勝手に魔王と呼ばれて困ってます/旧題:俺的魔王の楽しみ方

きつねころり

勇者様ご一行、いらっしゃいました。

「イース、侵入者よ。恐らく勇者様ご一行だと思うのだけど」


 金色の髪を腰まで伸ばしたこの女性、俺の仲間である「リルリー(本名:田中ルリ)」は、監視魔法に掛かった侵入者の情報を伝えて来る。


 アイドルでも通用する様な可憐さと幼い顔立ちで、胸もそこそこデカイ。そのくせ身長は155cmと小さく、ロリ巨乳と称して申し分ない女性だ。確か、本当なら今年で30歳……。


「ああ、分かった。まずは敵戦力の把握及び、分断をいつもの様に頼む」


 俺はそう指示を出し、今居る自室から、定番である謁見の間にある魔王の椅子へと向かう。


「っと、その前に……」


 いくら何でも、寝間着のままじゃ恰好が付かない。


 クローゼットから衣装を取り出す。


「俺、ブーツ嫌いなんだよなぁ。歩きづらいし」


 ぶつぶつと文句を言いながら、いつのもソレ・・に着替える。


「イース、私が居るのに着替えるのはどうかと思うけど?」


 いけね、リルリーが居るの忘れてたわ。


「あぁ悪い……っても、お互い見せ合ってるんだからもう良く無いか?」


 え?何をって?


 そりゃ色々だよ。


「はぁ……まぁ、いいわ。じゃ先にいってるわね」


 リルリーはそう言いながら手をフリフリして出て行った。


 俺も着替え終え、定位置に向かう。




「マチルダ、リルリーと連携していつもの様に頼む」


 俺は既に謁見の間に来ていた「マチルダ(本名:佐々木まちこ)」に声を掛けた。


 マチルダ(トラウマがあるのか、まちちゃん・・・・・まちこ・・・って呼ぶと、それはもう手が付けられないくらいに暴れる)は黒髪をポニーテールで纏めている。


 生真面目そうな眼付きで、委員長タイプの女性だ。


 胸は……まぁ、いいか。この話は止めよう。


 スラっとしていて、身長は165cmだったか。


 女子高出身で、それはもう後輩からモテていたそうだ。そんな彼女28歳。


 とはいえ、その姿はこちらに来た時から変わっていない。


「了解。まぁ、今回も直ぐに終わるんだろうけど……ね」


 少しだけ遠い目をして、自分の役割を果たしに向かった。


 俺は魔王の椅子に座りながら、侵入者の様子を確認する事にした。


―【モニター】―


 オリジナルの魔法を発動させ、城の状況を盗み見する。


 実はこの魔法があれば、侵入者の情報なんて直ぐに把握できるのだが、それだと彼女達の仕事が無くなってしまう。だから、敢えてこの魔法は教えていない。


 それに、色々と楽しみがバレちゃうのも困るじゃん?


 この城には、温泉もあるしさぁ……ねぇ?


「さて、今回はどんなもんかな」


 俺は右のひじ掛けに腕を乗せ、頬杖をつきながら映像を眺めた。




 今回の侵入者は……まぁ、勇者君に僧侶プリーストの女の子かな?後は、大盾ガードの男と魔法使いマジシャンの女の子か。


 まぁ、バランスは良いんじゃない?けど、どうしてもっと大勢で攻めて来ないのか本当に謎。


 いや、ゲームみたいに人数制限が在る訳じゃ無いのに何でなん?


 別に良いんだけどさ。


 つか、この勇者君と僧侶ちゃん、絶対にデキてるでしょ。大盾君と魔法使いちゃんは……何か微妙だな。


 どっちかって言うと、魔法使いちゃんは勇者君の事好きそう。で、大盾君は僧侶ちゃん狙い。みたいな。


 はぁ――、校外学習じゃねーんだぞ?


『リルリー、そっちはどうだ』


 俺は念話をリルリーに飛ばす。


 実は俺達は念話で会話出来るけど、敵が居ない時はなるべく使わない様にしている。


 コミュニケーションって大事だろ?


『男二人に、女は僧侶と魔法使いのパーティーかしら』


 うん、知ってる。ごめんね。


『そうか、では女のどちらかを確保してくれ』

『分かったわ』


 手短にそうやり取りする。


 映像をみていると、罠が上手い事発動し、僧侶ちゃんを孤立させる事に成功したみたいだった。


 床からスゥ――っと天井まで飛び出した半透明な壁に隔たれ、僧侶ちゃんをパーティーから分断。


「おい!さおり!大丈夫か!」


 勇者君はさおりと呼ばれた女性を心配し、見えない壁に向かって体当たりしたり、剣を打ち付けたりしている。


「私は大丈夫」


 僧侶ちゃんは焦った表情をしているが、何とか落ち着こうとしているみたいだった。声が届くので、そこまで分厚い壁では無いと判断したのだろう。


 まぁしかし、敵地で一人になってしまったら心細いよな。


「うっし!んじゃ俺様が必殺技使ってみるぜ!」


 大盾君が、どうやらスキルを使って壁破壊にチャレンジするみたいだ。


 かなりの大技なのだろう。勇者君と魔法使いちゃんが大盾君から距離をとる。


 僧侶ちゃんも壁から少し離れて、大盾君の動きをじっと見つめている。


「待ってろよ、さおりっ!行くぞ!バーンアクセルっ!」


 大盾君は何処からか取り出した巨大な斧を担ぎ上げ、唐竹割の様に振り下ろした。


 その最中、振り下ろされる斧からは赤黒いオーラが纏わりつき、壁に直撃した瞬間に接触面から大量の魔力が溢れ、ドーンッ!!!!という轟音を響かせながら大爆発と言っても過言では無い黒い炎が舞い上がった。


