料理長、就任

 フリフリと尻尾を揺らし部屋から出て行くサザンスターを横目で凝視・・しながら、とりあえず着替えを済ませる。


 いやね、サザンスターも寝間着だったから、後姿がそれはもうね。


 あのお尻は、間違い無く一級品だろう……。あ、違う。見ていたのは尻尾だからね?


 はぁ――……。ご馳走様です。




 さて。


 結局、司ちゃんが合流してから何だかんだで約1か月程経っていた。


 その間、邪魔なお客さんは来なかったから平和そのものだった。


 と言っても、毎日をだらだらと過ごしていた訳では無いのだけれど。


 予定通り、主に新人さん達の強化訓練に費やしていたんだ。


 確かにそこそこの戦闘はこなせるのだろうけども……。


 とは言え、この先どんな奴が送り込まれるか分かったもんじゃ無いからな。


 で、アキラはマチルダに付いてもらって実践訓練。


「大盾使いの癖に盾の使い方が下手過ぎる!」


 とか言われながら相当絞られていた様だった。


 それでも、弱音も吐かずに訓練をしていたのは流石運動部。そんな感じか。いや、知らんけど。


 俺が直々に特訓している訳ではないから、実際どんなもんなのか。


 そんな事より、訓練後の食欲が半端なかった。


 確かに育ち盛りだもんね?そりゃ食べるでしょうけど。


 世の中のお母さん達の気持ちが、少しだけ理解できた気がしたよ。「まだ食うのか……食費、やべぇな」と。


 

 さおりちゃんの方は、リルリーに任せてある。


 まぁ、回復魔法を重点的に覚えさせて、魔力量も増やしてるみたいだな。


 攻撃魔法よりか、補助系を強化するのだろうな。きっと。


 で、俺は――……。






「サザンさん!玉ねぎはみじん切りでお願いしますっ」


 司ちゃんから軽快な指示が飛ぶ。


「はいにゃー」


 サザンスターは反論もせずに、言われた通りに玉ねぎを包丁でみじん切りにする。


 手際良く、トントントントン。てな具合に華麗な包丁さばきを見せつけている。


 俺がさっき魔法で終わらせようとしたら「ちゃんと包丁で切って下さいよー」って何故か怒られた。


 別に結果は変わらないと思うのだが……。まぁいいか。



 そう。


 俺はサザンスターと司ちゃんが料理しているところを何故か見守っている。


 成行きは、サザンスターが司ちゃんの特訓育成をしている時だった。


「駄目にゃー。基本的に司は戦いには向いてないと思うよ?」


 剣、槍、斧、棍棒、弓、鞭、鎌。そのどれもが向いていない。そんな判断だ。


「そんな事言われたって、日本で戦う事なんてないじゃないですか。そりゃ、剣道でも習ってたら別かもですけど……」


 司ちゃんが少しイジケタ感じになってしまった……。


 いや、そりゃそうなんだよ。


 勇者君達だって最初から戦えた訳では無いだろうしな。あれはそういう・・・・洗脳があったから出来る事だと思っている。


 だけれども、本気でやろうと思えば出来ない事はない。のだろうが。


 正直、司ちゃんを今から戦える様にしなくてもいいかなとは思う。


 戦闘要員には困ってないしな。


 俺はちらりとサザンスターを見る。



 この小柄な猫耳少女が、むしろ戦闘力だけなら一番高い。なんて誰も思わないだろうな。


 まぁ、司ちゃんには自分の身は守れるくらいは……とか思ってたけど、何かしらの装備を考えてあげればいいか。


 となると、どうすっか。


 そんな風に考えている時だった。


「戦えないけど、料理は出来ますし……むしろそっちでお役に立てれば。みたいな?」


 

 遠慮がちにそう言った司ちゃんは、黙って考え込んでいる俺を見て戦々恐々といった感じだ。


 ふむ……。それも悪くは無いか。


 毎回毎回、俺が料理を出すのも違う気がするしな。


 それならいっその事、司ちゃんをリーダーとして持ち回りでやれば良くないか?


 俺はじーっと司ちゃんを見つめる。


 うん、今日も可愛いよ。男だけど。


 上手くいけば、これから徐々に女性の体に戻っていくはずなんだけども。さてどうなるのやら。


「あ、あのぅ……」


「司を見つめ過ぎにゃー」


 司ちゃんは流石に不安になって来たみたいだ。


 サザンスターはシンプルにかまって貰えなくて寂しいのかな?


 とりあえずサザンスターに近付いて、頭をワシャワシャと撫でまわす。


「なっ!ちょっとっ」


 咄嗟だったからか、猫語じゃないのが少し面白いけど。


「よしよし、お前はいつも良い子だな」


 そんなサザンスターを見て、少しだけ意地悪がしたくなったんだ。


 それから撫で過ぎてクシャクシャになった髪の毛を、手櫛で梳かしていく。


「もう!いきなりなんなのにゃー」


 抗議の声は上げているが、尻尾は左右に大きく振られている。


 完全に猫のソレだ。


「あぁ、悪い悪い。はい、綺麗になったよ」


 俺が手を退けると、サザンスターが撫でられていた頭に自分の手を当て、ぶつぶつ言っているが気にしないでおこう。


「じゃぁ司ちゃんは、料理長的な感じで頑張ってみる?」


 なんでかサザンスターに睨まれた気がするけど、まぁ、気のせいか。


 そんな感じで始まり、今に至る。





 司ちゃんも、何だかんだで仲良くやってくれているみたいで良かった。


 今もサザンスターと一緒に楽しく料理をしている。


「ちょっ!サザンさん!玉ねぎ切り過ぎ!どうやったらそんな大根おろし・・・・・みたいになるんですか!」


「えー、みじん切りにしただけにゃん」


「包丁でそこまで出来るのが逆に凄いですけど!」


「めっちゃ涙出るにゃ」


「でしょうね!」


 ……うん。楽しそう。


「じゃ、俺はまた後で来るから。後は宜しくね」


 そう言って返事も聞かずに一旦自室へと帰る事にした。



 

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勝手に魔王と呼ばれて困ってます/旧題:俺的魔王の楽しみ方 きつねころり @kitunekolori

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