セラフィvsリーム

「ルーナ様。ルーナ様を信じる同胞の在処にお導きください」


 近くに居るルーナ教信者を探す祈り。


 魔王の居城にはフィーネル以外の信徒が居るはずが無いので、フィーネルの居場所を探る祈りとなる。

 ルーナ神が導いた先は、魔王の間から少し進んだ部屋だった。


 そこは、レンヤの部屋である。


 気配が二つ。フィーネルのものと、色欲の気が強い悪魔の気配――サキュバスか。これは、フィーネルが凄惨な目に遭っている可能性を考慮しなければならない。

 勇者の気配はない。


 だが、セラフィ一人では力不足かもしれない。カグラの到着を待つか。


「いえ。ここで、カグラ様のお手を煩わせるようでしたら、私にはカグラ様に着いていく資格はありませんね」


 セラフィは意を決してドアを開けた。




                     ◇




「んっ、あっ……だめっ、です」


「ふふっ、抵抗したってダメなのですよ。フィーネルちゃんの恥ずかしいところをた~っぷり見せてください」


 ドアを開けると、フィーネルがサキュバスらしき悪魔に犯されていた。


 普通の色のはずなのに、悪魔の領域だからなのか。そう言う幻覚なのか、この空間が全体的にピンク色に見える。

 フィーネルの嬌声すらも甘美で、セラフィの耳に染み渡るようだった。


「あられもない……」


 あられもない。今のフィーネルを表すとすれば、この言葉が一番似つかわしい。


 両手を縄のようなものでベットの縁と結びつけられ、抵抗できないところを半裸のフィーネルはずっと、それなりに長い時間サキュバスに弄ばれてきたのだろう。

 ぬとぬとの液体がかぴかぴになっては塗り足され。女同士とは言え、何度も尊厳を陵辱されてきたのであろうか、フィーネルの目の光は失われかけていた。


「お、お姉ちゃん……?」


 夢うつつのようなフィーネルは、何度も弄ばれ慰労困憊の脳とぼやける視界に見えた自らの姉であるセラフィの姿を見た。

 サキュバスに殺される寸前なのだろうか。フィーネルは、セラフィの姿を幻だと思う。


「フィーネル。今、助けますから」


「はぁ。お姉ちゃんですか。……こんなところまで来るとは大した姉妹愛ですね。混ざりますか? 姉妹丼3P、私のあへあへテクニックで超絶気持ち良いですよ!! 如何ですか?」


