第17話
うれしい。僕は居ても立っても居られず、すぐに馬車小屋に駆け戻り、その窓を軽く叩きシャルさんに声をかける。
「シャルさーん。ゴブリン倒しましたよ。しかも僕、レベルが6になりました!」
コンコンコン。
「シャルさーん」
コンコンコン。
「
僕が何度も窓を叩いせいか、慌てて窓を開けてくれたシャルさんは、口をモゴモゴさせていた。
「
シャルさんが何を言っているのか分からないが、シャルさんは一度だけ僕の方に視線を向けたが、すぐに口の中のものを飲み込み辺りを見渡している。
「あ、いや、その」
どうやら僕はシャルさんを勘違いさせてしまったらしい。
――やばい、怒られるかも。
そうは思うも目の前にいるシャルさんに何も言わない訳にはいかない。僕は恐る恐るシャルさんに声をかけた理由を伝える。
「ち、違いますレベルが上がったから……つい、うれしくなって……」
「あら、そうだったの。ルシールおめでとう」
――え?
シャルさんはきょとんとした顔を向けた後、にっこりと笑みを浮かべて僕を褒めてくれた。
てっきり僕は「そんなことでいちいち声をかけないでいいわ」と怒られると思った。そんなことを考えてしまった自分が恥ずかしい。
「なんかすみません」
「いいのよ。そう、レベルが上がったのね。ルシール頑張ったわね」
「え、あ、はい」
自分の考えを恥じていたけど、やっぱりシャルさんに褒めらるとうれしくなる。
僕の口元もだんだんと緩んでいく。
――や、やばい、うれしくてニヤけそう。
でも、そんな僕に水を差す存在がいた。
「ルシール。レベル何?」
フレイだ。シャルさんの背後からフレイの声が聞こえてきたかと思えば、
「レベル何?」
フレイがシャルさんの後ろからひょっこりと顔を出した。
「レベル?」
なんだが尺に触るが、フレイは僕の一つ下。ここで腹を立てても仕方ない。そう思い応えてやるが、
「6だけど……」
「フッ」
フレイがそれ聞いて鼻で笑った。
「今鼻で笑っただろ」
なんかムカつく。
「ふふん、私は10」
「そんなこと知ってるよ。でも僕だって剣術は3になって、戦闘能力は105になったんだからな」
「まあ」「えっ!?」
僕がそう言い返すと、パッと表情を明るくしたシャルさんと、いつもより少し目を開き驚きを露わにするフレイ。
僕もようやくフレイの表情が分かるようになってきた。少しだけど。
「そうなの、凄いじゃないルシールっ!」
「うそ。ルシールうそついてる。へなちょこルシールがアレスやラインより剣術レベルが高いはずない。
それにレベル6で剣術3はおかしい」
フレイがいつもの無表情の顔戻ると、じーっと僕の顔を睨んでる? というかへなちょこって酷くない?
「むっ、アレスやラインのことなんて知らないけど、僕はウソなんてついてない」
「うそよ」
「フレイ。ルシールが言っていることは間違ってないわよ。私は魔法で分かるから」
「シャルロッテさんが言うなら正しい。けど……」
「ふん。別にフレイから信じてもらわなくてもいい。それよりもシャルさん……」
まだ、納得していないフレイを無視して僕は、先程苦戦した、複数を相手にする場合はどうしたらいいのかをシャルさんに相談した。
「複数の相手となると……そうね、捌きのスキルはあるかしら?」
――あるかしらって、スキルショップで見てってことだよね。でもフレイがすぐ側にいるけどいいのかな?
僕が少し考える素振りが見て分かったのだろう。シャルさんが「考えがあるから大丈夫よ」言ってから小さく頷いた。
「分かりました。それでしたら、ちょっと待って下さい」
僕は片目を閉じてスキルショップを使った。
――ん? カウンタースキルが割引があって1万カラで買える?
