第10話
「三大美女の一人といえばシャルロッテさん。そのシャルロッテさんが、こんなヤツ《ルシール》とパーティーを……組んでいるだなんて……ウソだ……きっと何かの間違い」
アレスが認めたくないとばかりに首を振ると、
「そうだ。何かの間違いに決まってる。おいっ!! ルシールっ、お前シャルロッテさんに何をしたっ」
「ぐっ!!」
突然、怒りを露わにしたラインが僕の胸ぐらを掴み、力任せにグラグラと頭を揺らす。
――痛っ。朝から頭痛がするのに……こんな日に限って。
「ラインやめろよ。何をするんだ」
――このっ、なんで離さないんだ……
「そう言うことですか。こいつに弱味を握られているんですね。ならば納得です。もう安心して下さい。この俺がシャルロッテさんを助けますから」
先ほどまで燃え尽きたかのような虚な目をしていたアレスが、ラインの言葉に何やら納得がいくものがあったらしく、いつもの調子に戻り、僕を睨みつけてくる。しかも僕には全く身に覚えのない言い掛かりまでつけて。
「はあ? なに勝手なことを……ぐっ」
そんなこと当然認められるわけないので、僕はすぐに反論したが、
「おいルシール。正直に言えよ!! シャルロッテさんに何した!? この卑怯者!! じゃなきゃお前なんかとシャルロッテさんがパーティーを組むはずないんだよ! この冒険者を騙るクズがっ!」
胸ぐらを掴まれている僕の口が開かない。苦しくて声が出せなかった。
――くっ、何が卑怯者だ。勝手な言いがかりを。
「おい、クズが、なんとか言えよ」
声を出したくても出せないもどかしさに悔しさを感じていると、
「ちちょっと、ライン止めなよ」
「ラインもアレスもバカじゃないの」
黙って聞いていたマリアとフレイが僕を庇ってくれた? いや少し不貞腐れた様子から、アレスやラインが他の女性に目移りしている様子が面白くなかったのだろう。いつも一緒に行動していたし。
――でも僕としては助かった、のか?
「うるさいな。マリアとフレイには関係ないだろ、そこで黙って見ていろ」
僕の首を締めるラインの手がゆるくなった。これはラインの意識が二人に向けられたからだろう。
掴んだ手を引き離せるかは分からないが、今なら少しは声が出せそうだ。
「僕はシャルさんに何もしてない。アレスもラインも勝手な言いがかりはやめてくれ。
僕たちはギルドの依頼を受けたいだけだ」
「なっ、ルシールの分際で、舐めた真似をっ。あーもうお前見てるとイラつく」
ラインが物を捨てるかのように激しく僕を突き放し、思わず片足をついた僕に向かって人差し指を抜けてくる。
「もう許せねぇ決闘だ、決闘をしろっ! 俺に口答えしたことを後悔させてやる」
「はあ? なんでそうなるんだよ、嫌に決まってるだろ」
「うるせえ!! それで俺が勝ったらシャルロッテさんとのパーティーは解散だ」
「そんな勝手なこと。それにレベル差だってあるのに決闘なんてできるわけない」
当たり前だが、レベル差が大きく開いていると分かっていて決闘を受ける冒険者はいない。それは当然ラインにも理解できたのだろう。僕の意見にグッと押し黙ったラインの目は今にも飛びかかってきそうなほど睨んでいる。
そんな中、意外な人がラインに味方をした。
「ふふふ、いいじゃない。受けてあげなさいよルシール」
シャルさんだ。シャルさんの言葉を聞いたラインは、肯定されたのがよほど嬉しいらしくニヤリと笑みを浮かべ口角をつり上げた。
「ええ、なんでそんなことを言うんですかシャルさん……」
「ほら見たことか。シャルロッテさんはお前と組みたくないんだよ」
「人のいいシャルロッテさんをお前は利用していたんだろ? そうなるのも当然さ」
ここぞとばかりにアレスとラインが僕を非難してくる。
――そうなの……シャルさんは、本当は……
ここまで非難されると、僕の方が悪いのではないかとだんだんと思えてくる。
いっそのことシャルさんとはここで分かれてしまった方がいいのでは? とさえ思えてくる。お金さえ返せばシャルさんにも迷惑をかけない。うん、僕はいつだって一人だった。そうしよう。きっとそれがいいんだ。
「あのシャルさっ」
僕がそう決意してシャルさんに声をかけてみれば、シャルさんが僕の口の前に手の平を出し制してくる。
――え?