 


 爆炎と轟音が収まり、勇者ご一行は驚愕した。


 半透明な壁は健在だったのだ。


「くそっ、まじかよ」


 吐き捨てる様に大盾君は言った。


「これは僕が奥義を使うしかないんじゃないか?」


「駄目よ、それは魔王まで取っておいて」


 勇者君が奥義を使う事を真っ先に止めた魔法使いちゃん。


「あのさ、もしかしたら途中で合流出来るかも知れないし、先に進むのはどう?」


 魔法使いちゃんがそう言うが、それは悪手だと魔王様は思うぞ?


「いや、もし魔物にでも襲われたら、さおりだけでは戦えない。どうにかしないと……」


 勇者君が何かを考えながらそう魔法使いちゃんを諭す。


 あー、分かるよ。勇者君。僧侶ちゃんが敵に捕まって凌辱されちゃったら嫌だもんね。


『分断したわ。僧侶の女の子ね』


 リルリーから報告が届く。


 さて、んじゃそろそろかな。


『リルリー、ではその僧侶ちゃんを連れてこい』

『えぇ』


 短く念話を交わし指示を出す。



「お話し中御免なさいねぇ。この子は貰って行くわね」


 僧侶ちゃん側にリルリーがゆらりと現れる。


「あ、貴方は……?」


 僧侶ちゃんは自分の目の前に現れたのが、何処からどう見てもロリ巨乳の女性だったので一瞬警戒するのを忘れてしまった様だ。


「私?私は魔王様の部下よ」


 その言葉に、勇者ご一行は凍り付く。一番恐れていた展開になってしまったからだ。


「ま、待て!さおりに何をするつもりだ!」


 勇者君はリルリーに問いかけるが、


「あら、寧ろ何をしてほしいの?このお嬢さんに。別に私は、このお嬢さんに何の興味も無いのだけれど……」


「え……?」


 リルリーの発言に僧侶ちゃんは少し混乱している。危害を加えるつもりが無い様な事を言われたからだ。


「そんなの信じられるハズねぇだろ!どうせ魔王のヤツに好き放題させるつもりだろ!」


 興奮した大盾君が唾を飛ばしながら叫ぶ。


 ふむ……まぁ、健全に?考えたらそう思われてしまうか。間違ってはいないしな。


「あら、貴方はそういう趣味があるのですね?だそうよ、お嬢さん。あの斧を持った彼は貴方が魔王様・・・に凌辱されるのが見たいそうよ」


「っ!そんな事言ってねぇ!」


「サイテー」


 大盾君を軽蔑の眼差しで睨む魔法使いちゃん。


「二人共、落ち着いて!」


 勇者君が仲裁に入る。


 つーかさ、君ら危機感あるの?ここ、敵の城だよ?


「あ、あの……私だって、戦えます!」


 僧侶ちゃんはリルリー向かって杖を向ける。


「それがどういう事か分かってるの?お嬢さん。私は何もする気は無かったのだけれど……戦うとなったら……容赦はしないわよ」


 リルリーは僧侶ちゃんを見つめたまま、圧倒的な魔力を放出した。


 このプレッシャーに耐えられる人間はそうは居ないハズだ。何せ、彼女は俺の……外の奴ら風に言えば、魔王の部下なのだから。


 僧侶ちゃんは目の前で殺気を膨らませるリルリーに対して、完全に戦意を失ってしまっていた。


 多分、リルリーは「恐怖」の魔法も使ったと思われる。


「ひぃっ……やだようぅ……」


 僧侶ちゃんはその場でペタンと座り込み、泣きだしてしまった。そして、僧侶ちゃんの足元には、小さな水溜まりが作られていた。


「あらあら、可愛そうに。御免なさいね。貴方に危害を加えるつもりは無いのよ、ね?」


 リルリーは僧侶ちゃんの傍でしゃがみ込むと、優しく頭を撫で始めた。


「お、おい!さおりに触るな!」


 大盾君がリルリーに向かって叫ぶが、


「貴方……そんなに股間を膨らませて、一体何を想像していたの?それとも、彼女の痴態を見て興奮しちゃったのかしら」


 ふふふっと笑うリルリーは、それはもう妖艶な女性だった。


 だが、外見はロリ巨乳だ。


 ミスマッチっ。


「興奮じゃねぇよ!それよりこの壁を退けろ!卑怯だぞ!」


 敵地に侵入しておいて卑怯とか。もうね、呆れて笑いも起きないわ。


「さおりをどうするつもりだ」


 勇者君は流石に興奮していない様だ。……してないよね?


