第二章 消えない痛み
「マユキ。ライトワークスについて」
『了解』
柊と陸、勇輝は、アスピレイションの社長室にいた。
咲は、またも応接室でお茶とお菓子と秘書との会話を楽しんでいた。
幹の指示で、マユキが宙にいくつかのディスプレイを表示する。
『ライトワークスとは新藤真雪が、二度と“悪夢の日”のようなことが起こらないようにするために立ち上げた団体。活動内容は、第二の如月大地をこの世に出さないために、精神異常者の治療を政府に求めるものだった』
宙には新藤真雪の画像が映し出されている。
柊はその画像を見ることができず、うつむいて青ざめていた。
「マユキ。新藤真雪の画像を表示するな」
幹はため息混じりに言った。
『了解』
新藤真雪の画像が消える。
「すいません。柊。調整が行き届いてなくて…。大丈夫ですか?」
幹は心配そうに柊を見る。
「柊…」
陸が背中をさする。
「大丈夫だ。続けてくれ」
柊は深く深呼吸して、そう言った。
「少し、休憩しませんか?」
心配そうに幹が言う。
「いいから…続けて」
「柊さん、無理しない方が…」
勇輝も思わず、そう言う。
それほど、柊の顔色は悪かった。
「ありがとう。でも、少しでも急がないと。SCARが悪用されたら取り返しがつかない。そうだろ?」
「しかし…」
幹は困ったように陸を見る。
柊を説得してくれ…そう言っているように見えた。
しかし…陸の意見は違った。
「ここは柊…いや、社長の要望通りに」
「陸…」
幹は戸惑うように陸を見る。
「大丈夫だから」
少し優しい眼差しで陸は言った。
「わかった」
なぜ、大丈夫なのか…理由もわからずにいたが、幹は陸の言葉に従った。
それだけの信頼関係が二人にはあった。
柊の両親が亡くなって五年もの間、陸と幹は互いに協力して柊を支えてきた。
その積み重ねが、二人の信頼関係を強くしていた。
「では、マユキ。続きを」
『了解』
次に宙に表示されたのは、三人の男女の画像だった。
『ライトワークスは現在、この三人の代表により運営されています。まず、女性評論家の
四十代ぐらいの女性の画像が拡大表示される。
眼鏡をかけて清潔感のある女性だが、どこか毅然とした印象を受ける。
『次に記者の
三十代くらいの、意志の強そうな顔をした男性の画像が拡大表示される。
肌は焼けた小麦色で、活動的な印象を受ける。
『最後は大学の教授の
六十歳前後に見える、白髪交じりの痩せた老人の画像が拡大表示される。
白衣に眼鏡をかけているが、レンズ越しの眼差しと年輪のように刻まれたシワから、哀愁のようなものを感じる。
『この三人の代表達により、現在のライトワークスは運営されています。しかし、その活動内容は少し変わってきているようです』
「マユキ。何が変わったか、もっと詳しく」
『はい。現在では国会議事堂前での射殺事件”惨禍の日”の真相を水面下で調べているようです』
「やっぱり、そうか…」
幹はため息をつく。
「その事件が、今回のSCAR事件にも関係してるんでしょうか?」
勇輝が言った。
「かもしれなけど…」
言いながら陸は、全くしゃべらない柊を心配そうに見た。
相変わらず顔色が悪い。
「ここまでにしよう」
そう言いながら陸は幹を見た。
幹は頷く。
「マユキ。もういい。待機していてくれ」
『了解』
マユキの返事と同時に宙に、映し出されていたディスプレイは消えた。
「柊を少し休ませよう」
「そうだな」
陸と幹は顔を見合わせて、ため息をついた。
コンコン!
