勇者君達の召喚について
毎度毎度、勇者やら何やらがこの城に何故か送り込まれてきてはいるが、最初はその殆どがこの世界の住人だった。だが、ここ最近は、異世界から召喚されたとされる奴らが増えて来た。
お察しの通り、この城に居る彼女たちは異世界から召喚されたのだ。
それはまた後述するとして、今は
アキラはこの世界に召喚された時、勇者君と僧侶ちゃんと魔法使いちゃんと同時に召喚されたらしい。
アキラの話を聞いてる最中に、僧侶ちゃんも頷いたり、補足してくれたりしながら当時の事を話してくれた。
アキラは中学3年で、部活を終え自宅に帰り、部屋着に着替え夕食が出来るまで仮眠をとったらしい。そして目が覚めると、教会の様な場所に居たそうだ。
僧侶ちゃんは、高校3年生で18歳になったばかりだそうだ。彼女は、普段通りに自分のベッドで眠りにつき、気が付くと教会に居た。と。
共通するのは、どちらも眠っていたという事だ。普通に考えれば、まだ夢の中だと結論付けるのが普通なんだろう。
そして教会では、見た事も無い巨大な白い女性の石造な様なものがそびえ立っていたらしい。
周りには数人の黒いローブを頭までスッポリと被ったのが囲んでいて、その中心に白地の生地に、銀やら金やらの刺繍が施された法衣の様な物を羽織った偉そうな男が居たそうだ。
此処からはよく聞く話だった。
その男から、「魔王と呼ばれる悪しき者を倒せるのは、異世界からの召喚者である君達だけだ」と、その為に召喚されたと説明されたらしい。
何故かその事に何の疑問を抱く事は無かったそうだ。
「いや、それ軽く洗脳されてるね」とは思ったが、今此処で口に出す事はしない。話を遮るのも違うしな。
その後は場所を変え、何処かの城に連れて行かれたそうだ。
そこで、一通りの魔法に関する知識を教わり、戦闘の訓練をし、それなりの装備と路銀を手渡され、旅立たされた。と。「魔王を倒せれば、勇者様たちは元の世界に帰れます」なんてお土産付きで。
いやいや、どこのRPGだよ。ざっくりし過ぎ。
俺の城に辿り着くまでには、色々な事があったそうだ。魔物と戦ったり、盗賊と戦ったり、奴隷を見たり……。
まぁ、奴隷とか居そうだとは思ってたけど、ホントに居るんだね。だからって、どうする事も出来ないんだけどさ。
んで、一緒に旅をしている内に大盾君は僧侶ちゃんの事が気になり始めて――。みたいなね。
15歳かぁ、そう考えると女性に対しての免疫とかないだろうし、色々と性的な興奮をしてしまうのも、多少は理解できるか。
魔物を倒すとかさ、普通に生きてたら生き物の命を奪うなんて事経験しないから、かなりのストレスとかもあったと思うよ。
多分だけど、召喚されたと同時に
そうでなければ、只の学生だった彼らが人や魔物を殺す事に疑問を抱かず、躊躇もしないなんてのは不自然過ぎる。
まぁ、中には環境に適応する奴も居るだろうけど、そんなのは稀だろう。
俺の城に来た事で、その洗脳が弱まったと考えれば、今こうして安心して
そしてさぁ、そんな事より肝心なのが一つ。
俺、魔王じゃ無いから!
そこなんだよなぁ。
それに、そいつらの言い分が正しければ、俺は
絶対無いでしょ。
分かるんだけどね。俺みたいな存在が邪魔だって事はさ。
☆☆☆
話を軽く聞いた後は、もうアキラの食いっぷりがやばかった。
まぁ、それも、他の面々が「これも美味いぞ」とか「ほら、食べな」とか言って、どんどんアキラに勧めたってのもあるんだけど。
なんか、言うなれば親戚の叔母さん……いや、近所のお姉さん達みたいだった。
何となくだが、皆が最初にアキラに対して抱いてた人物像の認識を改めた感じだった。
いや、まぁ、15歳だしねぇ。
僧侶ちゃんは、何だか複雑そうな顔をしてたけど……道中、年齢の話とかしなかったの??
