第16話

「一人ずつこいよ、二人は卑怯だぞ!!」


 ギャギャー


「あ、もう。このぉ!!」


 僕は二体のゴブリンをすれ違いざまに切り裂いた。


 ゴブリンは光の粒子となって消えていき二個の魔石が転がった。

 ゴブリンを狩るとよく小さな魔石を残していくけど、群れで襲ってるゴブリンの多さは厄介極まりない。


「はぁ……ゴブリン多すぎない?」


 僕の周囲には結構な数の魔石とドロップアイテムであるゴブリンの耳が散らばっていた。


 ギャギャ!!


「あーもう……こっち来んなよ。このぉ!」


 王都を離れて数時間だがゴブリンの襲撃は三度目であった。


 ――――

 ――


 初めての御者も馬術スキルのおかげで難なくこなし、僕は御者席から見える景色を楽しんでいた。


「そうだよね。やっぱりみんな見るよね……」



 でも、この馬車は非常に目立った。


「うわっ!?」


「あはは……ど、どうも〜」


 すれ違う冒険者や行商人は何事かと驚き必ず馬車小屋を二度見する。


「そ、そこの君……その馬車は」


「あはは……僕分からないんです」


 この馬車について尋ねられたところで、僕は何も知らないし、話しかけられても困る。

 だから、もの言いたそうな人がいたら……


「あ、ああ、君っ」


「ごめんなさい」


 ――に、逃げろ〜


 とにかく謝ってから逃げる。これ一択なのだ。


 この馬車見た目重そうだけど、シャルさんから聞いたとおり魔法で軽量化されてるからとにかく速い。

 しばらく馬車を走らせれば先ほどの行商人もすぐに見えなくなる。


「ここまでくれば大丈夫だよね。はぁ、疲れ……!?」


 そして街道を進んでいるのにも関わらず周囲に人気が無くなると何故かゴブリンが襲撃してくる。なぜだ。


「ま、またゴブリンが……くそっ、ついてない。どうかこっちに来ないで……って、あ〜やっぱり。こっちに気付いてるよ」


 ここはまだ王都の周辺地域といってもいい場所で王国騎士団が定期的に間引きしている地域であり、安全圏内のはずなのに本日三度目の接触である。


 ――なんで、こんなにゴブリンがいるんだ。やっぱりおかしい。シャルさんに知らせないと……


 理由は分からないけど襲ってくるゴブリンのことをすぐにシャルさんに伝えた。けど……


「大丈夫よ、この辺はよく出るのよ。でもゴブリンとボブゴブリンしか出ないから」


「それはさっきも聞きました。それでシャルさんも一緒に……」


「ルシールなら大丈夫よ頑張ってね。私とフレイはまだティータイムなの」


 シャルさんが片目を閉じてお茶を飲む仕草をしてみせる。


 ――え? 


「あ……いや、ちょっと待ってください。どうしてそうなるんですか、三人でサクッと倒せばいいじゃないですか。何もレベルの一番低い僕に……」


「大丈夫大丈夫。ルシールならできる。頑張って、ね」


「ね、って言われても……そりゃあさっきはまだ数が少なかったから、でも今度は数が、ここから見えている数だけでも多いですし、僕一人でだなんてとても」


「そう私は大丈夫だと思うけど」


 頬に指を当てて可愛くそんなことを言うシャルさん。その後ろの方では小動物のように小さな口をもぐもぐしていたフレイはこくんの何かを飲み込んでから僕に手を振ってくる。


「フレイ……?」


 ゴブリンの討伐を手伝ってくれるかもと期待を寄せるが、再びフレイはティーカップに手をかけ口に、それからふるふると震えたかと思えば蕩けたような表情をする。実際は無表情だが僕にはそう見える。


 ――く、くそ。フレイのやつ。


「ルシール頼りにしてるわよ」


 フレイに気を取られていた僕はそんなシャルさんの声に反応が遅れる。


「え!」


「ほらあれ」


 そしてシャルさんはゴブリンの方を指差すので、僕の視線はシャルさんが示すゴブリンに。


 ――ひっ! 


 僕が思っていた以上の数のゴブリンがこちらに向かって来ていた。


 ――まずいまずい。あの量はかなりまずい。


 僕がゴブリンの数に圧倒されていると、


「じゃあ、頑張ってね」


「へ?」


 そんなシャルさんの声に再びシャルさんへと視線を戻した僕に、シャルさんはにっこり笑顔を浮かべたかと思えば、軽く手を振り馬車小屋の窓をガラガラ、ピシッとしっかりと閉めたのだ。


「えっ……ええ!? ウソ、ウソだ。シャルさん! シャルさーんってばぁ……こらフレイ! 冗談じゃないんだよ。ゴブリンの数が多いんだよ!」


 僕は慌ててその窓を外からこじ開けようとしたが、


 ――あれ、この窓……外から開かないの?


