第15話
そこはギルド内でもひときわ賑わっている場所だった。
「?」
そして、その場所をよく見ると、中年位のぽっちゃりした冒険者がいた。
ただその周りにいる冒険者はすべて女性冒険者だった。ぽっちゃり冒険者が美人の女性冒険者を侍らせていたのだ。
「なにあれ。あの人すごいモテモテ……」
――あれ? ということは僕も……いずれは……むふ。
「こほん。ルシール。その顔は何かな?」
顔を背けていたはずのシャルさんが、なぜか僕の方を見ていて満面の笑みを浮かべている。けど、
――ひぃぃぃっ、目が、目が、笑ってない……
僕はなぜか身の危険を感じた。これ以上は余計なことを考えてはいけないと。
「ぅ、運搬の依頼も頑張ろうかなぁ、なんて考えてたもので……あはは」
まだ少し不機嫌そうに見えるシャル。
「ふーん。そうなの……」
「はい。頑張りたいと思います」
とりあえず姿勢を正して向き直って見る。シャルさんには逆らってはいけないのだ。本能がそう伝えてくる。
「はぁ……まあいいわ」
そこでやっと普段のシャルさんに戻ってくれた。
先ほどの微笑んでいるけど微笑んでいない笑顔が幻だったような気さえ思えてくる。
「ちょうど隣町の近くにあるヌボの沼に用事ができたのよ。
ついでに隣町までの運搬依頼を受けてきたらいいわよ」
「はい!」
「でもルシール。アイテムバッグスキルのことは他言無用よ。分かった」
「?」
「もう」と言ったシャルさんは少し呆れて顔で、その顔を少し近づけ小声で話しかけてきた。
「いいルシール。もう少し強く、せめて自分の身を守れる程度になってからじゃないと、いいように利用されるわよ。悪質な人や組織にね。ルシールのことだから気づかない内に奴隷になってたってこともあり得るのよ。
それだけアイテムバッグスキルの利用価値は高いの」
そう言ってシャルさんの顔は離れていった。甘くていい香りを残して……でも僕の頭の中は恐怖でいっぱいになっていた。
「……何んですか、僕怖いです」
「だから私の馬車を使うと言って依頼を受けてくるといいわ。
ルシールが私とパーティーを組んでいることは、すでにギルドでも周知の事実となっているでしょうし」
「馬車? ですか……」
――あれ、おかしいなぁ。馬車ってものすごく高くて冒険者では簡単に所持できるものじゃないって聞いたことがあるんだけど……
そう思ったが僕はすぐに首を振った。
だって僕は、シャルさんが金貨の入った小袋をホイホイと気にした様子もなく何度も取り出す姿を目にしている。
「そうよ。運搬系の依頼は馬車を所有しているか運搬用のスキルがあれば受けることができるの、私はその馬車を持っているから、ルシールがスキルのことを話さなくても問題なく依頼を受けれるはずなのよ」
「そう言うことですか。分かりました。スキルのことは内緒にして、僕ちょっと依頼を受けてきます」
「よろしくね。私はここでフレイと待っているわ」
「はい」
僕は早速、隣町までの運搬の依頼書を依頼板から剥がして受付カウンターに向かった。
――――
――
「あの、シャルロッテさん。私もついて行っていい。ですか?」
「そうだったわね。でもいいのかしら? 今回は運搬の依頼を受けることになったから今日中には帰ってこれないわよ。
もっと簡単な、別の依頼の時でもいいわよ(ルシールとのパーティーを認めさせる為に利用しただけだから)」
「大丈夫、です。私も行きたい、です」
フレイはじーっとシャルロッテを見つめて顔を背けない、どうやらフレイの意思は固そうだ。
「うーん分かったわ。でもパーティーのメンバーには知らせてきなさい。みんな心配すると思うからね」
フレイはコクりと頷いた。
――――
――
僕は受付カウンターで隣町、トバリ町までの運搬の依頼を受けてきた。
「シャルさん。《トバリ町まで石材の運搬》を受けてきました。
ただ報酬が間違ってるのかと思って思わず聞き返してしまいましたよ僕。あははは……」
「へぇ、いくらだったの?」
「1万カラでした。僕びっくりしましたよ。運搬系の依頼って凄いんですね」
「そうかしら。それで受付では職員に何か言われなかったかしら?」
「はい。スキルか馬車の確認をと言われて、シャルさんの名前をだしたら、馬車の確認はいいって言われました。シャルさんって凄いんですね」
そう、シャルさんの名前を出した途端、大急ぎで受付処理をしてくれたんだ。
さすがAランクになるとギルドでも扱いが違うんだなぁと思ってしまった。
「そ。ま、まあいいわ。そうそう今回はフレイも一緒に行くことになったから」
「へっ、フレイも行くの?」
思わずフレイの方に視線を向けてみたけど、フレイは割と普通に立っていてコクリと頷いた。
「行くから」