ドアをノックする音が聞こえた。
会議室でお茶とお菓子と楽しんでいた咲と女性秘書は、ドアの方を見た。
ドアがゆっくり開くと、そこに立っていたのは陸だった。
「どうしたの?陸」
咲は思わず、そう言うと立ち上がった。
なぜなら、そこに立っていた陸は、いつもより元気がないように見えた。
「咲。ちょっと、来て」
「え…うん」
咲は歯切れの悪い返事をすると、陸について秘書室を出ていく。
陸の表情から微かに不安を感じる。
何が起こったのか聞きたくても、言葉にするのが恐かった。
陸の後を着いていくと、陸は社長室の前で立ち止まった。
そして、ゆっくりドアを開ける。
社長室に入ると、一面ガラス張りの窓の前に置いてあるソファーに、柊が横になって眠っていた。
「どうしたの?柊は」
「色々あってね」
陸はため息をつく。
「僕の口からは話せない。ただ、柊のもっとも触れてほしくない過去と、今回のSCARの事件が繋がってるってことがわかってきたんだ」
「そう…」
咲は眠る柊を見ながら答えた。
「でも、どうして、あたしを連れてきたの?」
「柊は咲といると安らげるようなんだ。だから、柊についててくれないか?」
陸は咲を真っすぐに見て言った。
「陸…」
「柊は過去のそのことが原因で心に深い傷を負っている。事件を解決するために、これから過去のその出来事と向き合うことになると思う。もっとも辛い過去とね…」
陸は言いながら柊を見る。
「だから、柊の傍についててほしい。頼む。咲。僕じゃだめなんだ…」
陸は悲しそうに、そう言った。
「陸…」
心配そうに陸を見つめていた。
そして、そっと陸の手をとった。
「わかったから。柊の傍についてるから。だから安心して」
咲は穏やかに微笑んだ。
「咲…」
陸の目頭がじんわりと熱くなった。
なぜ、柊が咲といて安らげるのか…わかったような気がした。
「ありがとう」
そう言ってうつむいた陸は瞼を閉じる。
一筋の涙がポツリと落ちる。
「本当にありがとう」
陸は涙を拭きながら言った。
部屋の中がオレンジ色に染まっている。
柊が目ざめて一番に思ったのは、それだった。
横になって見上げた天井が夕陽に照らされ、オレンジ色に染まっていたのを見て、そう思ったようだ。
そして、次に気づいたのは誰かの手の暖かさだった。
柊の手は顔の横にあり、誰かにしっかり握りしめられている。
それと同時に、柔らかい髪の感触が柊の手と顔に触れていた。
誰だろう?
その手の持ち主が誰か確かめようと、顔を傾けると、そこには咲の顔があった。
「…!」
今、少しでも動けば、鼻が触れそうな距離に咲の顔はあった。
予想以上に近すぎて、柊は驚き息を飲んだ。
咲は、柊の手を握ったまま床に座り、ソファーにもたれるようにして眠っていた。
床に絨毯が敷き詰められているとはいえ、寒くなってきている今の時期では、直に座っているいたら足が冷えるだろう。
それにも関わらず咲は、無防備とも思える寝顔で気持ちよさそうに眠っていた。
なんとなく咲らしいと、柊はクスリと笑った。
眠っていても、柊の手だけはしっかり握られている。
あたしがついてるから…
そう言ってる気がした。
「ありがとう」
柊は微笑んだ。
もう少し、このままでいよう
そう思って咲を見つめていると、咲が目を覚ました。
咲が目を開けると、至近距離で二人の目が合う。
「…」
柊は目をそらすことも、言葉を発することもできず、ただただ咲を見つめていた。
「柊…。目が覚めたの?」
寝起きのぼんやりした眼差しで、咲は言った。
「ああ」
咲は体を起こすと、眠そうに目をこする。
それでも柊の手は、握ったままだった。
「咲。ずっと、ついててくれたの?」
「うん。陸がついててって。詳しいことは教えてくれなかったけど」
「そっか。ありがとう」
「でも、良かった。元気になって」
咲はニッコリ笑った。
その笑顔になんとなく安心して、柊は笑顔で返す。
咲は握った手に力を入れた。
「咲…?」
「何があったか知らないけど。あたしは柊の味方だからね。辛い時は一緒にいるからね!」
咲は柊を真っすぐに見て、そう言った。
その曇りのない瞳は純粋で、嘘で濁ったところが欠片もなかった。
「ありがとう。咲」
柊は穏やかな笑顔で言った。
「さあ、帰ろうか。ずっと床に座ってたから、足冷えただろ?風邪ひくよ」
笑顔で言うと、咲の手を取り立ち上がる。
「あ…。そういえば床冷たいかも…」
柊はクスクス笑った。
「咲らしい」
「それ、どういう意味よ?」
「自然体ってこと」
「意味わかんないわよ?」
「そのままの咲でいいってこと」
そう言うと柊は歩き出す。
「え…」
咲は呆然と立ち尽くす。
「咲…?行くよ」
「う…うん」
咲は歩き出す。
そのままの咲でいい。
そんな言葉を、今まで誰からも言われたことがなかった。
自由奔放に生きてきて、それを許さない周りの人間からつつかれてきた。
気楽に生きてると思われ、心に刺さるようなことも言われてきた。
いつの間にか、それでできたコンプレックスを隠すように、何があっても明るく元気に振舞っていた。
気が付くと人前で、泣きたい時に泣けなくなっていた。