「如何ですか? って……」


 セラフィは、頭湧いてんのか? こいつ、と思った。


「私、今スッゴく怒ってるんです。妹をこんなにも辱めて。謝っても、ただじゃ許してあげませんよ?」


「そんなに怒らないでくださいよ。フィーネルちゃん、スッゴく気持ちよさそうにしてましたよ?」


 目の前のサキュバスは人間に近くて、かわいらしい見た目をしている。

 しかし、中身はどこまでも悪魔。聖職者であるセラフィとはどこまでもわかり合えないし、わかり合いたいとも思わない。


 これ以上の会話は無駄だと悟ったセラフィは、ロッドを地面に付けて、自らも膝を地面に付けて両手を合わせ、目を瞑り、ルーナ神への祈りを捧げた


「……問答無用ですか。そうですか。だったら、力尽くで無理矢理あへあへさせるしかないようですね」


 そして、レンヤ様の初めては4Pをプレゼントして差し上げましょう。


 リームは手をわきわきさせながら、立ち上がりセラフィをぐちゃぐちゃに辱める算段を立てていた。


「聖域展開『聖なる領域セイント・フィールド』」


 ピンク色の空間が白く染まった。




                    ◇




 聖域展開に始まり、魔を祓うことで終る。


 聖域展開は、元をたどれば舞神の技ではあるが、ルーナ教の聖騎士や勇者は舞神の神子の悪魔払いの魔王対峙の役目を肩代わりするために発足した団体である。

 故に、伝承され『聖域展開』はルーナ教の悪魔払いなら誰でも使える技となっている。


 聖域展開は、全ての基礎なのだ。


 悪魔を倒す際も、祈りを捧げる際もまず最初に聖域展開をして。そこから始める。


 むしろ、聖域を滅多に展開せずに素手殴り祈るカグラの方が異常なのである。

 最も、カグラは聖域を展開せずとも悪魔に遅れを取らないというそれだけの話ではあるのだが。


 セラフィに展開された、ルーナ神の聖域によってリームは全身がクラゲの毒に蝕まれているかのようなしびれを感じた。


「なるほど。――やっぱり、魔王様の居城に乗り込んでくるだけ遭って強いですね」


 はっきり言って、リームには勝ち目が無い。


 リームもかなり上位のサキュバスではあるが、しかし、それでも教会で最強の祈りを使えるセラフィの聖域の中に居るだけで既に祓われて仕舞いそうな勢いだった。


 でも、セラフィとて女だ。人間だ。


 媚薬の効果があるぬとぬとに触れれば、たちまち発情して逆転の目があるかもしれない。そして、セラフィはどっからどう見ても祈り手。

 祈り手は剣の扱いには長けていない。


 だから、勝ち目はゼロじゃ無い。


 リームはぬとぬとの液体を纏った身体でセラフィに飛びかかる。

 セラフィはロッドでリームを押し返そうとするが、リームは悪魔。力負けして、押し切られる。


「おっと、足下のぬとぬとにも注意してくださいよ」


「え? きゃ、きゃぁっ!!」


 ぬとっと、いつの間にか床にこぼされていたぬとぬとの液体に足を取られ、セラフィは転んでしまう。

 リームは、セラフィにそのまま抱きついた。


「媚薬の効果がある私の体液。どうですか? 発情してきましたか?」


「そんなこと、あるわけ……ないでしょっ!!!」


 ぬとぬとの液体に、身体が痺れるような感覚がする。

 如何に聖女と言えど、直接肉弾戦が出来る前衛が居ない今、格下とは言え悪魔と戦うのは辛いものがあった。


 でも、この程度で負けていたら。本当にカグラの足手まといになってしまう。


 セラフィは、身体中に襲いかかるかゆみのような気色の悪い快感を唇を噛みしめて無視しながら、目を瞑り、神に祈りを捧げる。

 体液が身体にしみこんでくる。それに耐えながら、セラフィは神の返事を待っていた。


「目の前の、卑しき悪魔に神の鉄槌を――『神の雷セイント・サンダー』」


 雷が落ちた。

 いや、違う。稲妻のように、聖なる気がセラフィの元へ――セラフィを全力で抱きしめ、ぬとぬとの体液を押しつけてくるリームに落ちたのだ。


「うぎゃぁぁぁああああ!!!!! 死にたくない!! 処女のまま、死にたくないです!! 魔王様!! レンヤ様ァァァアアア!!!!!」


 リームは雷に打たれ、ぷすぷすと焦げて炭のようになり、やがて灰になる。


 リームは決して強い悪魔では無かった。

 ただひたすらに、レンヤを楽しませるためだけに魔王に作られた愛玩用のサキュバスだった。

 だから、こんなにもあっさりと死んでしまった。


 消えてしまった。


「お姉ちゃん……?」


「んっ……少し、液を浴びすぎてしまいましたね。……フィーネル、助けに参りましたよ」


「お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!!」


 フィーネルの中で渦巻いていた恥ずかしさとか悔しさとか無力感とか。そう言った感情が消し飛んで、安心して。

 助けられたことが嬉しくって、セラフィに抱きつこうとするけど両手をベッドに縛り付けられているからもぞもぞと藻掻いてしまう。


「待ってください、今ほどきますから」


 そう言って、セラフィはフィーネルの手を縛る縄をほどいた。


 ぬとぬとで少し手こずったけど、解けた。


「お姉ちゃん!!!! 」


 フィーネルはセラフィに抱きつく。


「フィーネル。助けるのが遅くなってごめんなさい」


「そんなこと、ない。ありがとう。お姉ちゃん、本当にありがとう」


 セラフィもそれに応えるようにフィーネルを強く抱きしめると、フィーネルは安心したのか泣いた。

 泣いて、セラフィにお礼を言った。





                    ◇




 舞神大社を勇者が襲っている。


 魔王に取り込まれて仕舞った親父が俺に伝えた。だから、早く帰らねばならない。戻って舞神大社を護らねばならない。


「セラフィ!! セラフィ!!!」


 どこだ。フィーネルは既に助けられたのか?


 俺は魔王の居城を駆け回り、セラフィの気配を探った。

 そして、三分ほど走ってセラフィの気配を見つける。


 この部屋か。


「セラフィ!!!」


 ドアを開けると、ぬとぬとの液まみれになって聖女服がぴっちりと張り付いているセラフィと、明らかに半裸、もしくは全裸の様子のフィーネルが抱き合っていた。


「あ、いや。ごめん……」


 俺は、反射的にドアを閉めた。


 とんでもないところに、出会してしまった……

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