第24話 大嫌いだけど



ノックもせずに黒瀬さんの部屋に乗り込み、俺は無愛想に言った。



「写真集、見せてもらいに来たんですけど」



対する黒瀬さんはいつものごとくヘラヘラと笑っている。



「嫌だなあ、俺が写真集なんて持ってるわけないじゃないか」



……わかってたよ、そんなこと。



「じゃあ、用はないですよね。俺、部屋に戻りますね」

「待ってよ。本当、つれないんだから」



踵を返そうとすると呼び止められた。要するにただのかまってちゃんなのだ。



「なんなんですか?」

「一人じゃ眠れないから、理由つけてリュウ君のことを呼んだんだよ。わかるでしょ」

「……仕方ないな。特別に添い寝してあげますよ。三万円で」

「後払いでいいんだろ? はやくこっちにおいでよ」



そう言って枕をポンポンと叩いた。僕はため息をひとつつき、黒瀬さんの隣に潜り込む。



「君はなんでもかんでも疑うけど、俺は本当にさみしいんだよ。そろそろわかってくれない?」

「さみしいって何がですか?」

「一緒に寝ないこと」

「また、そんな馬鹿みたいなこと言って……」

「真面目に言ってるんだけど。俺はいつでも、リュウ君が俺から離れられなくなればいいって思ってるんだけどな」



なんだよそれ。言いかけた言葉は、唇で封じられた。



「……わかんないよね?」

「わかりたくもないです」

「はは、君らしいな」



愉快そうにそう言うと、黒瀬さんが突然馬乗りになって来た。身をよじってみたものの、すぐに両手首を掴まれる。



「リュウ君、好きだよ。君も俺のことが好きだろ?」



悔しいから、絶対に頷いてなんかやらない。



「なあ、好きって言えよ」



鳥肌が立った。俺はこの人には叶わない。それはなぜか、好きだからだ。

……好きになってしまったからだ。







「ん……ダメ、あっ」

「女の子みたいに声出してさ、リュウ君っていけない子だよなー」

「やめ……て、んんっ」

「本当にやめるけどいいの? よくないよね」



快感に、目尻から涙が頬を伝った。黒瀬さんは逃げようとする俺の腰を掴んで、気持ちいいところを的確に突いてくる。身体から力が抜けて、俺は、なにもかもがどうでもいいような気持ちになっていた。



「なんだよ自分の部屋って。ふざけるな。毎晩俺のことをひとりにして、そんなことが許されると思ってるのか」

「ご、ごめん……なさ、い」



嫉妬だろうか? 黒瀬さんの俺に対する執着の正体は、いったいなんなんだろう。

とにかく、彼に孤独を感じさせたことが気に入らないらしい。



「謝ったって許してなんかやらない。俺はずっとずっと、リュウ君を傷つけながらリュウ君に傷つけられてきたんだ」



その言葉を理解する前に、俺は身を震わせて、身体の芯が溶け出すような快感に身を委ねた。

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