第8話 状況整理

「この世界について、情報を整理しようか。」


 大まかに、さっきの村長さんとの話とこれまでの道中で、この世界について情報は集まった。

 楽観は出来ないけれども、やっていけそうな感じではある。


「俺も色々考えてはいたが……、先に嵐の見解を聞きたい。」

「姉さんは……うわ、もう寝てる。」


 部屋に入るなりベッドへダイブした姉さんは、既にぐうぐうといびきをかいていた。ここまで兄さん以上に働いていたから疲れているのも無理は無いけれど、せめて情報の共有ぐらいは終わってからにして欲しい。


「まぁいいか。ざっくりだけど和洋折衷ってレベルじゃないぐらい、この世界は色々混じり過ぎてる。出てくる獣は置いておくとして、この村を取り囲む木の柵は相当な物だし、それなりの技術を感じるけど、その程度。食は不明、衣服と住居は今の現代日本からすると三百年は遅れてるかなぁ。言葉が通じる分僕らの世界の平行世界と疑いたくなるけど、共和国、王国って単語が引っ掛かる。」

「ほぼ同意見だ。強いて言うのであれば、さっきの門番と村長は俺達の世界の人間より格段に強い。その筋の大会に出れば身体能力であれば、余裕でトップを狙えるだろうな。」

「うん、その辺りを歩いてた村民も結構鍛えてそうだった。生活習慣の違いか、それとも根本的な身体の構造の違いかな。」

「恐らくどちらもだろう。俺達ほどじゃ無いがな。」


 身体を鍛える、と言うのは一朝一夕には出来ない。傍目には普通の人にしか見えないし、中身が人間離れしていない限りは、食事もそれなりに栄養価が高い物があると推測出来る。


「そう言えば細かく確認していなかったけど、能力込みで、調子が悪いとか無いよね?僕の能力は病気やそれに起因する不調には意味が無いからさ。」

「今のところ問題無いな。調子が良過ぎるぐらいだ。」


 ぐるぐると腕を回りながら、兄さんはそう言った。『修繕』の能力の通り、回復役とは言っても怪我や欠損は戻せるけど、無くなった血や病気には手も足も出ない。毒にも滅法弱いと言うのは昔からの課題でもある。


「文明レベルもさほど高く無いみたいだし、当面は共和国?の人間のフリをしながら、力仕事辺りでお金を稼いで、って感じかな。」

「そうだな、元の世界に戻るにも地盤が無いと何も出来ん。」


 ……え?今兄さん何て言った?


「今兄さん、何て言った?」


 思った言葉が、そのまま口から零れる。


「ん?地盤を固めるのは大事だと言った。」

「いや、そうじゃない。空間を兄さんが切り裂けば、元の世界に戻れるんじゃないの?」


 僕がここまで元の世界への帰りを考えていなかったのは、こっちの世界に来れた理由は兄さんの能力による物と思っていたからだ。『切断』に切れない物は無い、となれば時空間を切り裂いて、元の世界へのゲートを作れる物だと。


「あれは偶発的な現象だ。俺が切ろうとしたのは指輪で、空間じゃない。」

「えぇ?!じゃあどうやって戻るの?!」

「行きがあるならば帰りもあるだろう。父さんか、母さんを見つければ何かしらのヒントはあるだろうし、無いなら俺が空間斬を出来るようになればいい。」


 思わず頭を抱えて座り込んだ。椅子に座った兄さんはアッハッハ、などと能天気に笑っているけども、帰る手段が無いのはまずい。


「母さん達がいる保障も無いし、兄さんがそのだっさい必殺技を使えるようになるには何年掛かるのさ……」

「まぁ感覚はあの時に学習したからな。数年もあれば出来るさ。」

「話にならないね。」


 悩み事が増えた。元の世界への帰還、両親の捜索、それらを模索しながら生活して行かなければならない。

 正直異世界、ってだけでワクワクしてたけど、思ったよりもハードモードな生活になりそうだ。


「出来ないものはしょうがない、からとりあえず母さん達の捜索をメインに、元の世界への戻り方も調べよう。こっちにも僕達みたいなイレギュラーはいるかもしれないしね。」

「あ!それだけど、こっちの世界、多分魔術か魔法っぽいのあるよ!」

「姉さん?」


 いつの間に起きたのか、数分しか経ってないけど。いや、それよりも、


「魔法っぽいのがあるって、どう言う……?」


 兄さんと違って、僕と姉さん姉さんの能力は魔術寄りだ。そっちの業界では身体強化、って部類らしいけれども、魔力を練り上げて身体の中を循環させる事で、身体能力の底上げを行う、って昔母さんに聞いた事がある。魔力を練り上げるって表現自体に僕はピンと来ないんだけど、僕が『修繕』を何度も使うと疲れるのと同様、姉さんも『超強化』を意識して使う事で疲労が溜まるらしい、それが魔力を使っている事になるらしい。

 ただ、言ってしまえば『気合』で能力と使ってる僕と姉さんは、あまり魔力や魔術については知識が無い。


「さっきの門番さん、魔力持ちだった。」

「え?そうなの?僕全然気付かなかった……」

「昔イギリスに行った時にさ、魔術連盟って言う良くわかんない組織とドンパチしたんだけど、その時に一緒に戦った魔術師に魔力の見方を教わったんだよね!結構そこらへん歩いてる人も魔力持ってたりするんだけど、実戦レベルで魔力を持ってる人はさっきの門番さんが初めてかな。」


 曰く、魔力の可視化が出来るらしい脳筋姉さんだけど、馬鹿馬鹿しいと言うには説得力があった。

 僕らはその都合上、あっちこっちで『仕事』と称してその能力を必要とされる場所に行ったりしている。その場その場で色々と得る物も多くて、僕の体術もその関連だ。


「ちなみにさっきの女の子もそう。」

「幸さんも?じゃあ話とか聞けそうか……な……」


 嘘つき、と囁かれたさっきの場面がフラッシュバックする。何かしらの魔術を使って、僕の言動を真偽判定していたと考えられる。

 そうなると少し面倒だな……、村長さんに伝わってたら、この村での活動も危うい。


「その辺りも探りつつ、動こうか。」

「そうだな、食事中に聞ければいいが……」

「どうなんだろ、一緒に食べれるならちょっと聞いてみようか。」


 そこから共和国の商人と護衛、としての細かい設定を共有し終わった頃、コンコン、と扉をノックする音がした。


「皆様方、食事の準備が出来ました。私たちと同席で良ければ、ご案内しますが……」


 僕らを呼びに来たのは幸さんだった。


「ありがとうございます、是非。」


 僕はそう言うと、兄さんと姉さんに無言で目配せをする。

 さて、長い一日だけど、もう少し頑張ろう。

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