 魔法使いちゃんがここぞとばかりに、勇者君の服の裾を握る。


 あれだ。怖がってるふりだ、これ。


「別に私はどうもしないのだけれど……。そうね、返して欲しくば、魔王様の元へ来なさい。まぁ、早くしないと責任は持てないけどね」


 ふふっと笑い、僧侶ちゃんと共にその場から姿を消した。


「おい!くそ!ショウ!先を急ぐぞ!」


 大盾君は、勇者君を呼び捨てにして、先に進む様に急かす。


「そうだね、此処に居ても仕方ない。メグ、援護は頼んだよ」


 勇者君は、魔法使いちゃんの手をそっと解き、通路を進み始めた。


「……ん、そうだよね……。私、頑張るからっ」


 勇者君の後を追いながら、魔法使いちゃんは勇者君の背中に向けてそう言った。


「ったく、ショウもメグにしておけばいいじゃねーか。そしたら俺はさおりと……、あ、おい!置いて行くなよ!」


 大盾君は自分の黒い気持ちを少しだけ吐き出し、勇者君の後を追った。




☆☆☆☆☆




「魔王様、勇者パーティーの一人を連れてきました」


 リルリーが転移を使って俺の、前に現れる。僧侶ちゃんを連れて。


 因みに俺の【モニター】は他人には見えない。これね、すごく便利。とはいえ、何もない中空に意識を向けているとバレてしまいそうだから、今は消しておこう。


「ご苦労。それで、名前は?」


 俺は僧侶ちゃんの名前を聞き出す素振りをした。だった、もう知ってるし。


「……」


 僧侶ちゃんは項垂れたまま、何も答えない。まだ【恐怖】の効果が残っているのだろう。それに、仲間が見ている前で粗相をしてしまったのだ。放心状態でも仕方ないか。


 とはいえ、


「女、聞こえているな?答えぬなら、それ相応の拷問を受けて貰うが。勿論、仲間の見ている前でな」


 キャー!鬼畜!自分で言って何だけど、マジ最低だな!


 僧侶ちゃんは身体をビクッっとさせ、恐る恐る顔を上げ俺を見た。


「……さおり……です……」


 うん、ちゃんと人の目を見て名乗れるのは良い事だよ。


 そんなさおりちゃんの目には、涙が溜まっている。


 もうね、この泣くのを堪えてる女の子の表情とか、ほんとすk……。こほん。


「うむ。で、さおり。お前は何故この城に侵入してきたのだ?」


 さおりちゃんはキョトンとした表情で固まっている。


「ん?質問の意図が伝わらないか……。あー、そうだな。お前達の目的は何かと聞いている」


 その質問の意図を理解したのかは分からないが、さおりちゃんの身体が強張った様に見えた。


「そ……それは……」


「まぁ、想像は出来るがな。ほら、本人の口から聞いておかないと後々困るだろう?大丈夫だ。その返答でお前に危害を加えるつもりはない」


 そんな事言われても、まさか「魔王を討伐しに来ました!」なんて言えないよなぁ。


「……魔王が……悪い人だと聞いて……その、やっつけに……ごめんなさい!殺さないで!!」


 言い終わらない内に、さおりちゃんは取り乱してしまった。


 泣きながら後ずさり、俺から距離をとろうとしている。


 それをリルリーに抑えられ、絶望した表情で涙を流している。


「待って――、まだ何もしてないよ――……」なんて俺の心の声が届くはずも無く、さおりちゃんはイヤイヤをする様に顔を左右に振っている。


 そんなさおりちゃんも、非常にそそr……こほん。


「はぁ……。まぁそうなるよな。サザンスター、居るか」


 俺がそう呟くと、


「はい、ここに」


 俺の横に、猫耳少女が現れた。


 この少女は、サザンスター(本名:星 りえ)という名前の猫耳パワフル少女だ。因みに茅ケ崎とかその辺りの有名ロックバンドの大ファンらしい。いや、知らんけど。


 確か、今年で26歳?


「さおりちゃんを「さおりちゃん?」――あ、この女の服をとりあえずひん剥いて、綺麗にして此処へ連れてこい」


 この猫耳、外からの女の子に対して嫉妬心が強いから怖いんだよ。でもまぁ、面倒見が良いから、そこは素直に評価できるんだけど。


「分かりました。ビリビリに引き裂いてやります」


 悪戯っぽく笑いながら言う猫耳少女に、これから何をされるのか悪い方に想像してしまったさおりちゃんは、またしても恐怖で固まってしまった。


 顔の色が青白くなってる。


「では、行くとするのにゃ」


 リルリーに変わりさおりの腕を掴んだサザンスターは、そのまま転移して消えた。


「はぁ……」


 俺は深くため息をついた。


 いやだって、ただあのままの格好だと気持ち悪いだろうし、本人も嫌だろうから風呂に連れて行かせただけだしな。


『魔王様、準備が整いました。どれを捕縛しますか?』


 マチルダからの念話が届いた。


 ノリノリじゃないか、マチルダ。ところで、魔王って設定念話でも続けるの?


