第6話

 他人のセックスを見るために、さきほど私が走ってきたガラス張りの廊下へ3人で向かう。あの時は色々な感情がこみあげてきて、周りが見えていなかった。ふと我に返ってこの廊下を見てみると、やはりガラス張り越しで他人のセックスを見ているという光景はやはり変だった。カメラや絵画という媒体を通さずに、しかもお互い見られることを承知で、性行為を眺めている。


 裸体を見るということ自体は慣れている。ヌードデッサンのお陰で。ただし、その時は頭の中で「これは芸術だ」というスイッチが入っている前提の話だ。肉体をどれだけ美しく、かつ正確に写すことが出来るのか。それに必死すぎて、性的に興奮するとか、そんな余裕はちっとも湧かない。性的興奮を覚えたほうが、きっと男性らしく、または女性らしい良い絵画をかけるのではないのだろうかと思うこともある。


 ガラスの向こう側の世界では、見知らぬ二人が堂々とセックスをしていた。高級ホテルのような内装のルーム。白いシーツの上に未使用のコンドームがたくさん散らばっている。男はそのうちの一つを拾って、男性器に装着する。そして男が女に対して襲うように飛びつき、真剣な顔をして女性器に挿入する。よく言えばプロとして職業に徹した職人顔で、悪く言うと、セックスの楽しみに飽き飽きしているような表情だった。


 二人とも、セックスを見られていることに慣れている。きわめてプライベートな行為なのにも関わらず。性的興奮とか覚えているのかな。一方の私は、オナニーを覚えなきゃいけないのに、セックスを描きたい、映したい、作りたい、という感情の方が、性的興奮より強くなっていた。


「うちの発電所はカラオケルームのような構造になっているから、発電をサボろうとする連中がいる。だからこうしてガラス張りにして、こちら側からちゃんと発電をしているかチェックする必要があるんだ」


 ワタル君は檻の中にいる動物のガイドをするように目の前の光景を説明する。こちらもやはり慣れたように口から説明が吐き出されてくる。


「発電っていうんですね、ここでは」


「セックスっていうのに僕らは全く抵抗を持たないけど、なんか卑しい感じでしょ、ストレートに言うと」


 今更何を仰っているんでしょうか。美園先輩が会話に参戦する。


「こうしていると、性行為とかに関して目が慣れてくるでしょ。人類当たり前にするものなんだみたいな」


「さすが職業人みたいな感じですね」


「うん、仕事だからね。風俗とかソープとか昔はあったけど。今じゃ両方仕事モードだから、感情とかあまりない。報酬のためなら人間なんだってやれるさ」


「でも、好きじゃない人の裸にどうやって興奮するっていうんですか?」


「うーん……」

「うーん……」


 初心者の気持ちなんてもう忘れちゃったと、ワタル君が呟き、美園先輩は同意した。

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