第15話 レイニー
はあ、とため息をひとつ。細い肩が呼吸に合わせて動く。
「久々に声を聞いて、他愛もないこと話してたら実感した。遠くから想っていられればいいと口では言っていても、その想いに囚われている限り、俺は孤独だ。そしてそれがすごく悲しいことだと、これまで気がつかなかった。ほんと、馬鹿だよねえ…」
「…それで俺を呼び出して、雨の中で待ってたんですか?」
「そういうことになるね、簡単に言うと。人恋しくなっちゃったんだ。あ、いま、面倒な大人だなって思ったでしょう?」
黒瀬さんはふざけたように頬をふくらませてみせた。この人のこういうところが、俺はよくわからなかったりする。
とても子供じみたことを言うかと思えば、次の瞬間には恐ろしいほど冷たい顔をする。
その不安定さが底知れない魅力でもあった。
「ねえ。ひとつ聞いてもいいかな」
「はい」
「リュウくん、」
俺は黒瀬さんの泣き笑いにも似た表情に惑わされながら、ぼんやりと考えた。
愛というのはとても恐ろしいものだ。
いくら願っても止まらないし、全力で押さえ込んでも簡単に溢れ出す。
「俺がさ、君のこと本当に好きだって言ったら、どうする?」
「……え?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。なんとか状況を整理しようとする。
―おれを、すきだと…くろせさんが…?
動揺しなかったと言えば嘘になる。なんなら頰も少し紅くなっていたかもしれない。
しかし薄茶色の目をみれば、すぐに分かってしまった。
さっきまでの悲しい顔とは打って変わって、いつもの楽しそうな最低な笑みを浮かべている。
そう、これは愛の告白などではない。
この人は単に俺をからかいたくて、こんなふざけたことを言っているのだ。
一瞬でも思考をからめとられたことに腹が立つ。
なんだか無性に悔しくなって俺は機嫌の悪さをむき出しのまま言い返した。
「そんなふざけたこと言えてるうちは心配なんかしてあげませんよ」
「…冷たいなあ。傷ついたよ」
ヘラヘラと笑う顔は、ちっとも傷ついているようには見えない。
むかつく。今すぐ死んでほしい。
いつものようにそんなことを考えて、しかしすぐに思い直した。
―こうやって誰かを蔑んでいるほうが、まあ、この人らしい。
だって最低の人間なんだから。
俺は目を伏せた。
打ち明けられたあの日のことが、脳裏に蘇る。
『俺の愛は少しおかしいのかもしれない』
『本当は、好きな人がいるんだ』
クロセレイコ。
黒瀬さんの、実の妹。
ー雨はまだまだ止みそうにない。
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