『あ―、そうだな。大盾の彼にしようか。面白そうだしな。とりあえず適当に痛めつけてやれ』


『了解っ』


 さて、その場面も見てたいからな。


「リルリー、次の準備を頼んだぞ」


 ロリ巨乳に支持を出す。


「オッケー。でもさ、さおりちゃん可愛いのよねぇ、私もお風呂行きたいわぁ」


「駄目です。仕事をして下さい」


「ケチね」


「何でやねんっ、後での楽しみに取っておきなさい」


「もう、分かったわよ」


 リルリーは渋々従う素振りを見せて、そして転移で移動した。


 あのロリ巨乳は、基本的に男女問わず可愛いと思った物を収集・・したがる癖があるからな。気を付けないと。


「さて……」


 そしてまた俺は、頬杖をつきながら【モニター】で状況を確認するのだった。



☆☆☆☆☆



「くそ!こいつら、強い!」

「メグっ援護を!」

「こっちだって目一杯だよ!」


 大量の動く鎧に囲まれ、勇者君たちはピンチの様だった。


 いや、もうその時点で魔王に勝てるハズ無かろうて。


「メグっ、アキラっ、一旦引くぞ!」


「分かった!」「おうよ!」


「シャインスパーク!」


 勇者君が剣を高々と掲げ、スキルを発動する。


 シャインスパークには攻撃力は無いが、目くらましと麻痺の効果を発生させるスキルだ。


 動く鎧達は動きを封じられ、視力も奪われ、勇者達を逃してしまった様だ。


 って、鎧なのに目があるのかな?


 あれは俺が迎撃用に造ったお人形だから、視力は無いハズなんだけど。まぁいいか。


 勇者君達は来た道を戻り、脇道に逃げ込み一息ついている。


「おいメグ、お前回復魔法使えたよな。頼むよ」


 大盾君は魔法使いちゃんに偉そうに頼むが、


「あのねぇ、回復魔法はあくまでさおり・・・の担当だったんだから、私は初級しか覚えて無いのよ。それに、回復ならショウの方が優先でしょう?」


「んでだよ、誰が前に立って攻撃防いでると思ってんだっ」


「それがあんたの役割でしょうよ!」


「あぁ?てめぇ誰に口きいてると思ってんだ?!」


「何をキレてるのか知らないけど、先にショウを回復するってだけでしょ?順番よ、順番っ」


 大盾君と魔法使いちゃんが言い争っていると、


「二人共っ」


 勇者君が声を上げた。


「んだよ、勇者様。何か文句でもあんのか?」


 大盾君は勇者君にまで悪態を付くが、


「いや……」


 それを気にする様子も無く、勇者君は通路の奥を指さした。


 そこには、勇者君達の所へ静かに近寄って来る女性の姿があった。


「お、おい。まさか……」

「あぁ、きっと魔王の配下だろうね……」

「うそ……」


 回復も済んでいない状況で、ボスクラスと戦闘するのは得策では無い。が、今はそうも言って居られる状況ではない。


「くそ!おい、メグ。俺が支えるから、回復宜しく」


 大盾君はそう言うと、大盾を構えながら二人の前に立って身構えた。


 次の瞬間。


 シュッ!と、鋭く風を切る様な音が響き、何かが大盾君の両肩に食い込んだ。


「がぁっ!」


 大盾君は突然襲ってきた痛みに何とか耐え、辛うじて立っている。


「へぇ……意外と丈夫だね。君」


 マチルダが無表情で大楯君に近付き、肩に刺さった物。マチルダの魔法で作った拘束用ショートランスを左右とも掴み……傷口を広げる様にグリグリと円を描く様に動かす。


「ぐわぁああああ!」


 大盾君は反撃する事もせず、ただされるがままになっている。


 それもその筈、このショートランスには行動を封じる麻痺毒が塗ってある。卑怯?いやいや、普通だよ。


「あぁ、後ろの二人……動いたら彼を殺すよ?」


 勇者君と魔法使いちゃんの動きを抑制し、大盾君をいたぶる事に集中する。


「っ!卑怯だぞ!アキラを離せ!」


 勇者君は動かずに……いや、マチルダの脅しがあるから動けず、その場で声を張り上げた。


「君達は此処に、何をしに来たんだい?魔王を殺しに来たんだろう?それなのに、自分達は殺される事は考えないんだね。それはどうにも、脳内お花畑過ぎやしないか?」


 勇者達がどうやってこの世界に召喚されてるのかは知らないが、どちらにしても危機感が薄いのは否めない。


「……っ!だが、お前達が人々を苦しめているのは事実じゃ無いか!」


 勇者君が誰に吹き込まれたのか知らないが、良く分からない事を言ってるな。


「……少し、何を言ってるのか理解できないけど、とりあえず私達を殺しに来たって事には違いない。といったところか。……じゃあ、仕方ないね。やられる覚悟もあるって事で」


 マチルダはショートランスから手を離すと、何かを放り投げる様に手首を振った。


 次の瞬間、僧侶ちゃんを分断した時と同じ半透明の壁が大盾君と勇者君達との間に現れた。


「またこれか!」


「え、無理だよぅ……」


 勇者君達は、既に諦めムードだ。


「努力もせずに諦めるなら、只そこで黙って見ていればいい」


 そして大盾君の盾を引き剥がし、通路に投げ捨てた。


「くっそ……身体さえ動けば……!」


 大盾君は、本当にそう思っているのかも知れないけど、どう頑張っても無理だと思うよ?


