると、結構可愛い顔立ちをしている。可愛い、と言うより美人さんかな。とか考えていると、急激に彼女の顔が赤くなっていった。


「え、あ、ごめんなさい。もしかして分かります?」

「さっきまでお父さんに言われて魔法使ってたの!そうじゃなくて!」

「あ、はい。」

「思考、読んでごめんなさい。勇者様の息子、って言うのは村に来た時から分かっていたんだけど、本当にそうなのか、分かるまでは警戒しろ、ってお父さんが言うから。」


 少し、申し訳無さそうに彼女は言った。


「いいですよ、逆の立場なら私達もそうしますから。」

「あまり細かいことまでは読み取れないんだけどね。頭の中見られる、っていい気持ちじゃないでしょ。」


 何か、前に嫌な事でもあったようで、そう言う彼女の顔は少し暗い。まだちょっと赤いけど。


「向こうの世界では私達家族は結構特殊な立場でして、あまり珍しくも無いんですよ、そう言うの。」

「そうなの?こっちは読心魔法ってすっごい珍しいんだけど。」

「向こうでも珍しいには変わりないんですけどね、そもそも魔法自体認知されてないですし。」


 正直心を読まれるよりも脳を物理的に抉って、記憶を探る、なんてバイオレンスな能力の持ち主もいたぐらいだ。魔法と言うより超能力寄りだった。


「と言うか、敬語、やめてよ。私達同い歳ぐらいでしょ。」

「そうですか……そうかな。僕は今年で十七なんだけど。」

「私は十六。じゃあ敬語いらないよね。」

「いや、僕年上……」


 さっきまでのしおらしさはどこに行ったのか。それよりもこの世界でも敬語の概念はあるのか。


「まぁいいか、丁度いいや。兄さん達の話まだ終わりそうに無いし、僕のいた世界と常識のすり合わせをしたいんだ、ちょっと教えてよ。」

「いいわよ、と言っても私も村からそんな出ないから、分かる範囲でだけど……」

「充分だよ、えっとまずは……」


 そうして、僕らは暫くこの村に滞在をする事として、その後、別行動で母さんの伝言通りに動くことを決めた。

 何が起きるかは分からない事ばかりで嫌になるけど、いつものトラブルと同じ物だと考えれば、それ程不安でも無い。

 幸さん、じゃなかった。幸にも色々教わったし、明日からは兄さんと二人で村の南側の普通の森で、木こりをする事になった。

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異世界ファミリア 白紙白 @shun2610

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