夢が現実で、現実が夢で?

 久々に夢を見た。


 それは丁度俺がこの世界・・に来た時の事だったと思う。


 見渡す限りの緑の絨毯が広がったそこは、幻想的と言っても過言では無い景色を演出していた。

 

 日差しは強過ぎもせず、そして暑くも寒くも無い。


 風がそよぐ度に、さわさわと揺れる草たち。


 人の営みを全く感じさせない自然の中。


 少し遠くに木々がチラホラと生え、その奥に行くにつれその数を増やしている。


 きっとあの奥には野生の生物なんかが生息しているのだろ。と、勝手に想像してみる。


 左右を見れば、遠くに壁……山?の様な断崖絶壁が見える。


 ここからだと、相当距離が在りそうで実際どれ位の高さの山?なのかは分からない。


 そして、木々があった方の反対側を見れば、遠くに海の様なものが見えた。


 正直、海なのか大きな湖なのか判断できない。いや、やっぱり海かな。


 そこで初めて気が付く。


 今いる場所は、高台の丘の様な場所らしいという事。


 まぁ、そんな事今はどうでも良いんだけど。


 何にせよ。


「風が、気持ち良いなぁ」


 そう独り言ちて、その場に仰向けに倒れ込んだ。


 草原とはいえ、地面に大の字に寝転ぶ事なんて無かった俺は、とても新鮮な気分だった。


 寝転びながら見上げる空は、思っていたほど眩しくはなく、そして、何処までも澄み切って見えた。


 この世の中の、何もかもがどうでも良くなる程に綺麗だった。


 ふと、自然に涙がこぼれ落ちた様だった。


 その涙が耳に入るもんだから、慌てて手で拭った。


「何で涙?俺、花粉症だったっけ」


 正直俺は涙が流れた理由なんて分からなかったから、目が乾いたか、花粉症かな?位にしか思わなかった。


 そんな事より俺は、この夢が・・永遠に覚めなければ良いのに。そう思った。


 嫌な事から解放されて、自由になったんだ。だから、今だけは。


 そう、そしてそのまま目を閉じたんだ。


 相変わらずサワサワと揺れる草の音を聞きながら。


 気が付くと眠ってしまっていた様だった。いや、本当に気持ちが良かったんだ。


 いつも見ているものよりも少し大きく感じた夕日が、あの海に沈んでいくところだった。


 俺はそれを無言で見つめていた。


 黄金に煌めく水面。


 それもまた、どこか幻想的な光景だった。


 少しだけ気温が下がった気がするが、それでも耐えられない程ではない。


 制服が意外に暖かくて……。


 制服?


 何で俺は制服なんて着ているのだろ。


 もう、どれ位袖を通していないかも覚えていない俺の正装。


 そう言えば、いつから学校に行かなくなったんだっけ。


 いや、止めよう。


 折角の夢の中まで嫌な事を思い出す必要なんてない。


 律儀にローファーまで履いていた事には気付いたが、敢えて見なかった事にした。


 今は、もう何も考えないで……。



 俺はそのまま、腕で目元を隠し、目を瞑った。


 酷く眠かった。夢から覚める合図なのかも知れないな。なんて思いながら、流れに任せる様に眠ったんだ。



 ☆



 少しずつ意識が覚醒して「またいつもの毎日が始まるのか」そんな絶望に似た感覚を覚えながら、ふと違和感を感じた。


 背中が痛い。自分のベッドから床に落ちた?いや、それなら目が覚めるハズだ。


 それに、何か胸の辺りは暖かい。つーか重い。


 俺は、目を覆ったままの腕を退け、目を開いた。


 眩しかった――。


 思わず目を細めた。


 そして、今見ているものが自分の部屋の天井では無く、雲一つない青空だった事に困惑した。


 夢から覚めていない?


 いや、そんな事より、俺の胸の上で気持ち良さそうに眠っている「猫」の方が問題だ。


 その猫は、ロシアンブルーの様な毛並みの猫だった。色は白だけど。


 どうやら、この猫の体温のお陰で寒く無かった……って事?


 というか俺は、未だに夢から覚めていない事に驚いている。


 驚きつつも、胸の上で寝てる猫を優しく撫でてみるのだった。




 ☆




「……何か、随分懐かしい夢を見た気がする」


 夢のせいか、胸の辺りに重さと温もりを感じ俺は目を覚ます。


「って。おい、お前何してんだよ……」


 俺の胸に上半身を横から被せる様にサザンスターが眠っていた。


 どうやって忍び込んだのかは知らないが、困ったヤツだ。


 全く……。仕方の無い。


 俺は身体を捻る様にして起き上がり、サザンスターをしっかりと横に寝かせた。


 仰向けになった彼女は、良く見ると……いや、良く見なくても美少女なんだが。


 何となく頭を一撫でし、目線を動かすと――。そこには二つの豊かな膨らみがっ。


 寝間着の薄さが災いし? その膨らみに目が釘付けにされてしまう。


 頭を撫でていた手が勝手に移動を始め――。


「いやいや、それは駄目だ。うん。落ち着け、俺」


 まるで降参でもするかの様に両腕を上げる。視線だけは、柔らかそうな膨らみを凝視したまま……。


「うちの魔王様はヘタレにゃ」


 サザンスターがそう呟いた。


「って、起きてるならさっさと出て行きなさいっ」


 俺は恥ずかしさもあって、そう言いながらサザンスターを追い出した。

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