第3話 家族の行く先、トラブル在り

『ただいまー。』


 夕方五時過ぎ、ゲームを買いに寄り道していたからか、いつもより少し帰るのが遅くなってしまった。と言っても、兄さんはもう少ししないと帰ってこないし、姉さんはいつも通り部屋でゲームしてるだろうけど。

 一階の玄関から向かって正面がリビングへの扉、そして右手側が僕の部屋だ。部屋に入って荷物と買ってきたゲームをベッドの上に放り投げて、リビングに向かう。冷蔵庫に何が入っているか確認しないと、夕飯の準備も出来ない。


『あれ、姉さんいたんだ。』

『あ、嵐くんお帰りー。いやな、母さんから変なメールが来てなー。』


 変なメール?と思いつつ、僕も自分のスマホを見てみると、確かに母さんからメールが来ていた。世間一般でもこれだけスマホが普及していても、頑なにフューチャーフォンしか使わない父さんに合わせて、母さんもガラケーユーザーだ。


『何これ、文字化け?』

『読めないんだよね、嵐くんならお姉ちゃんより頭いいし、暗号か何かわかるかなーって。』


 メールに書かれていたのは、記号と数字の羅列だった。僕と姉さんに来てる、って事は兄さんにも行ってるとは思う。


『母さん、今父さんのところに行ってるんだよね?』

『って朝言ってたよ。でも父さんって基本連絡付かないからなー』


 母さんが意味も無くこんなメールをして来る訳が無い、と思う。となると大体うち系統のトラブル絡みなんだけど、時間的には父さんととっくの昔に合流してる頃合いだ。父さんが付いているならあまり心配するような事でも無さそうとは思う。


『一応おじいちゃんに連絡してみようか』


 僕はすぐに、母方のおじいちゃんに電話を掛ける。一コールですぐに出た。


『嵐か、どうした?』

『あ、おじいちゃん。久しぶり。』

『この前来たばっかじゃろ。珍しいの、嵐が電話して来るのは。』


 そう言えば年始に行ったばかりだった。二月も終わりそうだけど、たった二ヵ月もしないのに久しぶりはおかしいか。


『いや、母さんから変なメールが来ててさ、おじいちゃんはどう?』

『美鈴からか?いや、わしには来ておらんの。また厄介事か?』


 話が早い、と言う訳じゃないが、僕らの能力は父親譲りと言う訳でも無く、母さんからもある程度の遺伝がある。ベースになる身体能力関連は本流、父さん側の血だけれども、僕の回復系能力や、姉さんの『超強化』が身に着けてる物まで作用する辺りの仕組みは、母さん側の血筋だ。父さん曰く、『私の方は自身に作用する内力とも言うべき能力が濃い、俗に言う陰陽師とやらの系統だね。母さんの方は西洋の血が混じってるからね。所謂魔術師だ。』と言うこと。陰陽師って祈祷とか、占術とかって資料では見るけれども、そう言う『魔法まがい』の事が出来るのは本家で、分家側はどちらかと言うと身体強化の方が強かったらしい。

 流れで分かるかもしれないけど、今話してるおじいちゃん、元治げんじも能力を持っている。能力と言うよりよっぽど魔法寄りで、『千里眼』って僕らは呼んでいる。補足になるけど、この恥ずかしい二つ名のような呼び名は、大昔からある陰陽師の登録機関に登録される、れっきとした能力名だったりする。


『まだはっきりとしてないけどね、ちょっと欲しい。』

『ちょっと待ってな。今からやるからの。』


 千里眼の名前の通り、元治おじいちゃんはある程度の情報を元に、遠く離れた場所、人物の観察をする事が出来る。昔はそれでブイブイ言わせてた(本人談)らしいけど、今は一日に数回も使えば疲れて寝てしまうらしい。

 おじいちゃんがいるのは山梨県の山奥、山々を何個か買い取ってそこに自力で建てた木造のログハウスだ。対して母さん達がいるはずの遺跡は京都府は平安京跡、との事だから、少し遠い。


『……ん?見えた、が見えん。』


 五分程経った頃、姉さんがソファーでまだー?ねぇまだー?とごろごろしてる所で、電話口からおじいちゃんがそう言った。

 見えるのに、見えない?


『ってどういう事?』

『わしが美鈴の情報を間違えるはずも無いが、確かに京都にいたのはわかる。あの忌々しい清一郎も一緒だな。』

『父さんと一緒なのは知ってるんだけど、ってどういうこと?』


 おじいちゃんは当初、二人の結婚に反対だったらしく、未だに引き摺っているのはいつもの事だ。それにしても能力の使用限界はあるものの、精度は落ちてないはずのおじいちゃんの言葉は歯切れが悪い。


『ついさっき、嵐がメールを受け取った時間ぐらいまではそこにいた。じゃが、その後この世界から痕跡が消えておる。』

『そんな簡単に母さん達が殺されるとも思えないんだけど……』


 千里眼の能力は、単純にその人や物を見れるだけでなく、追跡が出来る。障害物を無視して使える超高性能なGPSみたいな物だ。見失う時は、既に死んでいるか、おじいちゃんの発動圏外まで出てしまった時だけど、僕が木星に行ってた時ですら、僕を補足出来ていたから実質無限に見える物だと思っている。


『なんと言えばいいかのう、わしもこの感覚は初めてじゃが、死んではおらん。』

『死んでないのに補足出来ない……?』

『うむ、その証にお前達も持っているだろう、美鈴のお守り。あれが反応しとらん。あれはお前ら家族に何かあれば発動するからの。』


 どういう効果があるかはわからないけど、母さんのお守りにはそう言った効果があるらしい。僕たち、何度も死に掛けてるんだけどな。


『おじいちゃんはどう思う?』


 今まで千里眼で追えなかったパターンは無かったし、父さんも母さんもそんな簡単にどうこうされるような人生を送ってきていない、と思う。聞く限りでは。


『昔な、もうわしが婆さんと結婚したばかりの時じゃが、瞬間移動能力者に出会った事がある。奴め、手榴弾を何個もわしの部隊がいるところに転移させての、戦争の時は何度殺してやろうと思ったか……』

『そいつがどこか、おじいちゃんの目が届かない所に転移させたってこと?』

『いや、実際そいつは婆さんが殺った。問題は能力者がいる、ってとこじゃな。』


 成る程、自分達が常識外の存在だからあまり考えて無かったけど、漫画やSF作品、アニメで出てくる超能力や魔法と言った物でよく出てくると言えば、瞬間移動だ。

 ちまちま小さい物を瞬間移動させる事が出来る人間がいるのであれば、大人二人をとんでもない距離移動させることが出来ても、不思議では無い。


『と言うことは宇宙の果てまで飛ばされたり?』

『あの男が付いていて防げなかった、となればそう言う可能性もある。じゃがわしの自惚れで無ければ、上でわしが見つけられない場所は無い。』


 僕も家族として、客観的に見ておじいちゃんの能力は規格外だ。なんせ宇宙ですらもその監視の範囲内にある。それ以上となると、別宇宙、もしくは……


『別世界、って事か……』

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