第14話 レイニー
完全に絡め取られてしまっている。あのダメな大人に振り回されることに慣れてしまっているのだ。または、惚れた弱みだ。
思い出すのは、雨の中にしゃがみこんでいた姿。
あの人は何を思って、その薄茶色の瞳から、涙を流していたのだろうか。
「神様は不公平だ。俺がいくら愛しても、俺が愛している人は、俺のことを愛してはくれないんだから」
俺が愛している人。
俺は、レイコという、黒瀬さんの心を捉えて離さないあの女の姿を思い浮かべる。
愛して愛して愛している相手は、自分が最も欲している居場所を与えてはくれない。
見返りのない愛は、ただ行き場をなくして消えるのを待つだけだ。
そこにあるのは圧倒的な孤独。
あの人はいま、自分がひとりぼっちだという現実を、泣きながら噛みしめている。
「…くそっ」
そんなの俺も一緒じゃないか。
俺のことを恋人って言ったのはあんただろう。
レイコの代替品なのはわかってる。あの女に振り向いてもらえないから、街で俺のことを気まぐれに拾っただけだってこと。
でも、こんなの、フェアじゃない。
雨音にかき消されそうなほど小さな声で、俺の名前を呼んだ、あのかすれた声。
涙と雨で濡れた黒く長い睫毛。
傷つけられているのはいつだって俺の方なのに、被害者ヅラしているあの人の様子を思い出すとなぜか、どうしようもないくらいに、泣きたい気持ちになった。
◇
ふいに背後に気配を感じて、振り向くと黒瀬さんが立っていた。着替え終わったようだ。
俺は、黒瀬さんと向き合うように立った。
「…何かあったなら、言ってください」
少しだけ後悔をする。またこうやって、自分はこの男を助けようとしてしまうのだ。
こんなときこそ突き放して傷つけてやりたいのに、いつもこう。
やっぱりフェアじゃない。むかつく、死ねばいいのに。
だって俺が辛いときに、この人はきっと助けてはくれない。
「…別に、なにもない」
「嘘ついたら殴りますよ」
間髪を入れずに言い返す。
黒瀬さんはしばらく迷っていたようだが、俺の目が本気であると悟ったのだろう。
バツが悪そうな顔で、渋々話し出した。
「玲子から電話が来た」
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