第11話 やさしい殺し方で

リュウくんといると、なんだか傷つけたくなってしまう。

弱いくせに、脆いくせに、それでも震える足で立ち続けようとする意志の強さ。

無様なまでに心を砕かれて、それでも俺を愛そうとするしたたかさ。

それが可愛くて、愛しくてたまらない。

そんな綺麗で真っ直ぐな彼を、傷つけて跪かせて、取り返しのつかないほどぶっ壊してしまいたくなる。



「それはどうかな。でもひとつだけ言えることは、俺は、リュウくんを愛してるよ、心から」

「そりゃあ…俺も、愛してますけど」

「じゃあいいんじゃない?愛する相手になら、殺されたって」



にっこりと笑ってそう言った。それを見て、彼はわずかに眉をひそめる。

俺の言葉には、常に罠が張り巡らされている。

彼はそれをかわすこともあれば、引っかかることももちろんある。

けれどそのどれもが実に面白くて、俺はいつまでたってもこの遊びをやめられそうにない。


いつまでもふざけている俺に対し、はっきりと怒りの炎を瞳に宿らせる。



「それだけは嫌です。黒瀬さんの手にかけられるのだけは、絶っ対に嫌だ」



あまりにも嫌悪感むき出しで言うから、俺は思わず吹き出してしまった。

おかしいな…これじゃあやっぱり、愛されているのか憎まれているのか、よく分からない。

まあ事実上付き合っているんだから、俺たちは相思相愛に違いないんだろう。

だから、正解。と、心の中でつぶやいた。


ここでもしリュウくんが、「黒瀬さんになら殺されてもいい」なんてほざいたとしたら。俺はもう彼への興味を失ってしまったかもしれない。



君は、俺のことなんて信じなくていいんだ。

疑って、軽蔑して、恐れて、それでもどうしようもなく好きで…

そんな葛藤の中で生きているリュウくんのことが、俺は愛しいんだから。

だって俺のことを好きな君は、いくら傷つけられても立ち上がって、再び俺を愛そうとするだろう?



「だいたい、なんで殺そうとするんですか。俺、こんなの趣味じゃないし」

「好きすぎてさ、いじわるしたくなっちゃうんだよ」

「だから限度超えてますってそれ!…俺だって、黒瀬さんにもっとやさしく愛されたいのに」



伏し目がちなリュウくんは、やっと本音を言えたみたいだ。

まったく甘えるのが下手だなあ。

それにしても、俺の精一杯の愛は、どうやら届いていないみたい。

俺は傷ついた君が大好きで、だから何度も殺しかけてしまっているというのに。

分かってないんだから。

分かってくれなくてもいいんだけど。



そんな君のことを、俺が愛してあげよう。

いつか本当に殺してしまうようなことがあったとしたら、そのときは、やさしい殺し方で。

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