温泉設備完備
一人で風呂に入って――とは言ったものの、流石に本城を一人でうろうろさせる訳にはいかない。
そこで一度、リルリーを呼び出し、司ちゃんと顔合わせをする事にした。
リルリーは登場するや否や、
「まぁ、貴方……可愛いわね」
これだよ。
司ちゃんも、相手が女性だったからか、そこまで警戒していなかった。
何だかんだで打ち解けてくれた様なので、とりあえず二人で風呂に行かせる事にしたのだが。
「えっと、私一人でも入れますから!」
司ちゃんは頑なに二人での入浴を拒んでいた。
「どうして?だって、貴方、女の子なんでしょ?だったら私と入っても問題ないわよ」
「そうなんだけどっ」
リルリーの言ってる事が間違っている訳では無いので、強くは言い返せない司ちゃん。
「もしかして、女の裸で興奮しちゃうタイプの女の子なの?」
尚も攻めるリルリー。
司ちゃんとしては、自分は女!と言ってるのに、ここで否定するしかない。
「しません!しないけど……」
「なら良いじゃない」
そう言い包められてしまう。まぁ実際、リルリーが気にしないなら何も問題は無い。
「だって……私の身体……女の子じゃないんです」
「別に良いんじゃないの?私は気にしないわよ。それに、タオル巻けば良いんじゃないの?」
「確かにそうなんだけど……」
「じゃ、行きましょ。大丈夫よ。からかったりしないから」
ふふふ、と柔らかく微笑むリルリー。
「もうっ!わかりましたっ。お願いします」
半ばヤケクソ気味に承諾する司ちゃん。
いや、ホントにね。仕方が無く頷いちゃう女の子っていい――……こほん。
「では、ゆっくりして来ると良い。その後に、軽食でも用意しよう」
俺はそう言って二人を見送った。
☆☆☆☆
リルリーと司ちゃんの二人は、本城の中にある「月下の湯」に転移してきた。
「月下の湯」は、何かカッコ良かったから適当に付けただけで、特に深い意味は無い。
月が見える訳でも無いんだけど、そこはほら、雰囲気が大事じゃん?
そんなこんなで二人は脱衣場で服を脱ぐ。
俺自身が旅行とか頻繁に行った事がある訳では無いから、昔に行った旅館のイメージなんだけど。何段か棚があって、そこに木の籠がある。そこに自分の着替えを置いておく感じ。
ちゃんと鏡もドライヤーも完備してるし、要らないとは思ったけど体重計も用意してある。うん、完璧。
リルリーが予め大きめのタオルを用意してくれたお陰で、司ちゃんは自分の身体を隠す事が出来ている。
考えてみれば、前の日まであった胸が平らになって、その代わりにアレが生えてたっていうショックは計り知れないだろう……。
さて。
脱衣場から扉を挟んで広がる浴室は石造りになっている。
個別で身体を洗うスペースが欲しかったんだけど、ここだけはね――。
個別のシャワースペースにしました。
何でって?
いや、海外のホテルで小さいシャワーボックスみたいなのがあってさ、それが「何これ!カッコいい!」って思っちゃってさ。
良いんだよ、別に。
そんなこんなで二人は身体を洗い終え、湯に浸かっている。
「ほんとに温泉があるとか……意味分からないわ」
司ちゃんはお湯をかき混ぜる様に腕を動かしながら、気持ち良さそうに目を細めている。
「そうね、私も初めて見た時はビックリ――、というか、頭おかしいんじゃないの?って思ったわ」
リルリーが過去を懐かしむ様に笑う。
「あの、さっきの人が魔王……じゃ無いんだっけ。一体何者なんですか?」
当然の疑問だろう。魔王ではない。それは良いとしても、この温泉を見る限り異世界感ぶち壊しなのだから。
「何者かしらね。ホントに。でも、私もあの人に助けられたくちだから。私もこの世界に連れて来られて、色々経験したわ。嫌な事しかなかったけどね」
天井を見つめながら、自分が異世界に来た時の事を少しだけ話すリルリー。だが、全部話すと長くなる。
「どうやって帰るのか。帰れるのか。正直私には分からないけど、でも、あの人が何とかしようと――、してくれようと人知れず頑張っているのは知っているわ」
「そう――なんですね。悪い人では無いんですね」
「悪い人よ?」
からかう様に司ちゃんに即答する。
「だって、私は――、いいえ、私たちはあの人から離れられないもの。この世界ではね」
「確かにこんな設備を持ってますもんね。それって外の世界との文明のレベルの違いがあるから……ですか」
「そうね。それもあるけど。まだ、あの人に助けられた恩を返して無いわ。それに――、あの人、一人だと何もしない怠惰な人なのよ。直ぐ引きこもって、放っておくとひたすら眠ってるんじゃないかしら」
「それが離れられない理由ですか?」
「ええ、そうね。あの人は一人にすると……何だか危うい。そんな気がするのよ」
「危うい、かぁ。良く分かんないですね」
「ふふ、良いんじゃない?今は。それより……」
ス――っと、リルリーは司ちゃんに近付いて行く。
「どうしました?」
司ちゃんの横に近付くと、片手を司ちゃんの頬に添えた。
「貴方……ホントに可愛いわね」
「え、いや、身体は男なので、可愛く無いですっ」
咄嗟に逃げようとする司ちゃんの腕を掴み、リルリーは尚も身体を寄せる。
「そんな事ないわよ?あら、
意地悪く笑い、リルリーは司の足の付け根に手を伸ばし――、
「ちょ!え、やだ!何で!?」
司ちゃんは司ちゃんで、経験した事の無い自分の身体の反応を目の当たりにし、軽くパニックに陥っている。
「ね、可愛いでしょ」
リルリーはそのまま、それを握り――……。
「やだぁ!握らないでそんなとこ!ホント無理だから!」
「ふふふっ」
「駄目ですって!やだぁっ、あっ、いやぁぁああああああ」
☆☆☆☆☆
ん?なんだ?今司ちゃんの叫び声が聞こえた気がするんだが……まぁ良いか。
そう言えば、リルリーは男も女もイケるくちだったが――、大丈夫だよね??
「とりあえず、風呂上りに冷たいハーブティーでもあればいいか」
俺は司ちゃん用の軽食を用意している最中だ。
既に誰も居なくなった食堂に、タマゴサンドとフルーツを用意しておいた。
まぁ、足りなければ後から作ればよかろう。
そして、リルリーと司ちゃんが転移で戻って来た。
「お帰り――って、何でそんなに顔赤いの?のぼせちゃった?」
司ちゃんの顔が明らかに赤かった。温泉が
「な、何でも無いですっ」
司ちゃんは何故か恥ずかしそうにしながら、そう答えた。
「そうか。まぁ、大丈夫なら良いんだが。冷たい飲み物用意してあるから飲むと良い」
俺は二人を椅子に座らせ、グラスにハーブティーを注いだ。
「あ、有難う御座います」
うん、お礼がちゃんと言える子は良い子だよ。
「あら、私も頂いていいのかしら」
「あぁ、勿論だ。あ、違うのが良かった?」
「いえ、大丈夫よ。有難う」
リルリーは司にウインクしながら、ハーブティーに口を付けた。
「……確かに、こんな気配りする魔王は居ないわ……」
司ちゃんが良く分からない事を言いながらハーブティーを飲んでる。
いやだからね、俺魔王じゃ無いからね?!
――まぁ、何にせよ。少し打ち解けてくれて、落ち着いたなら良かったよ。
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