迷宮城と魔王城

 しかし、あの勇者君は暫く放って置く事にしたけど、どうせ性懲りも無くまた来るんだろう。


 別に何度来てもいいんだけどさ。正直面倒くさい。


 面倒くさいと言えば、勇者君のお仲間だった「大盾君」だ。


 追い出す訳にもいかないから、とりあえず城の敷地内・・・に住む許可を出している。


 俺の城は相当広い。具体的に言えば、100人住んでも平気だと思う。


 思うというのは、実質部屋はあるものの使用していないし、大して意味も無いから正直覚えていないからだ。


 

 俺の城は緑の草原に囲まれ、少し歩くと清流の流れる小川がある。そこから見える美しい山々は、数多くの生命を生み出し、そして人々の生きる糧となる生き物がそこで生活している。って、なんの話だっけ?


 あ、そうそう。


 勇者達が侵入したのは、表向きの城だ。というか迷宮だね。


 この迷宮を作るのにも苦労したよ、ホント。


 沢山のゲームからヒントを得て……いや、ほぼ良い所だけをオマージュ・・・・・させて頂いた。


 現状、3階層までしか創れなかったけど、まぁ、本気で相手の戦力を削る為じゃなくて、只単に嫌がらせで疲れてくれればいいかな。位にしか考えて無いからな。


 まぁそれでも、その内にもっと凶悪な罠やらギミックを仕込まなきゃ……なんだろうなぁ。めんどくさ……。


 で、その迷宮を抜けてやっとたどり着くのが「謁見の間」だ。所謂魔王の間ってやつ。


 普通に考えてさ、いつもいつも魔王がそこに座ってると思うなよ?


 居ないから。用事無いし。


 自分の部屋に居たいじゃんね。普通。



 で、そこまで言って置いてなんだけど、俺達は普段その迷宮仕様の城には居ない。


 迷宮用の城は、本城を囲う様に張り巡らせてある。言わば外壁扱いなのだ。


 その迷宮の囲いの内側に小さな村なら収まる位の敷地がある。そして中心に本城。


 空間を少し弄ってあるので、外からは迷宮城外壁しか見えないはずだ。上空から俺の結界を突き破る威力で来られたら、流石にバレるとは思うけど。


 因みに本城は、フランスにある「シャンボール城」をイメージしてある。まぁ、少しだけ規模は小さいけど。


 白を基調とした城壁。屋根周りは黒に近いグレーに仕上げてある。


 特徴と言えば……二重の螺旋階段だったり、外敵を迎え撃つ仕様にはなっていないとか、あと、冬は寒いって事かも知れない。


 もともとシャンボール城は、居住を目的として作られては居なかったらしい。まぁ、俺にとってはどうでも良いんだけど。


 だって、見た目が格好良いんだもん。


 それに、イメージはあくまでイメージであって、空調なんてどうにでもなるしな。

 

 ま、機会があれば「クロンボー城」とか「スピシュスキー城」とか、あ、あとはモンサンミッシェルみたいなの造ってみたいかな。つーか、最早城塞・・になっちゃうか。


 やばい、脱線し過ぎたな。

 

 で、現在「大盾君」が居るのは、迷宮の方のダミーの居住区。


 一応侵入者には分からない様にはしてある通路の先にその一角はある。スタッフオンリーというやつだ。


 追い出す訳にもいかないけど、本城に招くのは満場一致で否決だったので迷宮そっちに部屋を用意してあげた。


 ちゃんとベッドとテーブルとイス。しかも部屋の中には、トイレと簡易シャワーまで用意してある充実ぶりだ。


 異世界に来てからだと、その設備の有難さが痛いほど染みる事だろう。


 何せ、他所の国は知らないが、この城の周辺の街では野外の共同の汲み取り式トイレと、シャワーとは呼べない粗末な水浴びしかないと聞いている。


 現代人が突然この世界に迷い混んだら、気が狂ってしまう環境だろうな。と、他人事の様に考える。


「魔王様、そろそろ腹が減って死にそうなんですがっ」


 大盾君は、中に誰も居ない俺の部屋を必死にノックし喚いていた。


 俺はその様子をまるでインターホンの様にモニターで眺め、溜息をつきながら見つめる。


「はぁ……まぁ確かに住んでも良いとは言ったが、飯の支度まで俺がするのか……」


 一通り文句を独り言ちた後、軽装に着替え、自分の居る部屋とダミーの部屋・・・・・・の扉にパスを繋いだ。


 因みに、他の面々もダミーの部屋と行き来する場合は、俺が与えた魔道具「扉渡りの指輪」を使い、あたかもその部屋から出て来た様に見せる事が可能だ。


 扉を開き、ダミーの居住区の通路に出る。


 そこには情けない顔をした大盾君は居た。


「朝から騒々しいな」


 俺は見下す様に大盾君に視線を向けた。が、


「いや、ホントすみませんっ。部屋まで用意してもらって何なんですが……保存食が無くなってしまって」


 っと、そんな事気にもしない大盾君。もしかしたら、こいつはかなりの大物なのでは?と一瞬考えたが……そんな訳(笑)と自分の考えを一蹴した。


「なら、外で魔物を狩るとかさぁ」


 そう、別に何も城に籠っている必要は無いのだ。


 そんな大盾君も今は軽装だ。まぁそりゃ、敵が居ないからね。今は。


「いや、そうなんですけど。ほら、皆さんはどうしてるのかなって……」


 それは確かに気になるよな。


 ここ数日、僧侶ちゃんは大盾君と接触させてないし、他のメンバーも殆ど顔を合わせてないもんな。


「ふむ……まぁ、理由はどうあれ、折角だし皆で食事をとるか」


 会う理由が無いとはいえ、殆ど顔を見せないのは少し違和感があるし。


『リルリー、アマンダ、サザンスター。起きてるか』


 俺は三人に念話を飛ばした。


『起きてるわ』『……あぁ』『すぅ――』


 あ、一人寝てるふりしてるな。


『そろそろ一度顔合わせしておかないと流石に不審がられてしまうので、後ほど食堂に集合してくれ』


 それだけで察した様で、『分かったわ』『……了解』『スゥ――』と返事を帰して来た。


『サザンスターは、僧侶ちゃんを連れて来てくれ。頼んだぞ』


 俺は念を押した。そして『ニャ――』というヤル気の無い声だけ帰って来た。


「さて、それでは食堂に行くか。こっちだ」


 大盾君を連れて食堂へと案内した。そう言えば、そもそも自室以外の場所を教えて無かったわ。うん。めんごやで。


「あ、やっぱり食堂とかあるんですね!良かった!」


 うん?何故か大盾君は喜んでいるが、食堂と言っても調理するのは自分達なんだけどな?


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