十話 深淵より這い出よ、泥濘の騎士(前)
はぁっ、と強く肺を
隠しきれない獣の臭いと、パラパラと
短槍の刃を打ち付ければ、犬鬼が突き出した爪が削れて、炭化していく。ガリガリと削れては、少しずつ熱が
最後は
後には一、二、三……ああ!どうしてこんな
八体──ケインが今倒したのを
「シエラ、早く【入眠】を
「ええ、ちょうどそう言われると思って、もう準備できてるわよ。【入眠】」
薬粉は一塊となって床に投げつけられ、地を
最初から使っておけよ、とケインは一瞬思いかけた。だが、
そう考えつつ目の前にいた犬鬼に対して刺突を放つと、雑念のせいか、急所は外れて肩に刺さる。やはり、戦闘中に気を抜くような考え事は
抜こうとしても引っかかっているので、ケインは槍を
左、右と
大きく口を開く
悲鳴を上げて倒れ込んだ犬鬼の首を
胸に足を置き、犬鬼の肩に刺さった短槍を思い切り引き抜く。そのまま
その間、エイベルは二体の犬鬼を危なげなく
犬鬼の
二匹ほどは余りの
【火弾】
しかし起き上がる事を許してやる理由もなく、無慈悲にシエラは火を放つ。
ケインはエイベルに
もう他に
戦闘が終わったと分かるやいなや、ドナは金貨を拾い集め、他の皆は傷の点検を始め出す。
【軽癒】
この探索で何度目かの光を
「アンネ、いつもありがとうな」
ケインがお礼を言えば、アンネは
「いいえ、これが医術師としての役目ですから!」
そうしてわき腹の痛みも失せた所で、ドナ達も金貨を拾い終わったようだ。
布袋に収められていった金貨は二十九枚。珍しい事に、犬鬼は金貨を落とすだけでなく、幾つかの布袋や
所々に飛び散った
宝箱へと
全ての袋の
……ああ、必要なものを
鎧の一つや銀貨数枚などなら、まだ死が
ケインの口から、言葉がポロリと
「いつになったら
袋という袋をぶちまけて、
水薬──それもケイン達の持っている
他のものは、
恐らく、金持ちの子女だったのかもしれない。資金を注ぎ込んで装備を整え、迷宮に来て何体かの怪物を狩ったはずだ。
それで、汚泥か何かに殺されたのだろう。徘徊していた犬鬼達や、他の怪物に遺品を
元あった水薬三本を後衛に一人ずつ、そして今手に入ったものをケインとクリスが手に取った。
……これは俺達が上手く使ってやるさ。だから
カリカリと自分の善性が削れていくような後ろめたさから目を
少なくとも彼ら、あるいは彼女らの願いも、迷宮の先にあったのだろうから。その意志を少しでも受け
……更に先へ。下へと潜る階段を探せ。それはきっと、この通路を
……
血
犬鬼にはまだ、完全に実力が上回っている訳ではないのだが、そろそろ下の階層に降りても良い頃なのだろう。
金貨を広い、そしていつものように宝箱に
それからまた、いつものように。ドナの持つ小さな刃が、罠を少しずつ
「あっ……」
ドナは手先に
なのに構造は全く違っていて、刃の先が触れてはいけない場所に触れてしまっていた。
ドナが
「い、たい……」
ドナは
このまま放っておけば死ぬ可能性だってあるだろう。
これはまずいと、アンネは
「
そう言ったアンネは、少しでも早くドナを苦痛から救おうと、すぐさま【軽癒】の
「……少しの
エイベルが
「ドナは確かに変わった奴だが、それでもここで死んでいいはずはない」
その言葉が届いたのか、ドナの体に入った力は少しだけ弱まっていく。
そして、そのちょうど良い瞬間に、アンネも呪術の準備を終えていた。
「今です!」
ぐい、と力を込めて
「アアア゛ッ!!」
悲鳴をかき消すように行われる、呪術の宣言。
【軽癒】
光が傷口を
それでも勢いが
エイベルはドナの
「こうやってると、死にかけの妹に薬をやったのを思い出すんだ。お前は死んでくれるなよ」
ドナは黒い瞳の中に、エイベルの
それからしばらく休息を取って、水薬がドナの血を補うのを待った。引くにしろ、進むにしろ、ドナがまともに動けなければどうしようも無い。
ドナが回復したのを
「ドナ、お前が本調子じゃないなら、迷宮は進んでいけない。だから今日は帰還しようと思うんだ」
ドナは何かを言おうとして、その
「そうですね、体力はもう問題ないですが。呪術の回数も考えないといけませんし、ちょうど良いんでしょう」
ドナは、
それから宝箱の中身も取り出し、何事にも問題ない事を確かめる。
欠落している荷物も無い。もう傷を負っている者も居ない。それじゃあ行くか、とケインを先頭に歩いていく。
行きはドナが先頭で
そういう訳で、ドナはシエラの横でお留守番だ。なに、後方
──
少なくとも、今の強さなら一層では即死しないだろう。強化された戦士の肉体はそれほどヤワではない。
実際、エイベルが感知板に足を置いて、
冷や汗は出たが、罠を乗り越えられたという事実は、一党に勇気を与えた。
戦闘においても、確かに先手を取れないのは痛くはある。だが何事もなく小鬼共を
ドナは自分が仕事をしない分、危険が増えると怒っていた。でも、帰還するだけならこのままでも間に合う。
ケインは、
その通り、少し前に汚泥を殺したあの場所まで残り
──少なくとも、そこまでは。
……
『汚泥』
探索者の
汚泥は探索者を倒すことで数を増やし、その生命の維持を迷宮に
汚泥の目的は──【規制済み】
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