 どこを探しても手をひっかける取っ手がなかったのだ。


「ああもぉぉ!! 何なんだよこの馬車はっ! うわぁぁん」


 ――――

 ――


 そんなことを思い出せた僕は心に少し余裕が出てきたのかも。


「ふぅー、ふぅー」


 ――シャルさんのバカ。フレイのバカ。


 本日三度目のゴブリン戦も中盤に差し掛かっている。


「ちょっとくらい手伝ってくれてもいいじゃないかよ、うわっ」


 ゴブリンが振り下ろした棍棒を見切って回避する。


「こ、このっ」


 そしてすぐにラインとの戦闘で少しコツを掴んでいたなんちゃってカウンターを繰り出す。


ブギャッ。


 ゴブリンを一振りで光の粒子にして、僕は次のゴブリンを正面で捉えようと体制を整える。


 ――よし、今のうちに治療スキル。


 たまに防ぎきれなくて負った傷は治療スキルを使えばなんとかなった。でも治療スキルを使い過ぎると身体が疲れてくるので我慢できる時は我慢するようにしている。そうするようにシャルさんに言われたんだけどね。


 危ない瞬間は多々あったが僕が思ってた以上に順調ではないだろうか。見るからにゴブリンの数が減ったように見る。と思った矢先、


「え、ええっ、今度は三体で来る!? この卑怯者!!」


 その三体のゴブリンが同時に棍棒を振り上げる。


「うわわっ、待って、待てって」


 僕は慌てながらもゴブリンの一振りを見切りスキルに沿って避けていくが三体目のゴブリンの一振りに反応が遅れる。そのゴブリンが棍棒を振り下ろす速度が予想以上に速いのだ。

 僕の目ではしっかりと繰り出された棍棒の道筋が見えているのに身体の方が追いつかなかったのだ。


 ギャギャァ!!


「ぐぁっ」


 ゴブリンの棍棒が僕の左肩を直撃した。受けてそのゴブリンを見て理解する。


「くっ、おお前ボブゴブリンだったのか……」


 ボブゴブリンとゴブリンの違いは下顎から飛び出す牙が少し大きいというくらいで、ほとんど見分けがつかない。でもここまで近づかれれば嫌でも分かる。


 なにせボブゴブリンはゴブリンと比べて身体能力が数段上がっているのだが、その一撃もすごく重い。


「痛って〜」


 それでも急所を避け肩で受けできる限り身体に受けるダメージを少なくしているんだけど、痛いものは痛い。


「くそ」


 かと言って、今のを無理に躱そうとすると身体が流れてしまって致命傷をくらいそうだった。


 ――このままじゃあ、僕の方が不利だ。捨て身でやるしかない……


 ゴブリンたちは味をしめたように先ほど全く同じ行動で僕に棍棒を向けてくる。やはりというか三度目が躱すことができず肩や腕に打撃を受ける。急所は避けているが限度というものがる。

 

 ――くそ、ゴブリンのニヤけた顔がムカつく。


 僕にもう少しレベルか戦闘技術があればこんなこと考えなくてもいいんだけど、今の僕にはこれしか思い浮かばなかった。


「さあ、こい!!」


 ゴブリンに狙いを定め攻撃を仕掛けようとすると、決まってボブゴブリンが横から棍棒で襲ってくる。


 ――きた!!


 グキャァ!!


 ボブゴブリンの棍棒を今度は僕の方が踏み込みワザと左肩で受け止めた。


「ぐぅっ!!」


 ――痛ったぁ、けど、ちょっとはマシ。

我慢できる。


「このぉ!!」


 受け止めた左肩がズキズキと痛むけど、なんちゃってカウンターがうまく入り、ボブゴブリンの身体にショートソードを突き刺し、そのまま力任せに横へと薙ぎ払う。


 ギァッ!!


 ボブゴブリンが体液を撒き散らすと同時に断末魔の叫びを上げ光の粒子になった。


「よしっ」


 僕はゴブリンから一旦距離を取り左肩を治療する。


「はぁはぁ、はぁはぁ……痛ってぇ……ん」


 左肩を押さえつつ残りの二体のゴブリンに視線を向ければボブゴブリンが倒され狼狽しているように感じる。


 ――これってチャンス?


 痛さを我慢して残りの二体に斬り込むと抵抗らしい抵抗はなくあっさりと光の粒子になってくれた。


「ふぅ、や、やった。これで残りは、いち、に、さん……六体か……ん、でもあれって全て、うげげ。ボブだ」


 ――でも、あと少し。よしっ。


「治療終わり。今度はこっちからいってやる! このおおぉぉ!!」


 僕は一番近い位置にいた一体のボブゴブリンに向かって駆け出し、ボブゴブリンが慌てて棍棒を振り上げる瞬間を狙ってショートソードを突き刺す。

 

「よしっ」


調子に乗った僕は残り五体のボブゴブリンを次々と斬り伏せていった。なんてことにはならず、斬っては棍棒で殴られ。斬っては棍棒で殴られと、 とドタバタ泥臭い戦闘となった。なんとも情けない。


 それでも傷は治療スキルで治したし、一人で倒せたからよしとするだ。


「ああ〜終わった〜! やったよ僕」


 最後のボブゴブリンを倒し、体力の限界だった僕はその場に座り込もうとしたところで身体に違和感が襲ってきた。


 ――ん? レベルが上がる?


 それは今までのレベルが上がっていた時よりも大きな違和感だった。


【ルシールはレベルが1上がった】


「やった!!」


 僕は気になりすぐにステータスを確認した。


 ――うそ……信じられない。け、剣術レベルが上がってる。戦闘能力が一気に35も上がったよ。

 はっ!! もしかしてこれがシャルさんが言っていた付与魔法の恩恵って奴なのか?

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