まぁいいか。
何だかんだ言って、俺の城に来たんだ。これから上手くやってくれたらそれでいいか。
『イース、どうやらお客さんみたいよ』
何となく食事風景を見ている時に、リルリーから念話が届いた。
リルリーは気にもしていない風で、食事を続けている。
という事は、危険度は低い。という事だろう。
『了解した。俺が見て来る、ここは頼んだ』
リルリーにそう伝え、俺は一旦
『お客さんの様だ、とりあえず何かあれば呼ぶからアキラとさおりちゃんを頼む』
そうリルリー、マチルダ、サザンスターに纏めて念話を送った。
『分かったわ』『了解』『さおりちゃん?』
と、快く返事をいただいたので、転移でこの場を後にする。
まぁ、俺が居なくても
謁見の間に転移し、椅子に座る。
とりあえず【モニター】を起動し、状況を確認する。
「ん?何処だ?」
画面を切り替えるが、
「帰った?……いや、それはないか」
そんな考えを巡らせている時に気付いたのだが……。
「あ――、罠とか何も仕掛けてないぞ」
そう、勇者君達が来てからそんなに日数も経っていないので、次は暫く無いだろうと踏んで、全て解除してある。昔のRPGに出て来る最初の城位にシンプル設計。
つまり、今のこの迷宮城(仮)は、只の博物館っぽい城状態って事なんだ。
その証拠に、謁見の間の入り口に駆け足で来たのであろう人物が肩で息をしながら立っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
膝に手を乗せ、少し前屈みになっている。
侵入を確認してから。そんなに時間経ってないと思うんだけど……まぁ、殆ど直線だからなぁ。
この
「あんたが……魔王?」
中性的な声のお客さんはどうやら魔王を捜しているご様子。
「もし、俺が魔王だったらどうするんだ?」
その言葉にお客さんは顔を上げ、俺の方を睨んでいる様だった。
「そんな恰好で魔王とか言われても信じられないのだけど」
言われて気付いたけど、俺、着替えるの忘れてたわ。
まじかー。普段着みたいな格好だよ。もうね、威厳も何もありゃしないの。
「……だろうな」
いやー、俺がお客さんの立場でもそう思うよ。
「魔王に話があるのよ。何処に居るの?」
息が整ったのか、ゆっくりと俺の方に近付いてくる。
ボブよりも少し長い茶色の髪の毛を揺らし、俺をしっかりと見据えている。
白いシャツはきっと元居た世界の物だろうけど、ズボンは何故かこの世界の所謂一般的な布のズボンを履いている。
見た感じ少年っぽい。
「魔王かは兎も角、要件位は聞く事が出来る。まぁ、そちらが良ければ……だが」
「元の世界に帰りたいの!」
あー、やっぱりそうですよね。うん、何と無くそうかなとは思ったけども。
「元の世界……か。だが、どうしてその願いと魔王が繋がるのかがいまいち理解出来ない。大体、君をこちらの世界に召喚したのは魔王では無いはずなのだが」
少し冷たい言い方かも知れないが、召喚とか出来ないのにどうしてその逆の帰還をさせる事が出来るというのか。
お客さんは俺の直ぐ目の前まで来て、じっと俺を見つめている。
「……確かに、そうね。貴方の言う通りかも知れない」
少しずつ冷静さを取り戻したのか、自分が言っている事の理不尽さに気付いたのか。少し考える様に、腕組みしている。
「あ――、例えばなんだが、その、君を召喚した者に頼むという選択肢はないのか?」
いやまぁ、それが出来たら苦労しない事位分かってるんだけど。それに、きっとこのお客さんも洗脳されてるんだろうし。
「……私が気付いた時には変な教会みたいな場所に居て、神父さんみたいな男の人に「貴方は異世界から召喚されました。帰る方法は魔王が知っている筈です」とか言われて。それで、石みたいな物を手渡されたの」
「石?」
教会と神父っぽい奴までは、アキラ達の話にも出て来たけど、石って。
「そう、それを地面に叩き付ければ、魔王の城まで行けるって言われて」
いやいや、それってもう俺の城までの直通みたいなもんじゃ無いか!というか、いつそんなもん作ったんだ?!ゲートの行き先を固定して、それを石に封じ込める?!
原理は分かる。だけど、そんな事って……。
いや、それより、
『皆、緊急事態かも知れない。このお客さんは、転移の石で直接城まで飛んで来たそうだ。つまり、他にも続々とお客さんが来る事が考えられる。城付近の警戒をしておいてくれ』
念話を皆に飛ばす。警戒は大事だ。
『それマジ?』『……了解した』『ニャンとっ』
『まぁ、アキラ達が食べ終わってからで構わん。リルリーは周辺の警戒。マチルダはアキラを部屋に連れて行き次第、トラップの設置。サザンスターはさお……僧侶ちゃんを本城に連れて行ってくれ』
まぁ、そんなに焦る事も無いだろうがな。
「ねぇ、聞いてる?」
そうだった。忘れてた。
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