「そうか……。では、私と賭けをしようじゃ無いか」


「……あ?」


「まぁ、そう睨むのはよしてくれ。そうだね、制限時間内に君が私に一撃でも与えられたら、一つ君の願いを叶えてあげよう。例えば、そこの魔法使いの女の子が欲しいとかでも叶えてあげるよ」


「はぁ?お、お前、何言って……」


 大盾君は明らかに動揺している。


「え、ちょっと!何勝手な事言ってるのよ!」


 魔法使いちゃんからしたら、大盾君の負けを願わずには居られない展開だ。勝手に勝負の景品にされてるのだから。


「もし私が勝ったら……そうだね。特に無いから、私がその女の子を貰うとしようか」


 マチルダは目を細めて魔法使いちゃんを見つめる。


 いやぁ、完全にキャラ作ってるよ、これ。どっちかって言うと楽しんでるよね。


 なんだろ、久々にお客さんが来たから。みたいな。


「い、いやよ!頭おかしいんじゃないの!?」


 御尤もな意見だと思うよ。でもまぁ、死ぬよりは良いんじゃないのかな。なんて俺は思うけども。ま、人の事だから別に何でも良いんだけどね。


「で、どうする?やってみる?」


「やってやるよ!」


 挑発的に笑って見せるマチルダに、少し想像して股間が膨らんでいる大盾君が乗って来た。


 さおりが自分の物にならないのなら、せめてメグで我慢してやろう。そんな感情があるのは誰の目にも明らかであろう。


「ははっ、流石男の子。じゃあ、回復してあげるよ」


 マチルダはショートランスを強引に引き抜く。


「痛ってぇ!」


 大盾君は肩の痛みに思わず声を上げた。


「動くなよ……。パーフェクトヒール」


 マチルダは両手を大盾君にかざし、魔法を使用した。


 すると、大盾君の身体が薄緑色のオーラに包まれ、みるみる傷口が回復していく。


「そんな……あんな魔法、さおりだって使えないよ……」

「あぁ、そもそもの規格が違うんだ……」


 勇者君と魔法使いちゃんは、自分達とこの魔王の手下との実力の差をまざまざと見せつけられ、少しずつ後悔をし始めていた。


「うっし!じゃあやるか!」


 そんな事とも露知らず、大盾君は魔法使いちゃんを手に入れる為に頑張る様だ。


「時間は……この砂時計が落ちるまでにしようか。砂が落ち切れば、光る様になっているから分かるはずだ」


 あ、あれ俺が作ったクッキングタイマーだ。


 2分のヤツだな。


「では……始めるぞ」


 マチルダは砂時計を壁際の床に置き、その場から離れた。


「行くぞ!おりゃー!」


 大盾君は斧では無く、何処からか取り出した長剣を装備している。軽さ重視といったところか。威力よりも、命中率重視。


 成程、思っていたほど馬鹿では無いという事か。


 というか、欲望に忠実というか。


 だが、それでもマチルダに掠るはずも無く、長剣は空を切る。


「はぁはぁ、くそ!なんで当たらねーんだ!」


 大盾君は汗を流しながら、それでも諦めずに攻撃を繰り出している。


 いやぁ、その執念は素晴らしいね。もっと他の事に向けたら良いのにね。


「そんなものですか……まぁ、正直ガッカリではあるけど、良く頑張ったのでは?」


 ひらりひらりと蝶が舞う様に、華麗に長剣を避けるマチルダ。


 それも最小限の動きで見切っている。


 そうこうしている内に、砂が落ち切り、眩い光が辺りを照らした。


「あー、くそ!……当たんねぇ!」


 大盾君……今は長剣君は、その長剣を杖の様に地面に刺し、自分の身体を支えている。


「はぁはぁ……あんた、名前なんてんだ?」


 ほう、この期に及んでナンパかい?大盾君。しかもそのセリフは、同じような実力の者が戦って、いつか仲間になるフラグだと思うんだけど、正直、君は要らないよ?


