とりあえず、嫁候補ってことで
「おはようございます。ぐっすり眠れましたか?」
真っ白な襦袢に身を包む、ブロンドの長髪を降ろした巨乳の美女の透き通る美声で起こされた。
その泣き黒子と、聞き覚えのある声は……
「セラフィか。その襦袢は母さんの?」
「ジュバン? あぁ、この着物のことですね! 着慣れない服でしたけど、ゆったりしていて中々乙なものですね。帯を緩めれば胸も苦しくないのが良いです」
「そ、そうなんだ」
確かに言われてみれば、少し胸元がはだけている。
昨日はいつものルーナ教の聖女服だったけど、襦袢が下着姿だからか、やはり舞神の祈祷師としての本能なのか、こっちの着物の方があの格好よりもグッとくる。
「それと、レリアとティールもそろそろ起きてください」
「ん、まだ朝じゃないか」
「んむぅ、あと10分だけ……」
俺の布団の中からもぞもぞと、翡翠色の髪のレリアは滅多に来ない来客用に一応ある浴衣のようなものを着ていて、はだけた浴衣からちらちらと小ぶりな胸が見えそうで。
ティールは昔俺が着ていた(それでもぶかぶかの)寝間着を着ていた。
「な、なんでみんな俺の寝室に居るの!?」
部屋、他にもあったでしょ!? ……って言うかあれ? 俺、いつの間に布団敷いて寝室で寝たんだ?
「うふふ。カグラ様、昨日は本当にお疲れだった様子で。あのまま寝ちゃったので、こっちまで運んで差し上げました」
「運んだのはあたしだけどね。って言うか、本当は昨晩カグラくんと交尾するつもりだったのに、舐めても弄っても全然起きないからね~」
「舐め? 弄っ!?」
な、何されたの? 俺、まだ汚れてないよな?
流石に、初体験の記憶がないのは嫌すぎるんだけど。
「本当ですっ。カグラさんの子種、もらい損ねましたっ」
「こだ……」
き、昨日からティール大人しそうな顔して一々爆弾投下してくるんだけど!?
いや、貰い損ねたって言ってるし、一応未遂ってことだよな?
「で、昨晩出来なかったけど。カグラくん、今からしない?」
「わ、私が先ですっ」
「いやぁ、流石にティールちゃん相手でも一番は譲れないなぁ」
いや、しないけど!? 朝っぱらから何言ってんの、この娘たち。
そう言おうとしたタイミングで、セラフィが少し怒ったように
「二人とも、朝っぱらから破廉恥です!!」
きゅ、救世主!?
「……それと、一番は。私じゃなきゃ嫌です」
違った。
赤い顔で唇を尖らせるセラフィは襦袢姿で。しかも正座をしていると言うことで、結構ぐっと来るものがある。
でも、朝だし。セラフィ聖女だし。
グッとくるからって襲っちゃったら、絶対結婚しないといけなくなるだろう。
責任取れませんとか言った日には、教皇様にぶち殺される自信がある。
でも流石に結婚とかそんな覚悟ないし。セラフィと一生を添い遂げたいと思うほど愛してないし。朝だし。
「お? いくらセラフィ相手でも一番は譲らないけど?」
「で、でもっ。それはカグラさんが決めることだと思いますっ!」
ジロリと睨みを聞かせるレリアと、目で口以上に訴えかけてくるティール。
って言うか、ティールの一言のせいでまた……
「カグラくん。一番は、私が良いよね?」
「わ、私ですよね?」
セラフィは、キュッと俺の袖を掴んで言外に訴えかけてくる。
「い、いや……その」
レリアもティールもセラフィも、スゴく魅力的だと思うし。
確かに、嫁さん貰っていちゃいちゃして生きていきたいって願ったけども。
三人は、多すぎる!! 多すぎるのだ。
これが一人なら「まぁ、こんな山奥に住んでいて出会いとかもないし。慕ってくれてるなら結婚もやぶさかではないなぁ」とか良いながら、流された自信はある。
でも、三人だと誰かを選んだら選ばなかった二人とギスギスしそうで怖いのだ。