誰にでも心を開けず、泣くことができない。
だから、泣けない柊を見た時、自分を見ているようだった。
それで、思わず”悲しい時は泣いていいの”と柊に言っていた。
本当は辛いのに笑ってる自分を、誰にもわかってもらえないのが寂しかった。
柊は、咲のこんな気持ちなんてわかってないのかもしれない。
それでも”そのままでいい”という柊の言葉は咲を驚かせた。
まるで心の中が見えているんじゃないか…と思った程だった。
それと同時に、不思議と胸がいっぱになった。
目頭が熱くなり、涙が零れそうだった。
しかし、咲は、その涙を呑み込んだ。
そして、いつも通りの笑顔に戻る。
ある日の昼下がり、ガラス張りの大きなビルの中に柊たちは入っていった。
そこは、とあるテレビ局のビルだった。
これから、トーク番組の撮影で岩倉真知子が、このテレビ局にいることを調べ、SCAR盗難事件の手がかりを手に入れるために会いに来た。
普通に電話しても、まともに取り合ってくれるか微妙だったので、とりあえず幹に調べてもらい。
アポなしで会うことにした。
テレビ局に入ったのは、柊の他に陸、勇輝、そして咲だった。
柊と一緒に歩く咲を…なんで一緒に来るんだよ?と言わんばかりに陸は睨みつけている。
咲はというと、笑顔の柊と話しながら歩いていた。
柊のボーディガードになれる程の能力があるわけでもなく、どう考えても戦力外の咲が一緒に来るのは、足手まといでしかないはずだった。
しかし、着いていきたいという咲を説得できなかった柊は、渋々、咲を連れてきた。
だが、渋々にしては楽しそうに見える。
陸は笑顔の柊を見て、ため息をつく。
「どうしたんです?ため息なんかついて」
勇輝が心配そうに言った。
ゴツい体に不似合いな、素朴な優しさの籠った言葉だった。
「僕を心配してくれたのか。ありがとう」
陸は元気なく言った。
「本当に何かあったんじゃないっすか?」
さらに心配そうに陸を見た。
「ごめん。ちょっと疲れてるんだよ。たぶん…」
そう言うと陸は笑顔で誤魔化した。
「そうっすか。なら、何かあったら俺に任せてください。陸さんは無理しないでください」
勇輝は笑顔で言った。
「勇輝~。おまえって本当、いいやつ!」
陸は目をウルウルさせた。
テレビ局の正面玄関を入ると、すぐに広いエントランスになっている。
色んな人が入り混じるようにして歩いている。
撮影用の衣装なのか、江戸時代の着物を着ていたり、中世のドレスを着た人や、ピエロの格好や着ぐるみのクマやパンダなど、様々な格好の人が歩いている。
そこは現実を感じさせない異世界のような場所だった。
そのエントランスは奥に受付があり、左側にエレベーターがあり、右側が階段になっていて二階に行けるようになっていた。
受付には栗色の髪に眼鏡をかけた青年の先客がいて、受付嬢に何かを聞いていた。
TシャツにGパンという、ごく普通の格好をしていた。
青年は受付嬢に頭を下げると、受付から離れていく。
衣装でも入っているのか、多きなシルバーのトランクを持っていて、トランクに着いているキャスターがカラカラと音をたてていた。
その荷物とラフな格好から、芸能人の付き人のように見えた。
柊は、その受付の前まで行くと立ち止まった。
「こんにちは。久我柊といいます。受付には連絡がきていると思うんですが」
「久我様ですね。常務から連絡がきています。岩倉真知子様の控室は、階段を上がった正面通路の三番目の部屋です」
「ありがとう」
そう言って穏やかに微笑むと歩き出す。
後ろで見ていた咲が興味深々柊に歩み寄る。
「顔パス?柊。すごい!」
「ここの常務が仕事上の知り合いなんだ。連絡は幹にしてもらったんだけどね。アポは無理でも、控室は教えてほしいって」
「さすがね~!本当に柊は社長だったのね!」
咲は感激して、そう言った。
「ちょっと、待って。俺が本当に社長だったって?それ、どういう意味?今まで信じてなかったの?」
柊は苦笑いした。
「だって、社長って感じに見えない。なんていうか、偉そうにしてなくて。話しやすいし」
咲は笑顔で言った。
それは…咲が我儘で、俺の話を聞いてくれないから聞くしかないだけなんだけど…
そう思いながら微笑む。
「何よ?バカにしてる?」
「いや。咲らしいと思って」
「それ、どういう意味よ?」
咲はムッとしたように頬を膨らませた。
「いい意味」
そう言うと柊は笑う。
咲は我儘だけど、今まで社長という肩書を持つ俺に、こんな態度とる人間なんていなかった。
一人の人間として見てもらってる気がして、嬉しさが込み上げていた。
そんな楽しそうな二人を、ムッとしながら見ている陸がいた。
勇輝は視線の先にある柊と咲の姿を見て、陸の元気のない原因に気が付いた。
そうか、陸さんは咲さんが好きなのか…
勇輝は、うんうんと頷いた。
なかなかの天然ボケである…。
「咲さん、可愛いすっからね」
勇輝がポツリと言う。
「え…?」
陸は引きつった表情で、そう言った。
何をいってるんだ?勇輝は…?
「いやいや。違いますって。俺は咲さんのこと何とも思ってないっす!」
じゃあ、どういう意味?
