第10話

 次の日。学科の授業で、私を東京電力のバイトに誘ったハルカに、殺意の眼差しを向けて話しかけた。やっぱりこのバイトはどこかおかしい。セクシュアリティ発電ったら冗談じゃない。でも、当の本人は普通におはようとか普通の挨拶をぶちかましてくる。


「おはようじゃなくてさ、なんなのハルカ、セクシュアリティ発電って」


「セクシュアリティ発電? なんでそんな真言宗立川流みたいなところ、双葉に教えなきゃいけないのよ」


「え」


 真言宗立川流とは雑に言うと、真言宗の中でも異端とされた、セックスで悟りを得ようとしたカルト密教集団の事だ。確かに言われてみれば、そうかもしれないけど。

 というか、志望理由を言ったら、一発アウトだったような。


「じゃあ、どこに私を勧めようとしていたのよ」


「隣のビルの、特別清掃の業者」


「そっちも嫌だわ………」


 でも、特別清掃の事情も変わってきて、今はお掃除機械だけ運送して、後はスイッチを押すだけでもお高めの給料がもらえるらしい。むしろありかも………


「セックス発電ってあんまり外で言ったら、引かれるから、気を付けて」


 セックス発電っていうのか。まじで失礼だな。世間を支えているインフラのはずなのに、車掌さんや警察官よりも、圧倒的に秘密にすべき職業なのかもしれない。ギャンブル狂いの父が、私がそっち系の仕事をしているなんて知ったらどうなるんだろう。


 あれだけ潔癖な父のことだ、きっと娘の残念な姿に、自分が娘をそんな仕事をさせなければならないぐらい状況に追い込んでしまったことを、永遠に責め続けるかもしれない。めっちゃ面倒臭いし、親戚には嫌われてしまう可能性しかない。


「うん………そうだね」


 言葉を濁すことしかできなかった。


 真言宗立川流にドン引きする一般人のような気持ちだった。正直まだ、セクシュアリティ発電、セックス発電を受けいれられていない、ってのが自分の本心だろう。

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