冷や汗がだらだらと流れてくる。
優柔不断な自分が情けない。
でも、レリアもティールもセラフィも――凄く強いし、怖いし。それに何だかんだ俺のことを慕ってくれた人たちだから、ギスギスしたくないのだ。
傷つける覚悟も、傷つけられる覚悟も持ち合わせていないのだ。
例え、それが問題の先延ばしにしかならないと解っていても。
「と、とりあえず。保留って、ことじゃダメでしょうか? ……俺、一応神職だし。そう言うのは結婚しないと、ダメかなって思うんだけど」
「? ルーナ教は別に、一夫多妻を禁じては居ませんよ?」
「いや、それに関しては舞神の方もそうだけどっ!」
「カグラ様は、私たちと結婚するのはお嫌ですか?」
「いや、別にそういうわけじゃ、ないけど……」
セラフィもレリアもティールも、勇者パーティに所属していた一年弱の期間でそれなりに人となりは知れたと思うし。信頼も出来るとは思うけど。
「でもやっぱり、結婚って。するなら絶対死ぬまで一緒に居るってことだし。そんなひょいひょいしても良いものじゃないと、思うんだ」
「つまり、あたしたちはカグラくんのお嫁さん候補として。カグラくんが結婚したいって思えるようなアピールをすれば良いってこと?」
「だ、だったら。が、頑張りますっ!!」
「わ、私だって。負けるつもりはありません」
レリアの一言で、ティールもセラフィもやる気を見せる。
勇者パーティに居た頃、こんなにも自分が想って貰えただなんて知らなかったけど――想像だにしなかったけど。
こうも直接的に、積極的に言われると照れくさい以上に嬉しいしありがたい気持ちでいっぱいになる。
だからこそ。俺なんかをこんなに想ってくれる人たちに応えられないのが申し訳ないと思う。
でも、
「俺がまだ結婚とか想像できないってのもあるけど……。三人とも俺の家業とかがなんなのかとか知らないでしょ? だから、そこ含めてもまだ俺と結婚したいって思えるかってのも吟味して欲しいとも思う」
「……そうですね。確かに、私たち三人でもまだカグラ様には釣り合ってると言えませんし。困らせてしまって申し訳ありません」
「そうだね。あたしもちょっと焦りすぎたかも」
「わ、私もっ。ちょっと前のめりになってました」
「いや、本当に昨日初めてやっただけだけど、祈祷師って本当に激務っぽいし負担もスゴく掛かっちゃうと思うから」
って言うか。釣り合ってないって言ったら誰か一人でも(俺の方が足りてないって意味で)釣り合ってないと思うし、セラフィたちは三人で嫁いでくる気満々だけど、俺にはそんな甲斐性も器の大きさもないから困ってるんだけど!
なのに、セラフィもレリアもティールも。どんな苦難だろうがどんとこいと言わんばかりに乗り気だった。
うぅ。もう、なんでこの娘たち、こんなに押せ押せなの!?
どうしたものやらと困っていると八咫烏が『ガァァァ』と耳をつんざくような鳴き声を上げた。
『レミバーンにロードクラスの悪魔出現!! 至急向かうベシ!! レミバーンにロードクラスの悪魔出現!! 至急向かうベシ!!』
「あぁ、もううるさっ!! 解った。支度して、すぐに向かうから一回鳴きやんで!」
八咫烏に助けられたような、ちょっと遅かったような。
レミバーンってまた、結構遠いし。どうせならあと五分くらい早く助けて欲しかった気分はあるけど。
俺は起き上がり、急いでレミバーンに向かう支度をする。
「あ、ま、待ってください!! 朝ご飯の用意をしますから!!」
ドタドタと朝食の支度をするセラフィを見ながら、俺はもっと器のでかい男になりたいと思った。
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