陸の心に微かな疑問を残しながら、その会話は終わった。
それから柊たちは階段を上がると、正面通路に向かって歩く。
程なく、柊たちは手前から三番目の部屋にたどり着いた。
ドアをノックする。
「誰?」
「久我柊といいます」
「誰だっけ?新しいスタッフ?いいわ。入って」
「失礼します」
ドアを開けると、部屋の奥のソファーにぽっちゃりしたスーツを着た、中年女性が座っていた。
パーマのかかった肩までの長さの髪に、少し厚めの化粧をしている。
それが岩倉真知子だった。
「あら?スッタフじゃないの?あたしのファン?」
「あの、岩倉さん。お忙しいところ、すいません。私はアスピレイションの社長で、久我柊といいます。この隣にいるのは真島咲。友人です」
いつもと違い、自分のことを”私”といい模範的な言葉使いをする柊を咲は、違う人間を見るような気持ちで見ていた。
柊は咲を紹介すると、後ろにいた陸を見た。
「彼は朝倉陸。私の執事です。その隣にいるのが三上勇輝。彼も私の友人の一人です」
僕だけ執事…
そりゃ、執事だけどさ…
なんとなく陸の中では、納得いっていないようだった。
「今日は、あなたに聞きたいことがあってきました」
柊が穏やかに言うと、岩倉はニッコリ笑った。
「若くてイケメンの質問なら何でもOKよ!」
世の女性の代弁者としてテレビに出て、貫禄のある存在感を見せている女性評論家の岩倉真知子だったが、そのイメージとは裏腹に軽いノリだった。
かなりのギャップだが、これが彼女の素のようだ。
「ありがとうございます」
内心引き気味だが、それを悟られないように極めて穏やかに言った。
「それで?何を聞きたいの?」
岩倉は腕組みをして、何でも聞いてちょうだいといわんばかりに自信満々な顔で言った。
「あなたはライトワークスの代表の一人ですよね?」
「ええ」
「ライトワークスでは、惨禍の日について調べているとか?」
「よく知ってるわね」
「はい。調べましたから」
「で?何が知りたいの?」
「実は、ある場所から大量のSCARが盗まれたんです。あるメッセージを残して」
「どんなメッセージ?」
「世界の悪夢はここから始まる」
「なるほどね…。ライトワークスが、惨禍の日の集団射殺に使われたSCARを盗んで、政府に抗議するって思ったのね?」
「はい」
「残念だけど。それはライトワークスの仕業じゃないわ。あたしたちは確かに惨禍の日の真相を調べてる。でも、あたしたちがやろうとしているのは、真相を突き止めて惨禍の日を起こした人間の責任を追及すること」
「だとしたら、SCARは誰が?」
「わからないわ。でも…」
岩倉は目を細める。
「でも?」
「赤木が
「赤木って、ライトワークスの代表の一人の赤木啓ですか?」
「そうよ」
「その…。もし良ければ、赤木さんに会わせてもらえませんか?」
「啓に?忙しいらしくて、中々連絡がとれないのよ。電話しても、連絡があるのは早くて数日後、遅ければ数カ月かかることもあるのよ」
「そうか。困ったな」
「赤木はフリーの雑誌記者なのよ。取材で忙しいと連絡はほとんどとれない。家にもほとんどいないし、家に帰るとしても、着替えを取りに帰る時ぐらいかしら。すぐに連絡とるのは難しいわ」
「家には帰ることがあるってことですね?」
「ええ」
「それなら家の住所を教えてください。赤木さんが返って来るまで家の前で待ちます」
「本当にいつ帰るのかわからないのよ。それでもいいの?」
岩倉は困ったように言った。
「はい。何にもしないよりましです。ですから、お願いします」
「それで、いいなら…」
岩倉はAI搭載のカードホンを取り出した。
略して”カドホ”。
名刺ほどの大きさの3ミリ程度の厚さのカードだ。
「ナビ」
『何か御用でしょうか?』
カドホから、ボーカロイドのような声がする。
岩倉のAIのようだ。
「赤木の住所を出して」
『かしこまりました』
宙にディスプレイが表示される。
赤木の住所が表示されているようだ。
「あなたのカドホを出して」
「あ…」
柊はためらうように目を伏せる。
「あの、住所のデータなら僕のカドホで受け取ります」
陸は柊の前に出て、岩倉の前に立った。
「あら、執事の。そうよね。あなたのような人なら執事を通すのが普通よね。ごめんなさい。つい、話しやすくて」
「いいえ。こちらこそ、先に気がつかなくて、すいません。執事としては、まだダメダメですよね」
陸は笑顔で言った。
陸のカドホで、赤木の住所データを受け取る。
「ありがとうございます」
陸はニッコリ笑顔で言った。
「いいのよ。あたしとしても、ライトワークスが犯人だと思われたままじゃ困るから。あたしの方でも、赤木と連絡をとってみるわ」
「助かります」
そう言うと陸は柊を振り返る。
少しぼんやりしていた柊だが、陸の視線に気づくと岩倉に笑顔を見せた。
「陸。ありがとう。岩倉さんも、ありがとうございます」
「いいのよ。でも、今度からは真知子って呼んでよね。堅苦しいのは撮影の時だけで十分よ」
岩倉はニッコリ笑った。
岩倉の控室を出て、柊の隣を歩いていたのは勇輝だった。
咲は陸と一緒に、柊達の後ろを歩いていた。
なんで、おまえが俺の隣を歩いてるんだよ?