「まぁ、名前位はいいか。マチルダだ。別に覚えてもらう必要も無いがな」


「マチルダ……どっちかって言うと、まちちゃんって感じだけどな」


 あ……。


 マチルダの眉がピクリと動いた。


 しかもその反応を大盾君は目聡く見ていた。


「あ、もしかして、まじでまちちゃんなの?意外とかわい――――ぶふぉぉおお!」


 大盾君は激しく半透明の壁に吹き飛んだ。


「ころす」


 マチルダの目が赤く光っている。


 攻撃が速すぎて霞んで見えるだろうが、あ、今6発パンチ入ってるわ。


 大盾君からすれば訳が分からないだろうが、まぁそう言う事もあるんだよ。


 ほら、良く言うだろ?「口は災いの元」ってさ。知らんけど。


「ぐぶぅ!お゛あ!がはっ!――……」


 あー、それ以上はいけない。


『マチルダ。やり過ぎだ。肉片にするつもりか』


 俺の念話が聞こえたのか、マチルダはピタリと動きを止めた。


 攻撃を止めた事で、大盾君の身体は重力に従い地面に倒れた。


 マチルダは足で大盾君を仰向けにした。俯せだと窒息してしまうから。


 そして、半透明の壁越しに惨状を目撃した勇者君と魔法使いちゃんは、声にならない声を出しながら震えている。


『すまん。少しだけ昔を思い出してしまった』


 いーや!ホントに昔何があったんだよ!つーかこえーわ!


『まぁ、生きているなら良い。その男を連れて戻れ』


『了解』


 最早、誰なのかも判別出来ない程殴られた顔からは、血が噴き出している。


 腕も足も歪に曲がり、普通に考えれば生きているのが不思議な程だ。


 まぁ自業自得なんだけどね。


 マチルダは魔法使いちゃんの方をチラリとみて、


「またね、お嬢さん」


 そう言って、大盾君と共に転移で移動するのだった。



☆☆☆☆☆



「ふぅ――」


 俺は息を吐き出す。あいや、別に何かしてた訳じゃないよ?


 目の前にはボコボコのグチャグチャにされた無残な大盾君とマチルダが居る。


「マチルダ、とりあえずそいつは後で使うからあそこ・・・に入れて置いてくれ。あ、死なない程度に回復させてね」


 流石にここで死なれても困るしな。


「了解」


 マチルダは再び転移で大盾君を連れて行った。


『リルリー、残りは魔法使いだけだな。頼んだぞ』


『分かってるわ、任せてちょうだい』


 そんなやり取りをして、


「さてっと……」


 再び【モニター】へと意識を向ける。




☆☆☆☆☆



 先程の半透明の壁は既に解除され、姿を消している。


 それでも勇者君と魔法使いちゃんは、壁に寄り掛かり動こうとはしなかった。


「ねぇ、ショウ……どうする?」


 魔法使いちゃんとしては、ここまで戦力が低下してしまったのだから、一旦引いて、仲間を補充してから再度来た方が良い。という考えらしい。


 うん、普通なら俺もそれが良いと思うよ?まぁ、帰れればだけど。


「いや、二人を見殺しには出来ない。それに、さおりは……」


「分かってる。ショウの大事な人だって事。でも……もう無理だよ!ショウだって見たでしょ!?あんなのに勝てっこないんだよ!」


「そうかも知れないね……だけど……それでも……」


 魔法使いちゃんが勇者君に近寄り――、


「じゃあ……私のお願い聞いてくれたら……一緒に行ってあげる」


 勇者君の横に寄り添う様に座った。


「メグ……有難う。僕に出来る事なら、何でもするよ」


 勇者君は、魔法使いちゃんの方を向き、嬉しそうに微笑んだ。


 その言葉を聞いた魔法使いちゃんは、勇者君の足の上の跨り、勇者君の頬を両手で包む様に触れ……、


「じゃあさ……私の事……抱いて」


 そう言って勇者君の唇に自分の唇を重ねた。



☆☆☆☆☆



「まじかー。え――……まじかぁ……」


 俺はその光景を、背中がぞわぞわする感覚を我慢しながら見ていた。


「いやいやいやいや、そりゃさ分かるよ?魔王に挑んで、確かに生きて帰れないかもしれないしね?でも、そこまで堂々と寝取れるものなの?……はぁ……何か疲れた。つーか、どうでも良くなって来たわ」


 俺はそう独り言ちて……それでもチラチラと【モニター】に目を向ける。


 勇者君、最初は戸惑っていたけど随分乗り気じゃーないかい?


 いやさぁ、良いんだよ?別に誰が何処で何をしてもさ?


 あー、めっちゃチューしてるやん……。


 つーかさー、人んだぜ?いや、城だけども。


 あー、えっ、下だけ脱ぐの?!……器用なんですねぇ……。


 じゃなくてさ、俺は何を見させられてるの?いや、勝手に見てるんだけどさ。


 駄目だ、それ以上はイケナイ。


 【モニター】を消して、俺は目頭を押さえながら天を仰いだ。


 くそっ!うらやまけしかr……ごほん。



 少しして、サザンスターが僧侶ちゃんを連れて戻って来た。


「あぁ、お帰り。少し落ち着いたかい?」


 魔王城自慢の温泉に浸かって、身体を綺麗にし、服も新しいものに着替えさせた。

 まぁ、杖は持っていても問題無いからそのままにしてある。


「あ、あの……有難う御座います……」


 うん、ちゃんとお礼も言えるんだね。予想通り、この子はまだ染まっていないみたいだ。


「それで……あの……私はこの後、どうなるのでしょうか」


 僧侶ちゃんは、恐る恐るながらそう尋ねて来た。


 そうだよな、攫われた様なもんだもんな。


「そうだね……。君の好きにしたら良いと思うよ?」


「え?」


 俺の言葉が信じられないのも無理はない。けど、別に僧侶ちゃんを監禁するつもりとか無いし。


 僧侶ちゃんはサザンスターが用意した【神秘のローブ】を見に纏っている。


 ローブという名前ではあるが、清楚系の薄っすらとピンクっぽい白いワンピースだ。


 足元はサンダルが良かったんだけど、動きやすさを重視させて黒いショートブーツだ。


 これで袖の短い赤いジャケットがあれば、完全にエアリスだな。ん?エアリスって誰だっけ。


 まぁ、異世界に似合わない格好だけど、可愛いから良いんじゃないかな?


