第24話

 部屋に入ると、ミクリ所長とダイゴ社長が喧嘩をしていた。なんで喧嘩をしているのかがよく分からないので二人の話をまずはしっかり聞こうと思う。でも、ふたりともこんなに荒れる人たちなんだな。黒メンズの一人が耳元で教えてくれる。


「それだけ真剣ってことですよ、ヒカリお嬢様」

「いつからあなたの主人になったの、黒メンズ」

 ミクリ所長がダイゴ社長に向かって怒り始める。

「お前、ヒカリちゃんの自由を奪う気か!」

「違う、彼女の自由はお金だ。それがあれば彼女はこんな商売しなくて済むじゃないか!」

「こんな商売だと? セックスワークをそういう風に捉えている人がいるから、セクシュアリティ発電が社会に認められないんだぞ」

「セックスワークなんて断じてやめたほうがいいんだがね、僕は。ミクリだって『セックスワークじゃないと生きていけない』奴に対しての想像力が働いているのか」

「当たり前だ。だから警察官や公務員、普通の会社員と同じようにみられなければいけない。シロナが死んだのだって、そりゃ、要らん偏見とか差別をすっごく受けてきたからだ。そこを変えないと、本当にどうしようもないんだぞ」

「そんなの嘘だ、もうセックス発電なんて個々人でやればいいじゃないか。富んだものが、貧しい奴をセックスワークで働かせる。これじゃあ、セックスワークはなくならない。セックスワークしか行き場がないじゃないか」

「お前、セックスワークをなんだと思ってんだ!」


 シロナさんっていうのが、ミクリ所長のスキだった人の名前。亡くした人の名前なのか。ダイゴさんもシロナさんのことを真剣に考えているのが伝わる。


「ヒカリちゃんの処遇についてはまた後で相談しよう。とりあえずとうぶんの籍はウチにあるのだから、お前もそんな『庇護』とか言って急に襲うなよ」

「同意の上でやらせていただく。だが、セックスワークはあってはならない」

「お前の言っていることは間違っている。セックスワークは認められなければならない」

「お前はお前の道を貫くんだろ」

「ああ、だからこそ今日ここに来た」

「絶対に」

「絶対に」

「もう二度と」

「もう二度と」

「「ここで女の子を、泣かせてたまるもんですか」」


 黒メンズの予測は外れ、特に私がその場にいる必要はなかった。


「ヒカリちゃん、庇護って言葉は悪かった。謝る」


 ダイゴさんが部屋から逃げようとする私に話しかける。


「大丈夫です。ダイゴさん、意外と真面目なんですね」

「天才起業家だからな」

「セックスワークは合ってはならない、だから全部の人類を適切にマッチングできるようにする。一見理想論に見えますが、かなり可能性が高く、すぐにセックスワークを滅ぼせると思います」

「だろう。しっかり別れられたり、男女の貧富を解消して平等になったりとか、そういうところが整えば、だれも、セックスワークで傷つかない未来が待っている」

「でも現実はこの発電所がないと、世間は回っていきません」

「そうだ。だから、君には発電所で味わえる性的快楽をしっかり平面に残してほしんだ」

「それは、はい」

「あと、その成就のために、君が協力してほしい。審美眼はないが、君の絵は本当にすばらしい。欲情するからとかじゃなくて、本当に性的興奮をそのまましっかりと再現されている。見ている側をすごく乗り気にさせる、魔法の力があるのかもしれない」


 ダイゴさんは両手を肩に載せて、私を励ます。


「お前の絵、本当に好きだから」


 ダイゴ社長は私をぎゅっと抱きしめた。ワタル君がいるのに。情欲でもない、やっぱり私も彼の庇護に入りたいのかもしれない。だから、ダイゴ社長の体を跳ね返すことは、私には全くできなかった。金をもらうためのことだ。どうしよう。将来の安定、倫理的にはいけない浮気だけど、果たしてどうすればいいのか。


 分からない。


 でも、いけないことだけど、もしダイゴ社長に浮気したとして、安定した将来への職業も、学費も、全部払ってくれるとは言うけれど、セックスをしてってお願いされたらどうなるのだろう。


 きっと、出来ない気がする。

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