陸はムッとしながら歩いていた。
「陸…。さっき、柊って、おかしかったよね」
咲がポツリと言った。
なんだ、聞きたいことがあったのか
柊の隣を歩かれるよりましか…
「カドホの話になった時のことを聞いてるの?」
「そう。なんか辛そうだった」
相変わらず変なとこで敏感で、変なとこで優しくて…
これが女の感ってやつなのか…?
などと考えながら陸は咲を見た。
「柊のカドホのAIは、アスピレイションのメインサーバーのAIなんだ。つまり、いつでも会社情報と繋がれるようにしてあるんだけど…」
「そうなの?でも、使ってるとこ見たことないよ」
「使わないようにしてるんだよ。柊は」
「なんで?使った方が便利じゃない?」
「アスピレイションのAIと直接会話すると、思い出したくないことを思い出すんだ。それが辛くて…」
そう言いながら、陸は労わるような目で前を歩く柊を見た。
陸の心配とは裏腹に、勇輝と楽しそうに会話している。
「そっか。じゃあ、しょうがないよね」
詳しい事情も聞かずに、納得する咲に陸は戸惑う。
「え?それでいいのか?よく納得できるな?」
「うん。だって、しょうがないでしょ。誰だってあるよ。思い出したくないないこと…」
「そうだな。誰でも…」
陸は父親が亡くなった日のことを思い出す。
あの日、陸の父親は柊の両親と一緒に車に乗って、政財界の要人の集まるパーティー会場に向かっていた。
その途中で、乗っていたAi搭載車のAiが暴走し、とあるビルに突っ込んだ。
陸の父親は柊の両親を助けることもできず致命傷を負い、柊の両親共々病院に搬送されて亡くなった。
父親が亡くなる朝、陸は父親と電話で話をしていた。
執事としての研修が終わり、やっと来週から久我家の執事として父親と一緒に働けるという内容だった。
陸の父親は、とても喜んでいた。
そして”よく頑張ったな。陸”と、何よりも嬉しい言葉をもっらたばかりだった。
それなのに…その日の深夜、陸は電話で父親が亡くなったことを知らされた。
「ねぇ…!陸!」
ぼやりしている陸の耳に、咲の声が聞こえた。
「あ…。咲…?」
「どうしたの?ぼんやりして?」
「何でもない…。大丈夫」
そう言って笑った陸の笑顔は、少し痛々しかった。
その時だった。
不意に銃声が聞こえた。
そして、次の瞬間、目の前を歩いていた柊が膝をついた。
「柊…」
咲と陸には、その光景がスローモーションのように見えていた。
柊の左の二の腕から、血が流れるのが見えた。
「柊…!」
咲と陸が駆け寄ろうとすると、勇輝が柊を床に伏せさせた。
「二人とも伏せて下さい!狙撃されますよ!」
そう言われて、とっさに反応したのは陸だった。
咲に覆いかぶさるようにして、床に伏せる。
「ちょっ…!ちょっと!何よ?」
「文句いうなよ。狙撃されたいのか?」
「イヤ!」
「じゃ、静かにしてろよ」
「わかったわよ」
咲はしぶしぶ、そう答えた。
「勇輝。柊の傷はどう?」
「弾は貫通してます。とりあえず、傷口を圧迫して止血してます」
「よかった…」
陸はホッとため息をつく。
咲は間近にいる陸の心臓の鼓動の早さに気づいていた。
冷静に見える一連の行動の中で、陸の心臓の鼓動は早くなり、動揺しているのがわかるほどだった。
それが柊の傷の状態がわかった瞬間に、心臓の鼓動が落ち着いていくのがわかった。
それだけ、柊を大事にしてるんだ…
そう思いながら、陸の顔を見た。
周囲を警戒しながら、陸は何かを探しているようだった。
そして、ある一転で視線が止まる。
エントランスに幾つかある大きめの観葉植物の内の一つの陰に、隠れるようにして銃を構えている人物がいた。
サングラスをかけ、ベージュのジャケットを羽織っているのが少しだけ見えた。
その銃は紛れもなくSCARだった。
「SCAR!」
今すぐにでも捕まえたい!