 しかも性能は折り紙付きだ。


「貴方は一体……それに、この服とか靴って……」


 僧侶ちゃんが当然の疑問を投げかけて来た。


「しっ……」


 俺は唇に人差し指をあて、僧侶ちゃんの言葉を遮った。


「今は……まだ教えられない」


 


☆☆☆☆☆



 そんなこんなで、やっと勇者君がここまでたどり着いた。


「お前が……魔王か。仲間を帰してもらおうか」


「仲間……か」


 勇者君よ、お前は何の為にここまで来たんだ?


「勇者よ、仲間を帰したらお前はこの城から出ていくのか?」


 俺の質問に答えたのは、勇者君では無く、魔法使いちゃんだった。


「帰るわよ!だからさっさと二人を帰して!」


 まぁ、魔法使いちゃん的には僧侶ちゃんが居ない方が幸せだもんなぁ。


「二人は……無事なんだろうな」 


 勇者君は……良く分からん。


「そうだな……男の方は生きていはいるが……」


 俺はそう言って、パチンと指を鳴らした。


 スゥ――っと、音も無くマチルダと共に、椅子に縛り付けられた大盾君が転移してきた。


「あ、アキラ!無事だったんだな!」


 勇者君は大盾君が無事だった事を喜んでいる様だけど、魔法使いちゃんは露骨に嫌そうな顔をしている。


 大盾君は勇者君の問いかけには答えない。


「この男の意識は此処には無いが、一応生きては居るぞ……。それで、勇者様にはお引き取り頂けるのかな?」


「さおりは……僧侶の女性はどうした」


「俺の質問は無視か。良い度胸だな……。まぁ、しかし、この場に居ない事で少しは察して・・・みたらどうだ?」


 俺は暗にネガティブなイメージを与えてやった。


「くっ!さおりに少しでも手を出してみろ。絶対に許さない!」


 勇者君は剣を抜き、俺に向けて掲げた。


「まぁ……許されなくても良いのだが……」


 許すってなに?別に勇者君に恨まれる事してないしなぁ。


「勇者よ。お前にとってあの女は大切か」


「当たり前だ!」


「ふむ……。では、その横に居る魔法使いの女と交換なら返してやろう。なあに安心して欲しい。ちゃんと綺麗に・・・してから返してやろう」


 もう綺麗なんだけどな。


「貴様っ!まさか、さおりに手を出したのか!」


「それはお前に想像に任せるさ」


 俺はワザとくっくっくっと笑って見せた。


「ねぇ、ショウ。もうさおりは諦めようよ。だってもう……」


 いいねぇ、魔法使いちゃん。そうだよね。そうしたら勇者君は独り占めだもんね!


「見るからに、お前はあの女よりも、隣の女と親密に見えるのだが……、それでもあの女の方が大事ならば」

「メグも……大事さ。大切な……そう、大切な仲間だ」


 良かったね、魔法使いちゃん。大切な仲間・・だってさ!


「そうか……では、どうするのだ。どちらの女にするか選べたか?」


「そんなの……」


 あ――、これは最悪な選択肢を選びましたね。うん。可愛そうに。


「お前を倒してさおりも取り戻す!」


 そう言って俺に向かって切りかかって来た。


 流石は勇者?なのかは良く分からないけど、それなりの・・・・・速さで突進してきた。


 まぁ確かにそのスピードなら、大抵の敵は倒せたんだろうな。


 しかし……まぁ。


 ガキンッ!


 俺に届く前に、マチルダの風魔法ウインドカッター(初級)が勇者君の剣を跳ね退けた。


 そのまま勇者君は後ろに飛び、俺から距離をとる。


「卑怯なっ!」


 はっはっはっ!マジで湧いてんな。こいつ。


「いきなり飛び掛かって来たお前が言うと、そうだな……面白くはない冗談だな」


 ほんと居るんだよね。自分がやって居る事は正しいから許される。だけど他がやったら非難するヤツってさ。


「はぁ……。面倒だから、二人でさっさと掛かって来ると良い。まぁ、後悔するだろうがな」


「ねぇ、ショウ。もうさおりは諦めて、アキラを連れて帰ろうよ!貴方には私がいるでしょ?」


 魔法使いちゃんは、魔王討伐とか興味無さそうだもんね。


「だ、だが……」


「さおりと私、どっちが大事なの?何もさせてくれなかったさおりと……なんでもしてあげられる私。ねぇ、どっち?」


 あ――、僧侶ちゃん。意外と身持ち固かったんだね。うんうん。


「い、今はそんな事っ!魔王を倒さないと、俺達は元の世界に帰れないんだぞ?!」


「そうだけど……。二人じゃ絶対無理だよ?」


 うん、俺もそう思うよ?まぁ、何人来ても、多分無理だと思うけど。


 つーかさ、そもそもの話。何で俺を倒せると元の世界に帰れる訳?んな訳ないじゃんか。


 とりあえず――、


「勇者よ。僧侶の女はもういいのか?」


「……。あぁ……、魔王に汚されてしまったさおりは……見たくない……」


 汚してねぇーし!つーか触れてもいねぇーし!