「ほら。ルシールはボーっとしてないで、早くフレイの荷物を持ってあげなさい。男の子でしょ。女性にはさりげない気遣いが大事なのよ」
とシャルさんが言う。シャルさんが言うのならそういうもんだろうと僕は疑いもせずフレイから荷物を受け取ろうと右手を差し出す。
「あ、はい。フレイ、荷物は僕が持つよ」
「ん、じゃお願い、する」
フレイは少し躊躇しながらも自分の荷物を差し出してきたので受け取る。すると、
――ぐっ……
「何これ重い」
――よく、こんな重いものを平気な顔して……ぁ……
「ルシール、デリカシー足りない、魔法書が入ってるから重いだけ」
フレイが不機嫌そうな顔をしてる。ように見えた。
ここは流石に僕の方が悪いと思い、素直に謝っておく。
「ごめん」
その後すぐにフレイの袋を収納するとフレイの袋は《フレイの素朴な袋》と表示された。
見たまますぎて笑いそうになったけど、ふと《ルシールの凄く汚い袋》の表示を思い出し首を振った。
――ふぅ……
「ルシール、今失礼なこと考えた?」
「き、気のせいだよ」
シャルさんはもちろんのこと、意外にフレイも勘が鋭いようだ。気をつけねば。
「そうだったわルシール。お願いがあるのよ、トバリ町まで私の馬車を使うけど、それでね……」
――――
――
僕は20万カラで馬術スキルを買った。フレイはアレスたちのところに行っているから気にせずに買えた。
「えっと、シャルさんの馬車は……」
「ん? もう少し先の厩舎に預けているの」
預けてあったシャルロッテ仕様の馬車は凄かった。
「こ、これがシャルさんの馬車!?」
馬が小屋を引いているようにみえる、と言うかこれはもう小屋だ。魔法で軽くしているらしいから大丈夫らしいけど、これは非常に目立つ……
「そうよ。かわいいでしょ」
「……そ、そうですね。でも……」
「ふふふ」
「えっと……」
「ふふふ」
これ以上は聞いたらいけないらしい。
「つ、次は、依頼主さんのところに行きましょうか」
「そうね。お願いね」
厩舎から少し馬車を走らせると依頼主の大きな倉庫がいくつか見えてきた。
依頼主はかなり大きな商人のようで利便性から厩舎のすぐ近くに倉庫に所有しいた。
「おお、君たちが……!?」
会ってそうそう僕もびっくりしたけど依頼主さんもこの馬車を見てびっくりしている。
「ま、まあ、よろしく頼むよ」
僕は依頼主から石材を預り、上手く馬車に積み込むフリをしてアイテムバッグスキルを使った。
依頼主が最後に積み残しがないか確認しだした時には、シャルさんの小屋の中まで確認するのでは、と少し焦ってしまったけど、そこまでは確認することはなかった。
おかげで助かったけど心臓に悪い……
でもシャルさんが笑顔で依頼主と楽しそうに話をしていたけど何を話していたんだったんだろう。
「そろそろフレイがギルド前に来てるだろうから、ギルド前でフレイを拾ってっと……」
「そうね。それでいいわ。馬の扱いもうまくやれてるわよ」
「よかった、ありがとうございます」
そう、先ほどから御者をしているのは僕。そのために馬術スキルをほぼ強制的に買わされ……こほん。よろこんで買ったんだから。
今回の日程は一泊二日。トバリ町で一泊。次の日にシャルさんの目的地であるヌボの沼に寄ってこの町に帰ってくるんだ。
「そうだったわルシール。ヌボの沼の魔物はレベル12だから気を付けるのよ」
「えっ!? 僕全然レベル足りませんけど……」
「大丈夫よ。たぶん」
出発する前になんだが疲れてきたけど、僕に行かないという選択肢はなかった。
それからギルドの前で待っていたフレイと合流した僕たちはトバリ町を目指した。
【本日の出費:シャルさんへの借金20万カラ増】
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【名前:フレイ:Lv10】ギルドランクE
戦闘能力:60
種族:人間
年齢:13歳
性別: 女
職業:冒険者
スキル:〈棒術1〉〈文字認識〉
〈魔力回復1〉
魔 法:〈生活魔法〉〈水魔法2〉
〈風魔法1〉
――――――――――――――――――――
【名前:ルシール:Lv5】ギルドランクG
戦闘能力:70
種族:人間
年齢:14歳
性別: 男
職業:冒険者
スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉
〈剣術2〉〈治療2〉〈回避UP2〉
〈文字認識〉〈アイテムバッグ〉
〈貫通〉〈見切り2〉〈馬術〉
魔 法:〈生活魔法〉
*レジェンドスキル:《スキルショップ》
所持金 :1,213カラ
借金残高:3,439,850カラ
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