陸は、そんな衝動にかられた。
狙撃した犯人は観葉植物に隠れながら、正面玄関から堂々と逃げていく。
その姿が見えた時、陸は立ち上がり走り出す。
「勇輝!柊をたのむ!」
「待て!陸!」
陸は柊の言うことも聞かずに、犯人を追いかけた。
階段を降り、正面玄関から出る。
犯人が走り去った方向に走る。
しかし、さっきのサングラスと、ベージュのジャケットを着た人物は見つからない。
おかしいな…こっちの方に来たはずなのに…
結局、見つからずテレビ局へ戻る。
エントランスには警察が駆けつけていた。
柊の姿は見当たらず、勇輝が警察の事情聴取に答えていた。
「勇輝!柊は?」
「あ!陸さん!咲さんが付き添って救急車で病院へ向かいました」
「そうか…」
「君も事件現場にいたのかい?」
事情聴取をしていた警官が言った。
「はい。犯人を追跡しようとしたんですが、逃げ足が早くて…」
「そうか。良かったら、何があったから詳しく聞かせてくれないか?」
「はい」
そのまま、陸と勇輝は事情聴取で三時間程、テレビ局から出られなかった。
「そんな顔するな」
穏やかに笑って言ったのは柊だった。
病室のベッドに横になって、点滴を受けている。
左の二の腕に巻かれた包帯が痛々しかった。
病室は個室ながらに、フカフカのソファーやバストイレ付きの、ホテル並みのVIPルームだった。
病室には入院している柊と付き添いの咲、お見舞いに来ていた陸と勇輝がいた。
中でも陸は思いつめた顔をしていた。
「執事の僕がついていながら…。柊にケガをさせるなんて…」
うつむいた陸の声は震えていた。
「陸」
「はいっ…」
「自分のせいにするの禁止な」
柊はニッコリ笑って言った。
「でも…」
「でも…も、なし!いつもの陸に戻ること。いいな?」
「柊…」
「ケガも大した事ないし、退院したら赤木を探そう。その時は陸を頼りにしてるからな。それまでに立ち直っとけよ」
柊は微笑んで言った。
「柊…」
陸は目をウルウルさせた。
二人の様子を見ながら、咲は花瓶の花を見ていた。
窓際にそって連なっている、低めの収納棚の上は何でも置けるようになってる。
その丁度、真ん中に大きな花瓶が置いていあり、色とりどりの花が活けてあった。
「ねぇ、勇輝」
「はい」
勇輝は人懐っこい笑顔で返事をした。
「この花瓶の水を替えたいの。手伝って。あたし一人じゃ持てないから。見てよ。この大きさ…」
咲は両手を腰に充てて、ため息をついた。
「確かに~。咲さんのような、か弱い女性には無理ですね。俺に任せてください!」
「でしょ?」
咲は嬉しそうに言った。
勇輝は自覚していないが、かなり口がうまい。
特に女性に対してなのだが、ガサツな女性さえも、大人しい乙女にしてしてしまう程、効果絶大だった。
勇輝は花瓶を抱えると、咲に人懐っこい笑顔を見せる。
「さあ、いきましょう。咲さん」
「ありがとう。助かるわ」
咲は、柊と陸を振り返る。
「花瓶の水を替えてくるから。陸。柊のことみててね」
「花瓶の花を替えるなんて、咲らしくない。屋敷にいる時は、花瓶の水なんて変えたことないのに…」
陸は不信そうに咲を見た。
「陸。ちょっと、軽くケンカ売ってる?」
咲は陸を睨みつける。
「お~。怖っ!」
「ケガ人のいる部屋の花瓶よ。清潔にしとかないと、体に悪いでしょ?」
そう言うと、咲はそれ以上何も言わずに病室から出て行った。
「あれ…?」
まだ突っかかってくると思っていた咲が、あっさり引いたので、陸は拍子抜けしたようにポッカリ口を開けていた。
「陸は咲と仲いいな」
柊はクスクスと笑った。
「仲良くなんかありませんから。変なこと言わないで下さい」
「看護師さんから聞いたけど、咲はずっと俺に着いてたみたいだったから疲れてるんだろ。だから、いつもより大人しいのかもな」
「そうですね。気を使うなんて…咲らしくないし」
柊は楽しそうに笑った。
「でも、良かった。咲のお陰で、陸が元気を取り戻せたみたいだ」
「柊…」
「病室に入ってきた時の陸の顔を見た時、どうしようかと思ったけど。これで安心して療養できる」
「心配かけてたんですね。僕」
「そりゃそうだろ?陸は執事でもあるけど、俺の家族でもある。心配しないわけがない」
そう言うと柊はニッコリ笑う。
陸の目に涙が滲んだ。
柊の言葉が嬉しくて、ホッとした。
しかし、陸は涙を堪えた。
今の状態の柊に涙を見せて、更に心配させたくなかった。
代わりに最高の笑顔を見せる。
「柊に執事以上に思っててもらえるなんて、なんか…嬉しいな」
「家族だからな」
柊は穏やかな笑顔で言った。
花瓶の水を替えるために、病院の廊下を歩く咲と勇輝の姿があった。
「どこまで行くんですか?」
「病棟の端よ」
