第10話 やさしい殺し方で


幸せな夢を見た。


黒瀬さんが、俺を愛してくれる夢。

やさしく微笑みかけて、頭を撫でてくれて―

深く深く、彼に愛される夢。


涙が出そうなくらい、幸せだった。

溺れてしまいそうなほどに。


溺―…



「げほ、げほごほっ」



あまりの苦しさに激しくせき込んで、俺は現実に引き戻された。

右目から涙がほろりとこぼれる。

すると、すぐそばで耳慣れた声がした。



「あ、リュウくん!起きた」



薄く目を開けるとそこには、俺に馬乗りになっている黒瀬さんがいた。









「危なく殺しちゃうところだったよ」



にっこりとほほ笑んで、俺はリュウくんの首を絞める力を緩めた。

そのまま一筋だけあふれた涙を、左手で拭ってやる。


しかしリュウくんは起き上がる様子もなく、鋭い眼光で俺を睨みつけている。

いいなあ。この顔が愛しいんだよなあ。

ついつい意地悪したくなっちゃうんだ。



「最近、限度超えてきましたよね」



むすっとした調子で呟いて、彼は小さくため息をついた。

俺はあくまでふざけ通したい気分だったから、わざとしらばっくれることに決める。

リュウくんはいちいち反抗してくれるところが可愛い。

からかうと怒るけど、結局は俺のことが大好きなんだよね。



「限度?どういうことかな」

「さすがに今のは殺す気だったでしょう?…げほっ」

「そんなわけないじゃないか。俺は君のこと、大好きなんだからさ」



悪意なんてかけらもないよ。そう続けて、その猫っ毛をやさしく撫でた。

だってこれは愛ゆえの行動なんだから仕方がないだろう?

触れた手は案の定すぐに払われてしまったが、彼のこういうつれないところも、俺はとても気に入っている。


「にやにやしないで下さいよ、気持ち悪い」

「酷い言われようだなあ。恋人だろ?」

「その恋人を、たったいま殺しかけたのは誰っすか」



そこでいったん言葉を区切って、リュウくんは続けた。



「…ああ、俺、」

「なに?」

「いつか本当に、黒瀬さんに殺されそうだ」



真っ直ぐに、こちらを見つめる瞳。

この言葉は、俺を煽っているのか、試しているのか。

それはわからないけれど…本当におもしろいな、リュウくんは。



その鋭い勘は、一向に俺の期待を裏切らない。

だからまだまだ興味が湧いて、俺は君に首ったけなんだ。分かるかな?

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