僕は訳が分からず、思わずシャルさんを見上げるが、シャルさんの顔は僕の方でなくアレスたちの方に向けられていて、
「あー、でも、このままだとルシールばかりが不公平だからいけないわね。そっちは何も賭けないの?」
そんなことを口にしていた。
「「「えっ!?」」」
僕、アレス、ラインの言葉が被る。
僕は驚いて思わず声が漏れたが、それはアレスもラインも同じだったらしい。
「君はルシールに賭けるモノを指定したんだよ。当然君もそれ相応のモノを賭けないと不公平だよね。私の言っている意味わかるでしょ?」
「えっ、あ、う……」
決闘を申し込んだ張本人であるラインは、そのあたりのことについては何も考えていなかったらしく、その後言葉に詰まり、アレス、マリア、フレイへと視線を泳がせる。
それは、まるで助け船を求めているように見える。
――シャルさんの言ってることはもっともだ。でもこれってシャルさんが言ってくれなかったら……気づかなかった。
自分の不甲斐なさに気づき肩を落としていると、フレイが大きくため息を吐き出した。
「はぁ……まったく……」
そして、何かを決意したようだが、フレイの表情は表に出す、あまりよくわからない。
「ラインが負けたらわたしがそっちに付いていく」
「おい。ちょっと待てフレイ!! 何勝手なことを言ってるんだよ」
「「そうだよフレイ」」
――うーん。
フレイは期待の新人の一人として有名だけど、そんなこと僕は望んでいない。
アレスパーティーは勝手に盛り上がっているけど、あの毒舌、僕には無理だ。
「あー、フレイさん。間に合ってますからこっちに来なくていいですよ」
だからワイのワイの言い合っているアレスたちに割って入った僕は丁重にお断りをしたのだが、
「むっ」
でも、そうは問屋がおろさない。フレイは僕をきつく睨みつけたあと、今度はシャルさんに視線を移した。
「わたしダメ、でしょうか?」
僕は両手でバツを作ってシャルさんに見せるも、シャルさんは少し考え、
「うーん分かったわ。フレイさんには一回だけこっちのパーティーに付き合ってもらうわ。それならいい?」
あっさりと承諾した。僕は信じられなくてシャルさんを二度見したが、シャルさんは「まあまあ」と笑うばかり。
「分かった」
「まあ、一回ならいいか」
「フレイがそれでいいなら」
フレイもそれで納得し、他のメンバーであるアレス、ライン、マリアも一回と聞いて安心したみたいですぐに承諾した。
僕だけが納得いかないけど、
「あの、僕の意見は……」
「もう決まったことよ。それよりルシール、頑張らないと私たち解散になっちゃうわよ」
シャルさんの言葉に現実を突きつけられる。
――そうだった僕は今からラインと決闘するんだ。
僕の身体が緊張で強張り、
「シャルさんが決闘を受けるから……」
思わずそんな愚痴が溢れる。
――もう本当どうしてシャルさんはこの決闘を受けると言ったの? もしかしてシャルさんは、本当に僕とパーティーを組みたくない?
僕がそう思うまでにそう時間はかからなかった。
「もう」
そんな僕の考えを読まれたのだろうか。軽く息を吐き出したシャルさんが突然顔を近づけてくる。
――ぃ!?
シャルさんの綺麗な顔が近づいてきて、思わずドキッとしてしまうが、その後に小声で語りかけてきたシャルさんの言葉に僕は納得する。
「ほらルシール。周りをよく見て。ここで断ってもいずれ同じようなことがまた起こると思うの。
私、これでも結構人気あるのよね。それならまだあの子と決闘してギルド公認になった方が、今後のためにも活動しやくすなると思ったの」
「……は、はい……でも、それは僕がラインに勝てる前提なわけで……」
「そりゃそうよ。私もルシールに負けてもらったら困るのよ。いい。今すぐに見切りのスキルを買いなさい。回避UPスキルとの組み合わせは大きな力となるはずだから、ね」
「わ、分かりました 」
シャルさんが僕のことをちゃんと考えてくれていたことにちょっと、いやかなり嬉しかった。
「じゃあ、私はギルドにルシールとラインくんの決闘申請をしてくるわ」
シャルさんはそう言うが早いか、ギルドの受付カウンターに向かって歩き出した。
ギルド内はすごく混んでいたけど、シャルさんが通る先は自然と人混みが割れていくなんとも不思議な光景を目の当たりにできた。
僕はそんな凄い人とパーティーを組んでいる。まだまだ僕は弱いけど、解消なんていやだ。
――やってやる。
「ふん。そうやって気合いでも入れているのか? シャルロッテさんに良いところを見せたいようだけど無理だからなルシール先輩」
「楽しみだなルシール。これで俺はシャルロッテさんに良いところを見せれるぜ!!
そう俺さえ見てもらえれば、きっとシャルロッテさんは俺たちのパーティーに入りたいと思うだろうな。くくく」
せっかく決意を固めえ拳を握れば、アレスとラインが普通に水を差してくる。さらにはシャルロッテさんも、自分たちのパーティーに入れた後の話までしている。
――絶対負けたくない。
決闘はすぐに受理された。
僕たちは決闘場に移動した。野次馬もぞろぞろついてきて練習場の回りにある観戦場はすぐに一杯になった。
パーティーメンバーのみ当事者の近くで応援できるらしく、椅子代わりに空樽が並べられている。
「ルシール、今のうちよ」
急ぎ足でギルド裏の決闘場まで移動すると、審判をするギルド職員が来るまでの僅かな時間に僕は見切りスキルを70万カラで購入した。
【ルシールは見切りレベル2スキルを取得した】
「できました」
ここは絶対に勝ちたいのでシャルさんへの借金が膨れようとも気にしていられないのだ。
「丁度ギルド職員がきたわね。間一髪ってところね」
「はい」
「ルシール。焦らず冷静にがんばるのよ。落ち着いて相手の動きに注力すれば絶対に勝てるはずだからね」
ニコリと笑ったシャルさんに手を振りながら僕はラインとギルド職員が待っている中央にある定位置まで向かった。
【シャルさんへの借金70万カラ増】
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