「そんなところまで行かないと水を替えられないんですか?毎日の水替えが大変ですね」
本当は清掃の時に、花瓶の水を替えてくれる。
だから、花瓶の水を替える必要はないのだが。
咲は遠くなった柊の病室を見た。
「咲さん?」
「そうよね。遠いよね。じゃ、病室に戻ろうかな」
「え…?」
勇輝は茫然として立ち止まった。
「病室に戻るのよ。勇輝」
「でも、水は?」
「今、思い出したんだけど…。柊の病室ってバストイレつきなのよ。よく考えたら病室で替えられたのよね」
「咲さ~ん!」
「ごめん!」
咲は胸の前で両手を合わせ、謝る素振りをする。
咲たちが柊の病室の前まで来ると、陸が出て来た。
「咲。水替えは終わったのか?」
「聞いてくださいよ。陸さん~」
勇輝が話に割って入ってきた。
「わかった。わかった。後で聞くから、その花瓶を病室において来い。高価な花瓶らしいから、割ったら弁償するのが大変だぞ」
「え!本当ですか?すぐ置いてきます!」
勇輝は病室に入っていった。
「元気になったみたいね」
咲はニッコリ笑った。
その言葉を聞いた瞬間、陸は全てを悟った。
「咲。おまえ、柊と僕を二人っきりにするために…?」
「花瓶の水替えなんて嘘よ。だって、陸、死にそうな顔してたんだもの」
「イヤ…。重い空気が嫌で逃げ出したんじゃ?」
「失礼ね」
咲は陸を睨みつけた。
「で?これから、どこに行くの?執事が主から離れていいの?」
「一度、勇輝を連れて屋敷に戻る」
「そう」
咲は陸の顔を覗き込むように見た。
「なんだよ?」
「らしくない。赤木の所へ行くんじゃない?」
「なんで、そう思う?」
「だって、柊が一番大事な陸が、傷を負った柊を置いていくはずがない」
「…」
陸は困ったように目を細める。
「柊には黙っててあげる」
そう言うと咲は病室の方を向いて、陸に背を向け歩き出そうとした。
「咲…」
咲は立ち止まる。
「咲の言う通りだ。僕は赤木の家に行ってみようと思う。だから、柊のそばにいてやってくれないか?僕に何かあったら…」
「柊には言ったの?」
「言ってない。言えば止められる。でも、急がないと、また柊が狙われるかも知れない」
「そうね…」
「だから、柊には黙っててほしい」
「いいよ。でも、条件がある。ちゃんと戻ってきなさいよ。何かあって戻れないなんてダメ!」
咲は陸の方に向き直る。
「陸は優秀なボディーガードでもあるんでしょ?いつもは柊を守ってたのかもしれないけど、今度は自分を守って」
「咲…」
「約束できないなら、今すぐ柊に言ってくる」
咲は真剣だ。
目を見れば、そのことがよくわかった。
陸は、ため息をつく。
「わかったよ。約束する」
「本当に無事に帰ってくるのよ」
「約束は守るよ」
陸は咲には、かなわないな…とでもいうような笑顔で言った。
「じゃあ、約束ね」
咲はニッコリ笑って言った。
「心配するなって、必ず帰ってくるから」
いつもは冷めた視線しか咲に向けていなかった陸だったが、今は自分のことを心配してくれる咲に、本心からの笑顔を見せていた。
とある住宅街の一角に、そのアパートはあった。
二階建てで、八部屋あり、何十年か前に建てられた古いタイプのアパートだった。
二階の階段を上って二つ目の部屋、それが赤木の部屋だった。
陸と勇輝はAi搭載車でアパートに着くと、車をアパートの向かい側の喫茶店の駐車場に停める。
「勇輝。喫茶店に入っててくれないか?僕はアパートの赤木の部屋に行ってみる」
「それなら、俺も行きますよ」
「僕一人でいい。部屋の様子を見てくるだけだから。岩倉真知子のいう通りなら、赤木は家にはいないはずだ」
「様子を見るなら俺が行きますよ」
「ありがとう。でも、僕は…」
陸はうつむく。
「柊を守れなかったから、自分でできることは自分でやりたい。ただ、じっと座って待ってるなんてできない」
陸の握りしめた拳が震えていた。
柊を守れなかった悔しさと、そんな自分を責める気持ちが、何もしないことを許さない。
それだけ陸にとって柊は特別だった。
「陸さん…」
「ごめん。悪いけど喫茶店で待っててくれ」
陸は無理に笑顔を作って言った。
「わかりました!俺待ってます」
勇輝は思いやりを込めた笑顔で言った。
「ありがとう」
陸は笑顔で言うとアパートに向かった。
陸がアパートに向かい階段を上りきるまで、勇輝は駐車場から陸の姿を心配そうに見ていた。
階段を上がりきったところで、勇輝は喫茶店に入っていった。
陸さんなら、きっと大丈夫
自分にそう言い聞かせて。
二階に上がった陸は、赤木の部屋の前で立ち止まった。
何の変哲もない、普通のアパートの一室に見える。
しかし、陸は微かな臭いに気づく。
煙…?
いや、火薬の臭いだ
誰かが銃を撃った?
