第5.5話 優等生の仮面(舞side)

「あぁ〜、やった、やってしまった!!」


政宗と別れたあと全速力で家へと向かう。


「こんどの日曜日、デートの約束をしてしまった!きゃ〜!!」


軽い悲鳴じみた声を出しながら走る。


「なにを着ていけばいいんだ?あと、店内のどこに行ったらいいんだ?柿永たちの言う通りにやってまったぁ!」


一種の後悔ととてつもない幸福感から感情がぐちゃぐちゃになっているのが自分でもわかる。

それほどに緊張しているのだ。

大体、異性と遊びに行くとか初めてだし・・・。

というか恋というものをしたことが初めてだし・・・。


「き、嫌われないようにしなければっ!」




気がつけば家の前だ。

どれだけ考えごとをしていたのか。

考えるだけ無駄だな。


「ただいま帰りました」


扉を開けると同時に声を出す。

すると


ドダダダダダダダダ!!!


ものすごい2つの足音が聞こえてくる。


「お姉様、おかえりなさい!!」

「ねぇちゃん!おかえり!」


私より3つ下の現在中学3年生の双子の姉弟が走ってくる。


「ただいまだ。海、空」


2人して目をキラキラさせている。

めちゃくちゃ可愛い。

シスコン、ブラコンとでも言ってくれたまえ。


2人を連れてそのままリビングへと入る。


「母様、ただいま帰りました」

「おっかえり〜舞ちゃん!今日の晩御飯はハンバーグだぞぉ?」


既に40過ぎというのに老いを感じられないこの女性は私の母である。

私の父の秘書といった職業に就いている。


そしてそのまま着物を着て、椅子に座っている父の元へ。


「父様、ただいま帰りました」

「うむ」


このいかにも厳格そうな男性は私の父である。

だが、見た目とは裏腹に実はものすごい親バカということを知っている。

ちなみに父様は天上院グループの1番トップ。

つまり社長をしている。


私は日課である両親への挨拶を済ませ、自室へと戻る。

その際、海と空がしつこく言いよってきたが疲れが溜まっているという口実でそそくさ戻ってきた。

少し胸が痛む。

許せ、2人とも。


部屋に入るとそのままベッドへ倒れ込む。


「はぁ〜!!で、でーと。えへへ」


笑みがすごい溢れてくる。

顔が熱い。

そのまま手と足をバタバタさせる。


今思えば政宗とは1年以上の付き合いになるのか。

私が2年の時は生徒会役員として。

そして3年生の現在は生徒会長として。

初めは政宗のことも嫌っていたな。

いつからだっただろうか。

政宗のことが気になりだしたのは。







私は今まで何度も告白を受けていた。

最低でも50回近くは告白されたと思う。

でも、全て断っていた。

恋というものを経験したことがなかった。

男子の目線は全て私の胸部へと向けられていた。

だからだろう。

私は男子という生き物が恐くなった。


「女は自分の欲求を満たす為の道具」


というイメージすら持っていた。


だからできる限り男子と接するのは少なくした。

それでも告白の数は減らなかった。

あろうことか日に日に数は増えていった。

私の胸へと刺さる目線も増えていった。


私がもうあと一歩で男子に絶望しそうになった時


彼に出会った。


彼は成績優秀の優等生という点から教師に半ば無理やり生徒会に入れられた。

初めはやはり男子ということで警戒していた。

極力話さず、目も合わさず、視界にすら入れようとしなかった。


ただ、小さい部屋に一緒にいるわけであって。

同じ生徒会役員ということもあって。

事務的な会話をする時はやはり自分から話しかけるしかなかった。

どうせまた下心丸出しの視線を向けられるんだろうと諦めた状態で話しかけた。

でも、それは杞憂だった。

何度話しかけても彼は全然そんな視線を私に向けなかった。

下手をすれば私のことを異性として認識しているかどうかすらも怪しいレベルだった。


いっつも返事は


「はい」

「了解です」

「すみません」

「そうですね」


質問したことにはきちんと応答していた。

でも、この四択のうちのどれかから選ばれていたかもしれないと錯覚するほどに静かだった。


彼は今までの男子とは少し違うのかもしれないと思った。


それから私は少しずつだが、彼に話しかけることが出来るようになっていた。

1日、また1日と話す回数、時間も増えて行った。

気づいた時には彼に対する警戒心は全て消え失せていた。

むしろ、彼のことをもっと知りたい。

もっと一緒にいたいとも思ってしまった。

彼のことを独占したいとすらも思ったこともある。

これが男嫌いの私が初めて男子に恋をした瞬間だった。






そして気がつけば他の男子ともある程度は話せるようになっていた。

ほんと政宗には感謝してもし切れないな・・・。

あいつがいないと今の私はどうなっていたことやら。

きっと男子を心底軽蔑し、汚物を見るかのような目で睨んでいたことだろう。

やはり政宗には感謝しかないな...。


政宗はすごい。

ほんとにすごい。

容姿もこれでもないくらいに整っているし、頭脳、身体能力、共に学園トップレベルだ。

これだけでも十分すごい。


でも、私が政宗のことをすごいと思うことは他にもある。


彼は誰に対しても接する態度が変わらない。


そんなことが?と思うかもしれない。

でも、案外これが出来る人は少ないと思う。


この歳になれば教師やスクールカースト上位の生徒に気に入られようと媚びを売る者共が多数存在する。

私だって何度も見てきた。

そんな彼らはまるでなにかに怯えているかのような、恐がっているような気がした。

すごく息苦しそうだった。

そんな生活を送って楽しいのか?と思った。

1度聞いてみた事がある。


「そんなに毎日媚びを売って苦しくないのか?」


と。


それに対して返ってきた答えが


「天上院さんみたいに美人でなんでも出来る人にはわからないよ」


だった。


私はすごく可哀想に思えた。

上から目線かもしれないが、誰かの顔色を常に窺いながら生活を送るなんてとても大変でとても疲れると思った。

でも、その代償を払って生徒たちは内申点を上げたり、クラスでの地位を確立していると思うと何も言えなかった。

それは彼らが望んでやっていることであって私が口出しを出来る範囲ではないから。

彼らのプライベートまではいくら私でも干渉してはいけない時があるから。


でも政宗は違った。


教師にも、スクールカースト上位の生徒にも、静かな生徒にもお年寄りにも、子供にだって接する態度は変わらない。

傍から見たら偽善者に見えるかもしれない。

でも、彼をよく知る私からみると彼は心の芯をブレさせていないだけ。

要は自分の信念を貫いているだけのように見えた。


そんな頑なな覚悟、誰も見捨てたりしない優しさ、そして自分の考えを曲げようとしない強い意志を持つ彼は輝いて見えて、すごくかっこよかった。

彼と友達になれてすごく誇らしかった。

そしてできれば彼と恋人になり、もっと彼のことを知りたいとも思ったし、彼の信念というものも覗いて見たくもなった。


断言しよう。

私、天上院 舞は井原 政宗に恋をしている。

自分でもどうしたらいいか分からないくらいに彼に好意を抱いていると。


私はベッドから立ち上がり、決意する。


必ず、政宗と恋人になってみせる。

必ず、振り向かせてみせると。


「そのためにはまずは今度のデートだな!頑張るぞ!!」












「なぁ、海ねぇ。デートだって・・・」

「そうだね、空。どうしようか・・・」

「「・・・・・・・・」」

「「決まってるよね・・・」」







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どうもお久しぶりっす。

読んでいただき感謝です!

今回の話から執筆名を変更させて頂きました!

ご了承ください。

今回の話はなかなか書くのが難しくて変なところもあると思いますが許してください。

これからはクリスチーネ田中もとい気候カナタががんばっていきますのでよろしくです!

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