「ショウ……」


 魔法使いちゃんがここぞとばかりに、勇者君の手をとり、そして指を絡ませる。


「そうか……。ならば帰り道を用意してやろう。あぁ、その男も連れて帰ると良い」


 俺は勇者君の後ろに、城の外までのゲートを開いてやった。


 楕円形の魔力の輪が現れ、その先には城のと外が見える。


「いや……アキラは……魔王の好きにするといい」


 そう言って、魔法使いちゃんと仲良く手を繋いでゲートを潜って行った。


 勇者君達が外に出たのを確認し、ゲートを閉じる。


「おい、大盾君。もう良いぞ」


 俺は大盾君に掛かっている魔法を解いた。


「んぁあーー!やっと動けるぜっ」


 大盾君は立ち上がり、大きく身体を伸ばした。


「つーか、まじで置いて行きやがったなっ、あの勇者やろう……」


 俺は大盾君に、意識はあるが、身動きが|出来ない麻痺の魔法・・・・・を使っただけだから、しっかりと会話は聞いていたのだ。


「でさぁ、君はどうする?」


 俺は自分の後ろに向かって声を掛けた。


 バサツっという音と共に、僧侶ちゃんが姿を現した。


 姿を消すマントを被って、最初からこの場にいたのだ。


「どうするも……私は彼に捨てられてしまった様ですし……。それに、あんなもの見せられたら……」


 彼女が言う「あんなもの」とは、そう。あれです。


 リルリーに一部始終を録画してもらい、それを僧侶ちゃんに見せた訳です。はい。


 いやー、魔法って素晴らしいね!ね?


「私は、皆で日本に帰れる様に努力してきたつもりですが……。今は、少し時間が欲しいです……と言っても、街に帰る訳にはいきませんし」


 勇者君達と同じ街に帰って鉢合わせしたら、確かに気まずいどこの騒ぎじゃないもんな。


「それなら……暫くは此処に居ると良い。不自由はしないはずだ。元居た世界に帰る事は出来ないが……。まぁ、そもそも、俺を倒したとしても、あいつら・・・・は君達を帰してはくれないと思うが……」


 そう。俺は何のフラグも立てられない。倒した所で、何も起きない。


「お、おいっ!それじゃあ俺達がして来た事ってっ」


 大盾君が何か叫んでる。


「あぁ、無駄骨だったな。というか、まだ居たのか」


「ひでぇ!」


 いやー、だって興味ないもん。


「お前はさっさと城を出て行ってくれないか」


「さらにひでぇ!」


「いやだって、君、女にだらしない気がして不快なんだもん」


「なんだもんて……。お、俺も街に帰る訳にはいかないんだっ!だからここに―――――」


 うん、喚いてるけど、男に興味無いんだよね。


 そんな事より、


『リルリー、そっちはどうだ』


 俺は大盾君を無視して、念話でリルリーを呼び出した。


 リルリーには、こっそりあの勇者君達の愛し合ってる状況を録画させた後、姿を消して監視させている。え?今もだよ、勿論。


『勇者一行は、城から少し歩いた場所にある小屋で一休みしている様ですね』


 ふ~ん?ふと休み……ねぇ。


『え、普通に?』


『そうですね。あ、今魔法使いが勇者の小勇者を口に含んで――――』


 それ以上聞く前に、俺は能面の様な表情で念話を切った。




「だから魔王様・・・!俺を召使にでも何でもしてくれていいんで!頼むよ!此処に居させてくれよ!」


 あ、まだ居たのね。うるさいなぁ。


「私も……暫くお世話に「勿論大歓迎だ」……有難う御座いますっ」


 勿論歓迎ですよ!可愛くて、心が綺麗な女の子は何人いてもっ!頑張って養っちゃうぞ!


「ちょ!扱いが違い過ぎる!なぁ!頼むよ!まじでなんでもするからよ!――――」


 暑苦しなぁ。と言っても、追い出す訳にもいかない……か。



 はぁ……いいなぁ。つーか、俺も彼女欲しいなぁ。






 そんな感じで、俺の城が少しだけ賑やかになったのだが。


 つーか、いい加減、新しい勇者を送り込んでくるのを止めてもらいたい。


 だって俺達、城から出て無いし、人間とか殺してないし。


 なんなら、魔物だって使役していない。


 だからさ……ほんとそろそろいい加減にしないと……殺すよ?



 神様。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る