陸の顔に緊張が走る。
陸がドアノブに手をかけると、鍵はかかってなかった。
警戒しながら陸は、ゆっくりとドアを開けていく。
部屋に入ると、そこは1DKだった。
入ってすぐにキッチンがあり、窓際にベッドがあり、本が部屋の壁に沿って積み上げられ、撮影機材らしいものがあった。
服をかけたハンガーが、適当に積み上げられた本に引っ掛けられていた。
そして、部屋の中央に血まみれで誰かが倒れているのが見えた。
もう、息はしていないようだ。
死体という方がしっくりくる。
その死体はサングラスをかけ、ベージュのジャケットを着てた。
「え…」
陸は、テレビ局で柊を狙撃してきた犯人の格好を思い出した。
間違いなく、今、目の前にある死体と同じ格好だった。
そんな…
誰がこんなこと…?
陸は混乱し、ただただ死体を凝視していた。
そして、困惑して後ずさりをした時、自分の背後の気配に気づく。
しかし、気づくのが一瞬遅かった。
振り返ろうとして、陸は頭を殴られ気を失った。
陸に言われ喫茶店に入っていた勇輝は、タピオカミルクティーを注文し、それが目の前に運ばれて来ると目をキラキラさせた。
子供が欲しかったオモチャを手に入れたように、夢見るような顔でストローをくわえた。
そして、ストローから吸い上げると、モチモチのタピオカとミルクティーが口の中に流れ込んでくる。
その瞬間、勇輝は何ともいえない幸福感に包まれた顔をする。
その顔は少し間が抜けているようにも見えるが、幸せに浸る顔とはこんな感じだろう。
まさに骨抜き状態だ。
「おまえ、何やってんだ?」
呆れたような声が聞こえる。
勇輝はこの声に聞き覚えがあった。
ゆっくりと顔を上げると、そこには冴月が立っていた。
「冴月さん!」
勇輝は驚いて、タピオカミルクティーから離れた。
「おまえ、それが好きだったのか?それ、女に人気あるヤツだろ?」
「ええ~!見てたんですか?いつから?」
「それがおまえの目の前に運ばれてきた時から」
「わ~!マジですか?」
「ああ、マジだ。ずっと見てたが、おまえ変顔大賞とかあったらでれるぞ。おまえが、それ飲んでる顔、見てて面白かったな~!」
そう言うと冴月は笑った。
勇輝は顔を真っ赤にして小さくなった。
「冴月さん、このことは…」
「わかってるって、他の自衛官には言わないって」
「ありがとうございます」
勇輝は深々と頭を下げ、ほっと息をついた。
「ところで、冴月さんは、なんでここにいるんですか?」
「柊から連絡があってな。可愛い執事が主に黙って動いてるから、手助けしてやってくれって…。あれ?そういえば…陸は?」
「陸さんなら、赤木のアパートに…」
勇輝が言いかけた時、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
2台のパトカーが赤木のアパートの前で止まる。
「なんでパトカーが?」
勇輝は立ち上がった。
「陸はアパートにいるって言ってたな?ヤバい感じだな。来い!勇輝」
アパートに向かう冴月を追うようにして、勇輝は走っていく。
アパートの階段を上がり二階へ向かう。
赤木の部屋には、すでに警官たちがいた。
「何だ?君たちは?」
「ここに知り合いがいるはずなんだ。中に入れてくれ!」
「ダメだ。ダメだ」
冴月が掛け合うが、警官は聞き入れてそうもない。
「勇輝!」
勇輝は冴月の呼びかけに頷いた。
そして、入り口にいる警官を押さえつけた。
「冴月さん!行ってください!」
「サンキュー!」
部屋に入ると、血まみれの死体の側で拳銃を持って倒れている陸の姿が見えた。
「陸!」
冴月は陸に駆け寄る。
その冴月を二人の刑事が押さえつける。
「君は、こいつの知り合いか?」
そう言ったのは、倒れている陸の傍にしゃがんでいた中年の刑事だった。
「そうだ。どうしてこんなことに?」
「それは、こっちが聞きたい。玄関にいる君の仲間と一緒に署まで、ご同行願おうか。この二人を連れていけ!」
「くっそ!冴月さん!」
「勇輝!もう、手を上げるな!俺たちは知り合いを探しに来ただけだ。警察の妨害をしにきたわけじゃない。ここは大人しく警察に従おう。柊たちに迷惑がかかる」
「冴月さん…」
勇輝は、押さえつけていた警官達を離す。
「いい心がけだ」
警官達に促され、冴月と勇輝は部屋を出て行こうとする。
「牧村警部。拳銃を持って倒れてる、この男はどうしますか?」
「頭を打ってるようだ。救急車を呼んで、警察病院に搬送しろ。逃げられないように厳重に見張りをつけるのを忘れるな」
「はい」
”牧村警部”
勇輝は、その名前を聞き逃さなかった。
それから、冴月と勇輝は警察署へ連れていかれた。
幹の働きかけもあり、冴月と勇輝は事情聴取のみで、すぐに解放された。
しかし、警察病院に搬送された陸は、殺人現場で凶器の拳銃を手に握っていたことから、重要参考人として逮捕されることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます