第23話

 青空の下で私は目をこすりながらどんどん歩く。ゲストハウスのベッドの質は本当に最高級だったけど、何しろ寝る時間が少ないので、眠いったらありゃしない。


庇護に入れ、結婚しろ、か。私はとりあえずその場でお断りしようと思った。でも、今までさんざん苦労してきた学費問題を一気に解決できそうな存在が現れたのだ。しかも、書いたことがないけど漫画などの絵の仕事もくれるって将来安泰って感じだ。普通、この依頼は美術家としては受けなければいけない、と思った。


 もしかして、今まで美園先輩……ソノコさんもこのように誘ったのではないのだろうか。庇護とか言葉は強いけど。でも嫌になったら彼女のように逃げればいい。


 美大までの通学路。いつもはハルカと一緒に登校しているのに、今日は一人だ。寿家のゲストハウスから出てきているっていうのもあるけど、やっぱり昨日の授業で雰囲気悪くなってしまったなぁ。五人ほど先にハルカがいる。どうしよう、話しかけようかな。


 実力不足なのははっきり言って自分が悪い。自分の環境とか流れとかを言い訳にして、軽い努力しかしてこなかったのは事実だ。だから、これからもっと美術に打ち込まなければいけない。セクシュアリティ発電はあくまでも副業なのだし、恋もはっきり言って、+になるようなことだけを意識しなければならない。ハルカとも、もっと情報交換して強くならなければいけない。


 なので、ハルカに駆け寄る。


「おはよう、ハルカ」


「おはよう、ヒカリ。あんた、寿ダイゴ邸につれさられたらしいけど、どうした?」


 事前にLINEで連絡しておいた。だから今日は別々に登校しているのである。


「そうなのさ。なんかパトロンっていうか、漫画家にさせてやるって急に言ってきて」


「なにそれ」


 ハルカの顔が急に暗くなり、しゅんとしぼんだような表情をする。


「私、ヒカリが真剣に美術に打ち込んでいるんだと信じていた。今回はちょっと調子が悪いだけって、お金関係で忙しいからって、そういうことだけだと思っていた」

「え」

「あんた、いつからそんな、不真面目な性格になったわけ」


 ガンと頭を打たされた気分になる。不真面目。パトロン自体は何も悪くない。彼女が言いたいのはきっと、私がいろいろなうつつを抜かしているとか、余計な事ばかり考えていること。少なくとも彼女は、私よりずっと真剣に美術に向き合ってきた。私にもそれを期待した、裏切られたと思っているのだ。


 イロコイとかエロとか気にせずに、もっとお金を稼いだり、自分の美術を高めないといけないのに。昨日の自分は完全に夢のようなスケジュールに酔っていた。セックスとかよりも、もっと気にすべき問題があったんじゃないかと思う。


 授業が終わり、とぼとぼと発電所に向かう。二階にあがると、なんか激しい喧嘩の声が聞こえてくる。あ、あそこにヨシ君。何度かルームで一緒になった。ヨシ君もなんかこの喧嘩を聞いているようだ。


「ヨシ君。これ、どうしたの」

「寿ダイゴがなんか急に乗り込んできて」

「え」

「あ、双葉さんがどうかとか、そんなこと言ってたけど」


 罵声が聞こえる部屋のドアから、黒メンズたちが出てきて、私に詰め寄る。革靴が大きくて私を威圧してくるかのようだ。


「ヒカリさん、ちょっと来てください」

「え? なんで? え?」


 私は首根っこを掴まれて、ダイゴ社長が喧嘩を吹っ掛けているところに強制的に連行されてしまった。

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