カウンターか、いいな……これ、欲しい。すごく欲しい……って、違う違う。僕は捌きスキルを探してたんだ。
「ルシール何をやってる?」
フレイが何やら尋ねてくるが、僕は捌きスキルを探すのが忙しい。だからフレイの相手なんてできない、そう思っていると、シャルさんがフレイに向かって笑みを浮かべると、僕のスキルショップについて簡単に説明していた。
「……だからルシールはスキルを買うことができるのよ」
「スキルを買う……」
シャルさんと話をしていたフレイは何やら考え込んでいるらしく少しぼーっとしているように見える。けど今は……
「ありましたよ。シャルさ……うわっ!? 捌きスキルは90万カラしますよ。
それよりもカウンタースキルがなぜか割引になってて1万カラになってます。
僕はこっちが欲しいなぁと……」
「ふーん。良いわ。はい」
捌きスキルについては知らないけど、カウンタースキルは欲しかった。値段もお手頃だし、とはいっても僕の全財産を使っても足りないんだけど、
――シャルさーんお願いします。あ、良かった、カウンタースキルの分も入ってる。
シャルさんが手渡してくれた金貨の小袋には91万カラ入っていて右手に持ってスキルショップで確認すると91万カラと表示されていたのだ。
「どうしてルシールに、そんな大金を?」
フレイが何か言ってるが、僕は構わずすぐにカウンタースキルと捌きスキル購入した。
当然だけど、スキルを購入すれば右手にあったお金はスッと消える。お金の重量感がなくなってちょっとだけ悲しい。
【ルシールはカウンタースキルを取得した】
【ルシールは捌きレベル2スキルを取得した】
――あれ? 捌きスキルのレベルは2、え、え? もしかしてレベル1も売っていた? や、やばい。どう考えてもレベル2の方が高いはず……
「どうしたのルシール?」
シャルさんが不思議そうな顔を向けてくる。言えない。レベル1もあったかもなんて怖くて言えない。
「い、いえ。なんでもないです。ありがとうございます、シャルさん。ちゃんと取得できました」
「そう、それならいいけど」
ひとり蚊帳の外状態だったフレイがぽんぽんと僕の肩を叩いてくる。どうしても気になるならしい。
「お金が消えた。スキルを買ったから?」
「そうよ。ほら、ちょうどボブゴブリンが来たわよ。ルシールちょっと試して来なさい」
そんなフレイにさらりと答えたシャルさん。そんなシャルさんは人が悪い。先ほどゴブリンの集団をひとりで相手してきたばかりなのにまた行けと……
因みにフレイはというと先程の目の前でお金がスッと消えてしった現象が信じられないようで、何度も目をこすり首を捻っている。
「ええっ、ウソですよね?」
僕が口から不満の声が漏れるが、シャルさんに気にした様子は見られず、それどころか、サッサと部屋の奥へと引っ込んでしまった。
「ま、また僕一人であの数を……嫌すぎる。それに捌きスキルって何ですか? ちょっとシャルさん、シャルさーん」
「何よ?」
「あれ?」
シャルさんが部屋の奥から羽の飾り付いた小剣を持ってきた。どうやら僕に貸してくれるらしい。
「もう。ルシールにいいものを貸して上げようと思っただけよ。はい、これ使っていいからルシール頑張るのよ」
「は、はぁ」
受け取った小剣があまりにも綺麗で、僕の視線はその小剣に釘付けになった。
――きれいだ……中は……
鞘から少し抜いてみると透き通った薄い緑の刃が見えた。
「それは魔法剣:風のシルエアよ。風魔法の加護がついてるから、刃が欠ける心配はないわ。
ほら、風のシルエアに見とれてないで早く行きなさい。ボブゴブリンがすぐそこまで来ているわよ」
「は、はい!」
つい、何の疑問も持たずに返事してしまったけど、今の僕は風のシルエアが使ってみたくてうずうずしていた。
「ふふふ……」
僕はショートソードを左手に持ち直し、右手に風のシルエアを握る。なんだか強くなった気がして思わず口元が緩んでしまう。
「よしっ」
僕は気合を入れ直すとボブゴブリンに向かって駆け出した。
僕は知らなかった。
ギルドランクGの僕が
しかも、その相手は一体ではなく集団であるということを……
――あれ?? 結局僕ひとりでやるの? しかも複数の敵との戦い方とか捌きスキルのこととかも教えてもらってないよ?
【本日の出費:シャルさんへの借金91万カラ増】
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【名前:ルシール:Lv5→6】ギルドランクG
戦闘能力:70→105
種族:人間
年齢:14歳
性別: 男
職業:冒険者
スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉
〈剣術:2→3〉〈治療:2〉〈回避UP:2〉
〈文字認識〉〈アイテムバッグ〉〈貫通〉
〈見切り:2〉〈馬術〉〈捌き:2〉new
〈カウンター〉new
魔 法:〈生活魔法〉
※レジェンドスキル:《スキルショップ》
所持金 :1,213カラ
借金残高:4,349,850カラ↑
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