第7話 村長との面会

「良くぞ参った、レヴァスの商人。」


 ショウさんに案内されて通されたのは、村でも一番大きな家の二階だ。道すがら、立ち並ぶ家や畑を観察していたけど、普通の村人の家は殆どが平屋で、数少ない二階建ての家、それも村の中央に位置するような場所に建てられていたのが、長の家だった。

 簡素ながらも木を切り分けて作ったような机と、これもただの木の工作物のような椅子が並べられた部屋に通された僕らは、既に座っていた長と面会する事になった。

 一応護衛、と言う名目になってる兄さんと姉さんには悪いけど、僕だけ座って話をする。


「入村を認めてくださってありがとうございます、えぇと……長殿?」

「私は村長の白峰大地しらみねだいちと申します。長、と言っても前の長が急逝しましてな、代行のようなものです。」


 成る程、最初は長と言われてもっと高齢の人を想像していたけれど、盛っても30歳後半ぐらいにしか見えない男性だった。お父さんか誰かが元々村長をしていたのだと思う。さっきのショウさんやゴウさんのように、門番でも無いのにがっしりとした身体付きが服の上からでも見て取れる。こっちもアジア顔、と言うより黒髪黒目の、日本人顔をしている。名前からも、あまり僕の世界と大きな開きは無さそうな気もする。


「白峰さん、ですね。僕は御門嵐、後ろが兄の清龍と姉の明美です。」

「宜しく」

「よろ~」


 形式上、頭を下げているが姉さんは外で待たせて置いた方が良かったかもしれない。

 それにしても、苗字を持っているのは珍しい、とさっき聞いたばかりだけど、村長さんは苗字持ちらしい。


「ほう、苗字があるのですか。レヴァスから来た商人で苗字持ちとは、一代貴族ですかな。」

「いえ、レヴァスは物を仕入れるのに経由しただけで、実はもっと西の方から来たのです。」


 固有名詞を出すのは避けたい、が正直位置関係も分からない都合上あまり具体的な話は避けたい。東西南北の概念があるかは分からないけど、他国の人間を振舞えば多少は誤魔化せそうな……。


「となると共和国出身ですな。王国は友好国ですし、珍しくも無いですが。」

「えぇ、以前家を出て行った両親の手掛かりを探しに。商いで日銭を稼ぎながら、こちらまで参りました。と言っても、殆どの荷物は例の森に置いて来ましたが。」

「ご両親を探しにですか、それは災難でしたな。」


 口からでまかせでドンドン架空のストーリーが出来上がっていく。共和国と王国、と言うワードも出てきたし、よっぽど大掛かりなドッキリで無ければ別世界で間違いは無い。その辺りの考察は後で兄さんと話そう。

 ちらりと後ろを伺えば、兄さんは表情を変えていないけど、姉さんは今にも『え?何の話?』と言い出しそうだ。目線で黙っておくように釘を刺して、改めて村長さんと向かい合う。


「そこで、図々しいのは百も承知ですが、しばらくの路銀を稼げる仕事を貰えないかな、と。住む場所もあると尚ありがたい。」


 僕らの能力、何より姉さんの能力があれば大抵の仕事は出来る。この世界に母さん達が来ているかの確認を含めて、情報収集する時間と余裕が欲しかった。

 規模の割りに余所者に対する忌避感も無いようだし、この世界の常識を身につけるにはもってこいの環境だ。


「それは構いません。王国民で無いからと言って放り出しては、我が国の沽券に関わりますからな。だが今日はもう遅い、我が家に泊まって行くといいでしょう。細かい話はまた明日に。」

「助かります、申し訳ありませんが、厄介になります。」


 軽く、頭を下げる。

 とりあえずは生活の基盤になりそうで一安心だ。


「娘が案内しましょう。おい、ゆき!」


 大地さんが扉に向かって声を掛けると、スッと扉が開いて女の子が入ってくる。僕と同い年ぐらいだろうか、彼と同じように黒髪に黒目、標準的なスタイルと言った所だけど、身長は百六十五センチと小さめの僕からすると、やや高いように見える。


「始めまして、白峰大地の子、幸と申します。寝室をご用意しましたのでこちらへ。」


 気のせいだろうか、少し僕の事を睨んでいるような気もする。

 案内に従って連れ添って先に二人で部屋を出ると、急に彼女が振り向いて、僕にしか聞こえないぐらいの低い声音でこう囁いた。


「嘘つき」


 えっ、と思う間も無く、後ろから兄さんと姉さんが出てくる。


「済まないな、幸さん」

「恐縮です、清龍様。ですがこの村に客人が来る事は少なく、年に数度、王都から商人がやってくるぐらいです。」


 別人かと思うような女の子らしい声で、兄さんに返事を返す幸さん。今の、幻聴じゃないよな……。


「それではお三方、こちらへ。二階の奥に客室が二部屋ありますので、お好きなようにお使いください。」


 応接間を出て、廊下を右手に進めば左右に部屋があった。ちょっと覗けばそれぞれベッドが二つずつ備えられていて、小さい机と、椅子も置いてあった。


「じゃあ僕と兄さんで右手の部屋を借りるよ、姉さんはそっちでいいよね。」

「おっけー。」


 荷物らしい荷物も無い僕らは、部屋に入っても特にやることは無い。僕、兄さんに続いて姉さんもこっちの部屋に入ってくる。


「それでは、あと少ししたら夕食の準備をしますので、それまでお待ち下さい。」


 ニッコリと笑って、幸さんは来た道を戻っていった。トン、トンと二人分の階段を下りる足音が聞こえるので、大地さんと二人で一階へ戻って行ったのだろう。


「とりあえず……」


 早くもベッドに飛び込んでうつ伏せになってる姉さんを視界の端に追いやりつつ、兄さんと向き合う。


「この世界について、情報を整理しようか。」

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